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「ようこそ!クロガネシティポケモンジムへ。ボクがジムリーダーのヒョウタ!」 「…それさっき聞いたんすけど」 ポケモンセンターで一度回復してから来たジム。 既にジュンは出発したらしい。 ブランケットは一体どこへ行ったのだろうか。 そんなことは誰も答えてくれない。 そして中に入って短パンの少年二人を倒し、奥へと進むと先程会った彼がいた。 ここで、冒頭に至る。 「いやぁ、一応言っておかないと調子出ないからね」 「…そっすか」 それならしょうがない。 が、やはり呆れが入ってしまう。 爽やかな笑顔のままのヒョウタは、静かに腰のベルトに繋がれたボールを取り出した。 「ボクは岩タイプのポケモンと共に歩むことを決めたトレーナーさ」 「……それ、正面のオッサンがお節介混じりに教えてくれたっす」 「もー!あのおじさんはいつもそうやってボクの台詞無くそうとするんだから!!」 のつっこみに、彼は嫌そうにジムの入り口にいる中年の男性を睨みつけた。 彼は一応アドバイス役を仰せつかっているらしい。 しかし、色々と喋りすぎる節がある。 何せ弱点タイプまでペラペラ話すのだ。 ヒョウタの睨みにおじさんは冷や汗を流しつつ、知らんぷりをする。 それを見た彼は溜息を一つ吐いてから、調子を持ち直して口を開いた。 「さてと、ちゃん!君のトレーナーとしての実力、そして一緒に戦うポケモンの強さ、見せてもらうよ!女の子だからって容赦はしないからね!」 「…はぁ」 女の子を強調するのは何なんだろう。 は少し口を引き攣らせながら、腕の中にいた二匹のポケモンを地面に置いた。 今回の主役は勿論、岩タイプに強い草タイプのスボンヌ、そして水ポケモンのポチリだ。 はしゃがんで、二匹の顔を見比べた。 バッジを賭けた戦い。 これを得られれば、まだ、この子達と旅が出来る。 一緒にいられるための、戦い。 この想いは、強い。 「……頼んだよ、スボンヌ。ポチリ」 「スミー」 「ポッチャ!!」 己の我儘だと思っても。 それでも、面倒でも何よりも一緒にいたい。 紅の瞳で、二匹を見る。 彼らもまた、笑顔で返事を返した。 「じゃあ、行くよ!!」 ヒョウタがボールを投げたのが合図。 それを見たはすぐに、最初に出すポケモンの名前を呼んだ。 「スボンヌ!!」 「スミ」 最初に舞台に上がるのはスボンヌ。 そして彼の方は。 「イッシ!!」 イシツブテ。 岩ポケモン中の岩ポケモン。 ツブテは自分と同じポケモンであることを知って、少し驚いたようだ。 だが、その迷いは一瞬。 ツブテを先頭としたのポケモン達は声援を送った。 「……やるね」 第一戦、第二戦のイワーク共にスボンヌが『すいとる』『メガドレイン』という草タイプの攻撃をひたすら行った。 お陰でここまで勝ち進めることが出来た。 順調、とも言える。 が、は顔を顰めていた。 このままスボンヌでも戦える。 だが、次のポケモンはヒョウタにとっての最後のポケモン。 つまり、要だ。 簡単に勝たせてくれるポケモンではないことは誰だって分かる。 だったら、そろそろ此方も真打ちのポチリを出したい。 だが。 (…くっそ……第一戦のときのイシツブテが『ステルスロック』かましてくれたお陰でポチリが出せねー…) ネックなのは、第一戦でイシツブテが出したステルスロックという技。 あちこちに尖った岩をばら撒き、交代して出てきたポケモンにダメージを与える技だ。 あの場に出せば、必ずダメージを喰らう。 そんな場所に、ポチリを放りだせない。 「…ボクはズガイドスを出すよ。君はどうする?」 「……」 わざわざ次に出すポケモンを教えてくれるのは余裕の表れか。 それとも、の心情を理解してか。 どちらにしろズガイドスというポケモンも分からない状態で、このままスボンヌで戦わせるべきなのか。 心が、揺れる。 「…ポチャ!!」 次の瞬間、ポチリが名乗りを上げた。 堂々と前へ出て、手を挙げて宣言する。 「ポチリ…?」 自分は行けとは言ってない。 だが、自分が出ると主張する。 驚くを他所に、ポチリは堂々と前へ出て行く。 尖った岩を、モノともせず。 ダメージを、感じさせないような、堂々とした歩きで。 その姿に、は感情を待たずにすぐに声を発した。 「…っサンキュ、ポチリ。スボンヌ!戻っておいで!!」 「スミ」 迷ってはいけない。 これは負けられない戦いだと、ポチリの背中が語る。 怪我をさせることを恐れていたのは自分だけ。 彼らも戦うと決めたときに、もう心を決めていたというのに。 手のないスボンヌが戻ってくる際、ポチリに笑顔を浮かべる。 そしてポチリも、笑顔を浮かべた。 