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炭鉱はポケモンセンターの近くにあった。 朝九時から重機の音が鳴り響く程。 しかしこのポケモンセンターはそれを見越してか遮音の壁らしく聞こえてこない。 というわけで、が起きたのは。 「…ん、いつものごとく昼だ…」 勿論朝起きて皆の朝ごはんを作ってから寝た。 久しぶりのお昼に起きる感覚は、満足のいくもの。 もそもそとお昼(朝)御飯を皆で食べて、出発の用意をする。 「あら、おそよう君」 「あー、おそようございますジョーイさん」 ちなみにクロガネシティのジョーイさんは、コトブキシティとマサゴタウンの姉妹の従姉らしい。 少し厭味の含まれた言葉に、も何気なく返す。 勿論、の情報を彼女は知っていた。 「これから炭鉱見学?」 「うっす」 「そ。深夜までには帰ってくるのよ?明日は早く起こすんだから」 「……ウース」 これはもう、ジョーイさん家系全てにの情報が知れ渡っていると思っていいかもしれない。 また昼に起きれないのか…と心底ガッカリしながら、ポケモンセンターを後にした。 センターを出れば響く重機音。 近くの炭鉱から発せられている音だ。 これでも昔よりは小さいらしく、街の人々は普通に会話出来ている。 これがまた凄いところだ。 「あー、良い天気」 昼まで休んだせいか、疲れは取れている。 ポケモン達も同じようだ。 「リーィ!!」 「イシイッシ!!」 「リンク、ツブテー。元気になったからって調子に乗んなよ」 仲良い兄弟組はいつにもまして元気。 スボンヌは朝から窓辺で日光浴をしていたため、機嫌が良い。 ポチリも楽しそうに腕に抱かれている。 頭の上のクーリは一つ大きな欠伸をする。 至って、平和だ。 炭鉱と書かれている場所に入ると、一層重機の音が大きくなる。 土の色も変わり、そこらに大きな山が積まれていた。 ズリ山、というらしく炭鉱で掘った土を積んでいるのだとか。 地方で名前が違うらしく、ホウエンという地方ではボタ山というらしい。 近くにいた作業員が得意げに教えてくれた。 「君も炭鉱見学?素晴らしい!実に素晴らしい!そうやって色んなものを見て色々思うのはいいことだよ!」 「はぁ、どうも」 実はジムリーダーさんを探しに来ました、とも言いにくい。 とりあえず見学だということにして、とポケモン達はその穴への入り口を潜った。 狭い炭鉱の道にいるのは作業員。 そして目立つのは。 「フガッ!」 「グゴッ!」 ワンリキー達だ。 ここで働いているらしく作業員の人達と一緒に頑張っている。 さすが筋肉があるポケモンであるとも思う。 そして。 「おじさん、働いてる最中だけど戦っちゃうぞー!」 「…仕事しろ」 働いてる最中だというのにバトルを仕掛けてくるおじさんが多々。 トレーナーを見ると血が騒ぐらしい。 その情熱を是非とも仕事だけに向けてもらいたいものだ。 巻き込まれるこっちが嫌だ。 「…今回はクーリとポチリとスボンヌが大活躍だな」 「…クルー」 「ポッチャ!!」 「スミスミ」 格闘ポケモンには鳥系の技が良く効く。 そして岩ポケモンには水や草の技が効く。 今回は彼らの活躍の場だ。 クーリは面倒臭そうに声をあげるが、ポチリは任せといて!とばかりに拳を上げた。 (拳が作れていないのがまた可愛い) スボンヌはいつもどおり「あらあら」とばかりにホエホエしたまま。 そんな彼らとは逆に、今回仕事がないリンクとツブテは不貞腐れながらも、じゃれることをやめない。 楽観的な子達で良かったと思う瞬間である。 「…それにしても…すげぇな」 真っ黒になりながら、炭鉱を進む。 まさに男たちの職場だ。 いや、勿論女性が入っていてもいいのだが、何というか、汗臭いというか。 真っ黒になりながらも懸命に働いている男の人達はどこか格好良い。 が感心していると、まだ若い青年が落ちてきた岩を見つめていた。 「…あ、君見学者の子?」 の視線に気付いた青年は笑顔で話しかけてきた。 眼鏡をしていて、どこか知的な雰囲気を帯びている。 しかし、そこかしこで働いている人達より少しひょろい。 