「え、もう行くの!?」



ジムの対戦から数週間。
クロガネシティの入り口には二人の影があった。

一人は勿論
そしてもう一人はというと、冒頭の言葉を放った青年。
いつもの工事用ヘルメットを被った彼は大袈裟に驚いた。




「まだクロガネシティをあちこち連れて回ってないのにー」


「いやいやいやいや、人の迷惑を考えず毎日あちこち連れ回してくれた人の台詞じゃねーすよね」



プクッと膨れた青年は勿論、クロガネシティのジムリーダーであるヒョウタだ。
彼は事あるごとに炭鉱見学に連れて行ったり、博物館に連れてってくれた。
クロガネシティの見学もだ。
断っても断っても連れ回してくれた。

…面倒臭いとしては、ハッキリ言って有難迷惑だったのだが。
(表情に出しても全く気持ちを読み取らないあたり、あのジュンと同じような感じだ)



「そろそろ行かないと怒るわよってジョーイさんに言われたんで出ます」


「だったらボクと一緒に住めばいいじゃん!」


「なんでそーなんだ」



この街を出るのは勿論、ジョーイさんの脅しのお陰。
勿論もそこまで留まろうとは思ってない。
(何せどこぞのジムリーダーが毎日来て鬱陶しいし面倒臭い)

これでヒョウタと一緒に住んだらもっと鬱陶しいだろう。
原因の一つである彼に、は呆れた声で返した。



「だってボクはまだと一緒にいたいんだよ!」


「俺はもう堪能したんでいいっす」



えー、とブーイングを零す彼を見上げながら、はその向こうに映った景色を眺めた。
炭鉱の街として栄えているここは、凄く活気があり、人も良い人達が多い。
(あの例外の空気読めないマスターみたいな男はいたが)
工事の音は大きくても、それもまた良し。
本当に良い街だ。

しかしここに留まっているわけにもいかない。
ポケモン達のレベルは確実に上がっていってしまうのだから(面倒臭いことに)。



「…本当に、行くんだね」



しょんぼり、とする姿は本当に自分より年上なのだろうかと考えてしまうほど。
耳としっぽがあったら垂れ下がっているだろう。
その姿にポケモン達から同情の声があがる。
面倒臭い人だなぁ、と思いながら、は再び溜息を吐いた。



「…こいつらもこっちでダチ出来たっぽいすから、また遊びに来ますよ」



本音より建前。
とりあえずそんな言葉を吐く。

途端。



「ほんと?」


「・・・・・・・・・・」



アンタは子犬か。
主人を伺うように小首を傾げるそれか。

の口がヒクリと引き攣る。
しかし言った手前、ここは頷かなくてはいけない。
ビームのようなその目線を受けながら、彼女はゆっくりと。



「……」



コクリと頷いた。
すると。



「約束だよ!?絶対だよ!?」


「ハイハイ」


「やったー!!」



立ち直ったヒョウタが嬉しそうに飛び上がる。
本当にどちらが年上なのだか分からない。
ポケモン達も同じように考えていたのか、少し呆れているのが伺えた。
しかし、そんなことを気にする彼ではない。
笑顔のまま、クロガネシティの入り口へと二人で歩き出した。



「このシンオウ地方にはあと7人のジムリーダーがいる。皆ボクよりも手強いポケモントレーナーばかりだよ!」


「…だろうでしょうとも(面倒くせー)」



レベルが上がると共に、それ相応のバッジが必要になる。
ということは、ジムリーダーは挑んできた相手のレベルに合わせてポケモンを出し、勝った者にそれに合わせたバッジを与える。
つまりは、旅をしてポケモンがレベルを上げると、どんどんジムリーダーが強くなるというシステムが作られているのだ。

ヒョウタを基準に考えてはいけない。
これからを考えると、彼よりレベルが高い戦いになるのは間違いないのだから。


ポケモン達のレベルが上がらなければいいのに。
しかし共に旅をしている限りその願いは叶わない。
これからも続く戦闘について考えると、頭が痛くなる。



「でもなら大丈夫!ボクが保証するよ!!」


「…そらどうも」



ニコーッと笑うヒョウタのその保証は一体何を根拠に言ってるのだろうか。
ある意味、不安だ。
それをサックリと言うわけもなく、は心の中だけにその想いを留めておいた。

入り口に辿り着き、立ち止まる。
はそこで振り返った。



「じゃあ行くんで」



そう言うと、のポケモン達も一斉に声をあげる。
恐らく別れの挨拶を言っているのだろう。
するとそれに共鳴したかのように、ヒョウタのボールから彼のポケモン達が顔を出した。



「うぉあっ」



さすがにいきなり出てくれば驚く。
イシツブテやズガイドスはともかく、イワークは大きすぎるのだ。
そんな彼がどーんと出れば影も出来るし、地鳴りもする。
声を出して驚くを他所に、ヒョウタはアララと苦笑を零した。



「ハハー、皆も淋しいってさ」



いや、苦笑するよりも入り口全部を塞いでしまっていることをイワークに注意した方が良いのでは。
ポカンとイワークを見上げるはそんなことを思うが、その表情がしょんぼりしているので何も言えなくなった。



「イッシ!」


「イシイッシ!!」



イシツブテとツブテはお互いに肩を組み合って別れを惜しんでいる。
少しばかり暑苦しいのは彼らの性格からだろう。
の腕の中のスボンヌはイワークにのんびりと話しかけ、イワークもまたのんびり話す。
顔が必然的にに擦り寄る形になったため、何となく鼻の頭を撫でる。
ちなみにリンクはズガイドスに喧嘩を売っているが相手にはされていない。


(…良い子達だな)


ジムでトレーニングを行っているだけではなく、のポケモン達とも遊んでくれたのだ。
そう考えると感慨深いものがある。


(ヒョウタさんにはあまり会いたくねーけど、この子達なら会いたいかも)


一人うんうんと頷いて、納得する。
その心は誰も読みとれない。
そのお陰でヒョウタは勘違いして「ボクも淋しいよ」とか言っているが、無視をしておいた。

それぞれお別れの挨拶がすんで、のもとに戻ってくる。
目で、もう行けると話す。
紅の瞳でそれを確認して、は顔をあげた。



「じゃ」


「うん、またね!!」



ヒョウタが笑顔で見送り、ポケモン達も手を振る。
(手がないイワークは尻尾を振った)
また会いに来ると言ったのがキいたんだろうか。
あっさりと送り出してくれることに、少し安堵した。

頭を下げて、歩き出す。
向かうは再びコトブキシティ。
そこから次の町へ行くことが出来る。



「ハーァ、またあの洞窟潜んのか…面倒くせー」


「クルー」


「スミー」


「なー。クーリもスボンヌも嫌いだもんな洞窟」


「ポッチャ!」


「イシイシイッシ!!」


「リー!!」


「あーそうね、君たちは平気ね。でもあんまりはしゃぐなよ頼むから。疲れるから」










イワークは、とても邪魔だと思うの…大きさと重さを考えて。
でも、あれ、時速80kmあんのよね…どういうことなの。