「…スボンヌ、お疲れさん」 「スミスミ」 戻ってきたスボンヌをギュッと抱きしめる。 二戦も戦ったのだ。 体力は満タンでも疲れているに決まっている。 労いの言葉をかけると、スボンヌは嬉しそうに笑って、いつも抱かれている腕の定位置に落ち着いた。 ポチリの戦いを見るために。 「…君のポケモンは、優秀だね」 「………だろ」 物怖じせず、覚悟を持っている。 とは別の心。 それでも、目的は同じ。 ヒョウタはフワリと微笑んでから、真剣な眼差しでボールを投げた。 「ズガイドス!!」 現れたのはズガイドス、という恐竜のようなポケモン。 頭頂部はまるで頭突きのためにあるよう。 恐らく岩であり、格闘タイプなのだろう。 足も速そうだ。 「…ポチリ!『あわ』!!」 「遅い!ズガイドス、『おいうち』!!」 やはりあっちの方が早い。 声はの方が早かったが、攻撃ではズガイドスの方が速い。 追いうち攻撃を受けてから、ポチリはすぐにその瞬間に泡で攻撃を返した。 やはり岩ポケモン。 泡でかなりのダメージを喰らう。 この『おいうち』と『あわ』の攻撃が続く。 すると、ズガイドスの体力がなくなってきた。 ポチリはまだ余裕がある。 このまま行けるか、そう思ったときだった。 「まだまだ!あきらめない!」 ヒョウタが傷薬で回復させる。 みるみる体力を回復していくズガイドスに、は小さく舌打ちをした。 このまま攻撃するのみ。 ポチリがすぐさま『あわ』を喰らわせる。 「ズガイドス、『ずつき』!!」 「…ポチャーっ」 「ポチリ!!」 しかし、それで体力がなくなるわけはなく、ズガイドスはあの固い頭で頭突きを喰らわせてきた。 それがクリーンヒットし、ポチリの身体が浮く。 体力のゲージが危ない。 普通ならすぐに下げさせるべきだ。 だが。 ポチリの目が輝く。 途端、の判断はすぐに変わった。 「ポチリ!『あわ』をもう一回だっ!!」 「ポチャーーーーーーっ!!!」 危機は最大のチャンス。 が声をあげると、分かっていたかのようにポチリは泡を吐きだした。 それは確実にズガイドスに当たる。 ズガイドスはしばらく立って踏ん張っていたが。 次の瞬間、地面に倒れた。 「まっまさか!鍛えたポケモン達が!」 ポチリは地面に着地し、しっかりと立っている。 判定はまだ出ないのなら手出しは出来ない。 審判たる人物が様子をしばらく見て。 「…ズガイドス、戦闘不能!ジムリーダー、ヒョウタに控えポケモンなし!よって挑戦者であるの勝利!!」 その言葉でようやく戦闘が終わる。 はすぐさまフィールドに駆けだした。 腕の中にスボンヌ、頭の上にはクーリ。 後ろからリンクとツブテが追いかけてくる。 「ポチリ!!」 「ポッチャー!!」 フラフラだが元気そうだ。 は真っ先に膝をついて、抱き上げた。 「お疲れポチリ!!サンキュな!!」 「ポッチャー」 ギュッと抱きしめると、嬉しそうに声をあげる。 スボンヌも勝ったのが嬉しかったため、労いのためにポチリにすり寄った。 とりあえず怪我を治療するためにポチリを床に置いて傷薬を取り出す。 その間、リンクが怪我を舐めたり、ツブテが頭を撫でたりする。 クーリは小さく「よくやった」と言っているような声を出した。 皆が勝利を祝福する。 ヒョウタは彼らを見てから、戦闘不能になったズガイドスをボールに仕舞った。 「参ったなぁ…ジムバッジを1つも持っていないトレーナーに負けちゃったか。うん、それも仕方ない。君が強くてボクが弱かった……それだけだ」 傷薬を塗っているときに、ヒョウタがゆるりと口を開いた。 どこか自重気味に微笑む。 それもそうだ。 昨日、ジュンとコウジに立て続けに負けたのだ。 悔しいに決まっている。 しかしはポチリの傷の手当てを終えると、すぐに声を発した。 「ヒョウタさん、何ボヤッとしてんすか!」 「へ?」 何でここで怒られるのか。 ヒョウタはキョトンとしている間にも、は移動する準備をしている。 片腕にポチリとスボンヌを抱えて、左手を空ける。 そして、すぐに走ってきて、彼の手を取った。 「早くポケモンセンターに行きますよ!」 「え?え?」 「戦闘不能のままじゃ、ズガイドス達可哀想でしょーが!!」 は手を掴むと颯爽と走り出した。 その後ろをリンクとツブテが追う。 驚いたままのヒョウタは引き摺られるまま。 ちなみにアドバイスしたおっさんは「おお勝っ…アレ、どこ行くの」とか何とか言っていたが、スルー。 とにかくすぐにポケモンセンタに駆け込んだ。 「ジョーイさん!ヒョウタさんのポケモンお願いします!早く!」 「あらあらあら、お預かりします」 「え、あ、どーも」 ジョーイさんを急かせば、彼女はすぐに飛んできた。 ボーッとしていたヒョウタはとにかく促されるままにボールを出す。 彼女はすぐに治療室へと走る。 