「…あ、はぁ、そうですけど」 しかしここで働いていることには変わりないのだろう。 とにかくそう答えれば、彼は満足そうに微笑んで目の前の岩を見つめた。 「ちょっと見ててね!」 「…はぁ」 何が始まるんだ。 何かのショーか。 生返事を返すの傍で、ポチリやリンクが興味深そうに彼を見つめている。 「秘伝の技、いわくだきを使えばこんな邪魔な岩だって!」 確かに邪魔な岩だな。 そう思った瞬間だった。 バコーンッ 「うあっ!?」 「ポチャっ!?」 「リーッ!?」 いきなり目の前にあった岩が砕けた。 いや、見えていたのは彼が持っていたポケモンがその岩を思いきり拳で割ったところ。 破片があちこちに飛んできたため、はとりあえず腕の中にいたポチリとスボンヌを庇った。 「…っ、リンク、ツブテ、クーリ平気か?」 「リー」 「イシ!」 「…………クル」 庇えなかった三匹の安否を確認する。 どうやら無事らしい。 リンクのことをツブテが固い己の身体で庇っていた。 ちなみにクーリは面倒そうに羽を羽ばたかせて砕けた岩を払っていたらしい。 三匹の無事な姿に、は心底からホッとした。 「こうして落ちてきた岩を砕いておかないと邪魔だからね」 「…はぁ、そうすか」 お兄さんは特に何とも思っていないようで、笑顔のまま。 こっちは驚いて守る態勢に入ったというのに、呑気なものだ。 「君もこの街のポケモンジムでジムバッジを手に入れればこれぐらいすぐに出来るさ!」 その宣伝だったのか。 ただその技を見せたかっただけなのか。 爽やかな青年で悪意がないからこそ、うんざりする。 は溜息交じりで「はぁ」といつものように生返事すると、彼はニッコリと微笑みかけてきた。 「もっとも、ジムリーダーのボクに勝てないとダメだけどね!」 「ハァ………………は?」 生返事の後。 はわが耳を疑って聞き返した。 今この爽やか青年は一体何と言った? ジムリーダーは自分だと言わなかっただろうか。 少し人の迷惑を考えられない青年が? の目が大きく見開かれたのは、次の瞬間だった。 「ヒョウタさーん、こっちの岩砕いておきましたよー」 「あ、ありがとう、コウジ君!」 遠くから走ってくる幼馴染2。 ということは確実にこの人はジムリーダーだ。 何か頭が痛い。 がげんなりしていると、コウジが彼女に気付いた。 「あ、!?来たんだね!!」 「…おー」 岩砕きの手伝いが出来たせいか、テンションはいつもより高めのコウジ。 炭鉱で黒くなったままに抱きついてきた。 テンションが高いとジュンのような抱きつき癖がある。 いつも少し大人らしい彼も、子供らしい。 ポンポンと背中を叩いて離してやる。 「ハイハイ、とりあえず離れて。ポチリとスボンヌが毎度のことながら潰れるから」 「あ、ゴメン!?」 ジュンと違うのはしっかりと礼儀を弁えていること。 身体を離したコウジはすぐさまポチリとスボンヌに謝った。 まぁ、このポケモン達は触られることが好きなのでそこまで嫌悪することはない。 笑顔で「大丈夫」と伝えている姿に、コウジはホッとした。 「コウジ君、知り合いなのかい?」 ヒョウタ、と呼ばれたあの爽やか眼鏡青年が問いかけてくる。 確かに名前がまんまで、ひょろいな、と思ったのは内緒である。 の心情など知らず、コウジは笑顔で応えた。 「はい。僕の幼馴染のです」 「…ああ!君が!」 コウジの紹介で納得する青年。 ということは、について話題が出てたのだろうか。 一体どんなことを聞いたのか凄く怖い。 は顔を引き攣らせてとりあえず「ハァ」とだけ口にした。 「ジュン君やコウジ君から話は聞いてるよ!」 「……どんな話を聞い…いや、やっぱいいです。聞きたくない」 聞きたい。 けど、聞きたくない。 どうせ変な話題なのだろうと踏んで聞かないことにする。 ヒョウタは一歩踏み出して、の手を握った。 所謂、握手である。 「いやぁ、一度会ってみたかったんだ!ジュン君もコウジ君もちゃんの話をするから、どんな子かと思って」 「(ちゃん!?)……はぁ」 ちゃん付けで呼ばれたのはフタバタウンのおばちゃん達以来だ。 基本男勝りで男らしい格好のため、皆「君」や呼び捨てで呼ぶ。 