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「ってことで、リーグで優勝するまで家に入れんからな!!帰ってくんなよ!!」 バターン 無情にも家の扉が大きな音をたてて閉まる。 声の主である男は更に鍵までかけた。 放りだされた人物は銀色の髪に紫苑の瞳。 中性的な容姿は服装によってよりよく男子に見せている。 尻持ちをついた状態で見上げるは、今まさに追い出された自分の家。 いや、その瞳に見えたのは追いだしてくれた雷親父だろうか。 そしてその傍らに。 「ポチャー?」 ペンギンのようなポケットモンスター、ポッチャマが無邪気にも首を傾げていた。 可愛らしい、が、無邪気過ぎる。 追い出された人物はその姿を見て。 そして周りに散らばる、あの雷親父の出した適当な旅道具を見て。 そして今一度追い出された扉を見て、溜息交じりにガックリと項垂れた。 「……なんでこんなことになったんだ……」 この人物、名前をという。 フタバタウンというシンオウ地方の田舎にあたるこの町の雷親父(町役員)、ザンキの一人娘。 母はとっくのとうに他界し、男手一つで育てられたためか女という性別に無頓着で、男勝りに育ってしまった。 また、彼女を取り巻く幼馴染が単純で思い経ったらまず実行という突発直進型、一応思慮深く冷静だが好奇心に負ける結局行動型の二人の男子。 そのため彼らに振りまわされてしまい、お陰でで彼女は「行動したらロクなことがないので面倒臭いから不実行型」に育った。 そんな彼女が家を追い出された理由。 それはやはり、幼馴染がきっかけであった。 「…ハァー…たりぃ」 溜息交じりに、そこらに散らかったモノを片付けていく。 お気に入りの大きめの四次元のポシェットに好きなモノだけ入れていく。 キャンプセット、着替え、救急箱、用品、財布、保険証…。 こんな短時間でよく父は用意したものだ、とも思う。 (まさかいつか追い出してやろうなんて考えてたんだろうか、あの親父は) 本当は旅になんか出たくない。 夢だって幼馴染二人のように「トレーナーになりたい!」など立派なものはない。 (ちなみに夢は「適当に生きて適当に死ぬ」という夢にもならないものだ) 予定では死ぬまでこの町を出るつもりなんてなかった。 (面倒くさいし) 「あーあ…ジュンの野郎がシンジ湖に無理やり行くだとかゴネやがって…!コウジも好奇心に負けやがって…!!湖に行かなけりゃこんなことにはならなかったのに…っ!」 片付けていくうちにイライラが募る。 テレビ番組に踊らされて近くの湖に行ったのがそもそもの間違い。 嫌がるを無理に引き連れていくのは嫌がらせか、それとも一緒にいたかったのか。 どちらにせよ、それがかくかくしかじかでこんなことになろうとは思わない。 「…ポチャー?」 「…ああ、お前のせいじゃないよポチリ。うん、アイツらが悪い」 もしかしてボクのせい?とばかりに首を不安げに傾げるポケモンのポッチャマに、はグリグリと頭を撫でてやった。 というか、可愛いので八つ当たりも出来ない。 いや、勿論このポケモンも無理やりな旅の原因の一つだが。 溜息交じりに、面倒そうな顔のままでも撫でられればポッチャマのポチリは喜ぶ。 (ちなみに名付けたのは勿論だ) (ネーミングセンスがないのは仕方がないことである) 大したことはしてないというのに、懐かれてしまったものだ。 あまりの懐かれ具合に再び溜息を吐くをよそに、準備の終えた彼女の胸に飛び込んだ。 胸のないそこにダイブしても面白くもないだろうに、ここは自分の定位置だというようにひっつく。 「…ポチリさん。ボールの中には入らんのかね」 「ポチャ!」 「…そないですか」 どうやらボールの中よりはにくっついていたいらしい。 幼いのか何なのか、どうやら甘えたがりのようだ。 可愛いものは嫌いではない。 (むしろ好きだ、顔には恥ずかしいから出さないが) 再び溜息を吐きながら、はポシェットを腰に巻き付けた。 そして近所の「昔はトレーナーだったんだぜ!」と威張りくさるお兄さんの格好いいベルトをつける。 (モンスターボールをつけるようになってる上にゴツゴツしたパンゴシック調が格好良い) (しかしどうやら自分のお腹の具合を考えていなかったらしく、使えなかったらしいので貰ったものだ) 「…ハァ、やれやれ、どっこいしょ」 オッサン臭い声をあげながら立ち上がる。 そこらにいらないモノとしてあげられるものが散らばっているが、それは後で親父が回収してくれるだろう。 (というか、してくれなければ困る) ポチリは未だに胸にくっついたまま。 は両手で抱えるようにすると、彼(ポチリはオスである)は嬉しそうにクルリと前を向いて、の両手に手を引っ掛けるようにして落ち着いた。 「ハァ…しゃーねえ。行くかー」 「ポチャ!」 「まぁ、この家に戻るためにリーグに行くよか、どうにか適当に稼いで生きてけりゃいいか」 「ポチャ!?」 