これでもう安心だろう。 はフゥ、と安堵の息を吐いた。 「これで大丈夫っすね…」 戦ったポケモンのことを考えるのはいつものこと。 近くにあった椅子に座るを、ヒョウタはジッと見つめた。 負けたことで頭がいっぱいだった自分を引っ張って、ポケモンの回復に来た。 自分のことを、自分のポケモンのことを思って。 「………ちゃんはやっぱり…ジュン君とコウジ君が言ってたとおりだね」 「は?」 一体何の話だ。 が聞き返すと、ヒョウタはフンワリと優しく笑った。 今までとは比べ物にならないほどの。 満面の笑顔で。 「…ヒョウタさん?」 「アハハ、なんでもないよ」 そう返して、の隣に座った。 距離はそんなにない。 いつの間にこんなに仲良くなりましたか、とが心の中でツッコむ中、彼は懐から何かを取り出した。 「ポケモンリーグの決まりではジムリーダーに勝ったトレーナーにバッジを渡すことになってるんだ。さ。ポケモンリーグ公認のコールバッジ、君に渡すよ!」 「…!!バッジ!!」 このために。 皆ともっと一緒にいるために挑んだバトル。 ポチリとスボンヌ、そして皆の声援があったからこそ貰えるもの。 差し出されたそれを、は震える手で貰い受けた。 手の中に銀色に光る。 弾けば、綺麗な音が響いた。 「そのコールバッジを持っていると、秘伝の岩砕きを使えるようになるんだ!」 そんなことはどうでもいい。 が手にしたかったのは、ポケモン達と共に長く過ごすため。 それだけのために、頑張ってもらった。 我儘の、ために。 腕の中のポチリとスボンヌを、見られても分からないように軽く抱きしめた。 想いだけを、この腕に込める。 ポチリとスボンヌはそれに気付いたのか、すり寄ってくる。 ヒョウタはそれを見ながらも、見ない振りをして微笑んだ。 「あと、これも持っていきなよ!」 「へ?」 こっちとしてはバッジさえもらえればいいのだが。 彼の手には再び、違うものが乗っていた。 七色に輝くCDROM。 技マシンだ。 「その技マシン76の中身はステルスロック!!交代して出てきたポケモンにダメージを与える技だよ!」 「…ああ、あのときの」 ポチリが最初に怪我をした技。 思い出深いそれに、は少し顔を顰めた。 しかし、貰えるものは貰っておきたい。 ヒョウタは気にすることなく、の手を取ってその上に乗せた。 「ポケモンセンターに連れてきたお礼だよ。…ボク、ボーッとしてたからさ、ポケモンのこと、考えられてなくて…」 いや、別に貰うのを躊躇っていたわけじゃないんだけど。 しかしそんなことも言えず、は空気を読んで黙っていた。 ヒョウタは微笑む。 少し、悲しそうな表情で。 「…だから、ありがとう」 ポケモンのことを考えられなくなっていた自分が悔しい。 悲しい。 そしてそれに気付いたことへの複雑な感情。 でも、気付かせてくれたことへの感謝。 ポケモンセンターに連れて来てくれたことへの感謝が詰まっている。 はそんな彼の表情を見て。 いつもの表情で溜息を吐いた。 「…お人好しっすね」 心底から呆れたような声。 はそう言いながら、有難く技マシンをポシェットの中に入れた。 ヒョウタは苦笑を零したまま、彼女のポケモン達を見回した。 全員、笑顔に近い顔をしている。 だからこそ汲み取れる彼らの信頼。 『何もかも面倒臭がってるヤツだけど、人一倍優しいヤツがいるんっすよー!』 『皆に好かれてるんだけど、全く気付かないんです。鈍いにも程がある位』 『自分の管理なってない割には人の世話焼くし!』 『なんだかんだで素直じゃないですし』 『『でも、オレ<僕>にとって、大切な女<ヤツ><ヒト>』』 どこでそんな話題になったのか覚えていない。 だが、あの二人の幼馴染が目を輝かせて言った、彼女の名前。 胸を張って話した、思い出や出来事。 沢山の想いが詰まった、お話。 「……うん、惚れるのも分かる」 「…は?吠える?」 本当のお人好しは、誰なのか。 それが分かった今のヒョウタは、あの二人の言葉に賛同した。 独り言でハッキリと言った言葉も、全く違う言葉に捉えて首を傾げる彼女はやはり鈍い。 きっと、ポケモン達がどんなに好きと表していても、気付かないのだろう。 自分が、ポケモン達を好きだからと考えるだけで。 「…んーん、こっちの話」 「?」 ヒョウタは心から微笑む。 それは彼から溢れる感情のせいか、はたまたあの幼馴染が残した感情を知っているせいか。 それとも、近くのポケモン達の幸せな表情を見てか。 それは、彼のみぞ知る。
管理人のバトルを再現しました。 ダイヤモンドは例え最初にヒコザルを選んでも、スボミーさえ捕まえておけばジム戦はどうにかなったり。 初期のレッドとかでヒトカゲを選んだら大変な目に遭った過去がががが……。 |