もそれでずっと暮らしていたため、ちゃん付けは慣れていない。 ゾワッという鳥肌を隠しつつ、生返事をする。 「初めまして。ボクはクロガネジムのリーダー、ヒョウタです」 「…幼馴染1と2がお世話になってます、です」 改めて挨拶されれば、挨拶を返すのが基本。 コウジが「幼馴染1と2って何!」とツッコむのを無視して頭を下げる。 ちなみに頭の上のクーリは落ちないようにバランスを取った。 「ちゃんはただの炭鉱見学でこっちに来たのかな?」 握手の手を離して、ようやく話の本題に触れる。 笑顔を崩さない青年に、はここに来た理由を思い出して、口を開いた。 「…あー、いや。…ヒョウタさんを探しに」 そういえばジムリーダーを探していたのだった。 早くジムに戻ってあげてくれ、という意味と。 …面倒だが、バッジを貰う意味。 二つの意味を込めてそう言ったのだが。 「あ、そうなんだ?いやぁ、女の子に探されるっていうのも照れるね」 「はぁ」 何か勘違いしているような気がする。 が、ツッこむのも面倒臭い。 とりあえず流すように返事をすると、コウジが隣から口を出した。 「…っていうか、ジムに挑戦しに来たんだ?」 「おー。面倒臭ぇけど成り行きでな」 これはに対しての質問。 だからこそ彼女も呑気にそう答えた。 …正面のヒョウタが少ししょんぼりしたのは気のせいだということにして。 「…成り行きっつっても…こいつらと、もっと一緒にいたいからっていう俺の我儘で、だけど」 小さく、小さくそう零す。 誰にも聞こえないような声で。 その声が聞こえたのは、誰だったのか。 ただその音の振動は確かに、空気を揺らしていた。 をもっとも信頼する彼らの前では。 「何にせよ、ボクに挑戦しに来たんだね」 ヒョウタは復活して、笑顔で向き直った。 爽やかな顔の中には真剣なものがある。 そして、強さというものが内側から溢れてくるかのよう。 いきなり溢れるプレッシャーに、は喉の奥を鳴らした。 「じゃあジムに戻って待ってるよ。ジュン君にずっとお留守番させちゃってるし」 「……」 しかし、次の瞬間にはその強さを引っ込ませる。 さすがジムリーダーというべきか。 油断出来ない。 が唾を飲む隣のコウジに、ヒョウタは微笑んだ。 「コウジ君も手伝ってくれてありがとう!また遊びに来てね!」 「はい、また来ます!!」 「うん、じゃあね!ちゃんはまたあとで!いつ来てくれてもいいからね」 「…はぁ」 ヒョウタは挨拶だけ済ませてさっさと帰っていく。 どこまでも爽やかな人だ。 その背中を二人で見守っていると、コウジは笑顔で振り返った。 「じゃ、僕もそろそろ行くよ。今度はジュンに遅かったなんて言われたくないしね」 「…お前ら何競争してんだよ」 まるでどちらが早く次の街のジムに挑戦するか競ってるかのよう。 大事なのはそこではないというのに。 心底から呆れていると、コウジは苦笑を零した。 「男には、負けられないときがあるんだよ」 「…あそ」 ただの徒競争でそんなに熱くなれるのが羨ましい。 口にはしないまでも、はのんびりとウキウキしている彼に目をやった。 「じゃあね!頑張って!」 「…あいよー」 満足したのか、コウジは去っていく。 頑張る、というところで返事をしてしまったは溜息を吐いた。 頑張る、なんてものを胎内に置いてきたというのに。 面倒なことになったもんだ。 とにかく、バッジを手に入れなくてはならなくなってしまった。 「…ハァ。ま、どうにかなる精神でやるかー」 「ポッチャ!」 「リ!」 「…クルル」 「スミスミー」 「イッシ!!」 の言葉にそれぞれ返事が返ってくる。 どうでも良さそうな声あり、やる気満々の声あり。 どちらにせよ、戦う意思はある。 は全員を見回して、呆れにも似た笑顔を送ったのだった。 ちなみに。 「少年ー!!おじさん手が空いたから勝負だー!!」 「仕事しろぉぉぉ!!!」 帰り際も作業員のおっさんに絡まれたのは、予想外だった。
『いわくだき』とか岩が飛び散って危ないんじゃね?と思ったり、炭鉱で働いている人はバトルしてる場合じゃないじゃん!って思って作りました。 それにしても、ヒョウタって細くない? |