リーグに行って帰ってくるのが目的じゃないのかよ。 ポチリの驚きの声には一切触れず、タルタルと歩き出す。 何の目的よりも、どれが一番面倒ではないかを選ぶ。 それがである。 「あらー、ちゃん!」 「…あー、おばさん」 歩くスピードが遅いため、近所の奥さんに捕まった。 幼馴染1の突発直進型であるジュンの母親だ。 彼女はどこか落ちつきのない声で、を呼びとめていた。 「ちゃん、ジュン見なかった?」 「えー…隣の町から全く見てないっすけど」 あの元凶は隣の町でナナカマド博士のところでぶつかってから会ってない。 ちなみにもう一人の幼馴染も博士のところから帰ってくるときまで一緒だったのだが、もう旅立っただろう。 冷静に見えてコウジも好奇心が強いため、サクサクと今頃ヒコザルを連れて次の町にでも行ってることは予想出来る。 ジュンの母親はどこか残念そうに「そう…」と自分の手元を見た。 「やっぱりもう行っちゃったか。コレ渡したかったんだけど…」 どうやら渡したいものがあったらしい。 残念がるおばさんを見て、はとにかく流そうと試みた。 優しい人だったら「自分が届けましょうか」とでも言うのだろう。 だが、は極度の面倒くさがり。 例え誰かのためになろうとも、自分から面倒を背負うのはゴメンだ。 (特にあのせっかちのジュンを追うなど言語道断である) 「今度帰ってきたときにでも渡せばいいんじゃないっすかね」 「そうねー。でもそれじゃ遅いと思うのよー。あの子誰に似たんだかせっかちでしょ?思いこんだら止まらないし、そうなったらこっちに戻って来るの大分先だと思うの」 「あーそうっすねー」 ちなみにアイツが似たのはアンタです。 そうとも言えず、ひたすら此方に面倒ごとが来ないように流す。 しかし。 「ちゃんはこれから旅に出るのよね?」 ヤ バ イ 。 こういう展開になると、絶対にこれ届けてという流れになる。 は心の中で青ざめながら「はぁ」と素っ気ない返事を口から零した。 そして続きに「ではそろそろ行きます」と言おうとした時だった。 「この荷物、悪いんだけどジュンに届けてくれない?」 「…………」 (やっぱりか!!) ちゃっかりウインク付きで頼まれてしまった。 しかもこのおばさんの頼みを断ったところでどうなるか分かったことではない。 何せ、ジュンの母親である。 あのせっかちの、この旅の原因の、アイツの、激似の母親。 「………………わかりました」 「ありがとー!!助かるわー!!」 ガックリと項垂れながら、弱弱しく了承するの気持ちなど無視しておばさんは喜んだ。 そう、あのジュンの母親らしい。 自分に都合のいいものしか見えないのだから。 ちなみに腕の中のポチリはこの状況を理解していない。 「それじゃあ、コレ!お願いね!!」 「…ハイ、ワカリマシタ」 「ちゃんは本当に良い子ね〜!助かるわ〜」 いや、どう見ても嫌がっているので良い子とは言えない。 彼女でない人なら素直にそう感想を零すのだろうが、思い込みの激しい彼女なのでしょうがない。 半ば押しつけられる荷物を受け取り、それを四次元のポシェットに入れる。 おばさんは、というと。 「それじゃちゃんも旅、頑張るのよ!」 「はぁ」 「じゃーねー!!」 用は済んだ、とばかりに去っていった。 まるで台風だ、あの家族は。 溜息が一層重くなる。 今日は一体何の厄日なのだろう。 朝一にあの雷親父に起こされ、だらだらしすぎだと怒られ、タンスに足の小指をぶつけ、ゲームのコードに引っ掛かって転び、食べてたお菓子は味が甘すぎたし。 あの怒りのギャラドスだかというテレビ番組は結局見つからなかったというオチだし、それに挑発された幼馴染は好奇心を持つし。 シンジ湖で一騒動起き、その謝罪に隣町の博士の元へと行って詫び、無理にポケモン図鑑を渡され。 戻ったら何故かあの雷親父がコトを知っていて、家を追い出され。 仕舞いにはジュンの母親に荷物を持たされ、アイツがどこにいるかもわからないのに追うことになってしまった。 は日が暮れていく町を見る。 綺麗な赤が、疲れで滲んで見えてきた。 「……朝になる前に着けるんだろうな、隣町」 「ポチャ!」 「…うん、ポチリさん。さすがにダッシュとか無理だから。俺にそんな情熱ないから」 の心とは逆に、ポチリはやる気があれば出来る、とばかりに元気に手を挙げた。 勿論、そんなことまでして隣町に行きたいとは思わない。 ポケモンセンターで野宿を防げるのは嬉しいことだが、急いで疲れるよりはゆっくり行って野宿する方がマシというもの。 とにもかくにも。 「…ハァー…面倒だけど出発しますかー」 「ポチャ!!」 「…あー、たりー」 意気揚々と腕の中で元気な声を出すポチリを見ながら、は再びタルタルと歩き出した。 見慣れた田舎町を背に。 ![]() 面倒臭い主人公がゲームにはいなかったので← ダイヤモンドなのは、管理人がリセットをしても良いゲームだからです。 |