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次の日、しっかりとジョーイさんに起こされ、御飯を皆でモクモクと食べているときだった。 「〜!」 「あ?」 大きな声で名前を呼ばれて、訝しげに振り返る。 するとそこには、ヒカリが立っていた。 というよりも走ってきて。 「久しぶり〜!こっち来るの遅かったじゃない」 「グフゥッ!」 タックルしてきた。 いや、抱きついてきたのだが。 こんなに仲良かっただろうか、と思いながら、とにかく戻しかけたサラダを飲みこんだ。 背中に抱きついた彼女は満面の笑顔で周りのポケモン達を見回す。 初めて会うクーリは「誰だ、何だ一体」とと同じような目でじっとヒカリを見上げている。 リンクはというと、食事に集中してて気づいていない。 勿論ポチリはの膝の上で御飯を食べながら、手をあげて挨拶をした。 「わぁ!ポケモン三匹も連れてるのね。私のポケモンの捕まえ方が役に立ったみたい!」 「…いやぁ、まぁ、はぁ」 嬉しそうに笑う彼女に、は曖昧な返事を返した。 というのも、クーリもリンクも捕まえた、というよりはついてきたのだから。 しかしそれを言うほど鬼畜ではない。 濁して流していると、あ、そうだとばかりにヒカリが口を開いた。 「さっきジュン君とコウジ君に会ったよ!」 「…ジュンとコウジに?」 幼馴染だというのに、凄く懐かしい響きだ。 ヒカリがうん、と頷くのを見つつ、そんなことを思う。 よく考えてみれば一カ月は会っていない。 昔からそんなことは一度もなかったというのにだ。 「このコトブキシティにはトレーナーズスクールがあるの。トレーナーになるための学校ね」 「ふーん、そんなんあるのか」 「きっとまだそこにいると思うよ」 将来トレーナーになりたい、と言っていた彼らだ。 その学校に興味がないわけがない。 恐らく色々学んでいるのだろう。 ジュンが空気読めない発言をしつつ、コウジが冷静を装って好奇心のままに動いている。 安易に想像出来る姿に、は少しだけげんなりした。 「あ、じゃあ私は行くね!」 「あー、あいよ」 「うん!ポッチャマも、コリンクとムックリもバイバーイ!」 言いたいことだけ言って笑顔で去っていく。 軽く手を振り返し、その背中を見守る。 いつも元気だなぁと思いながら。 「…クル」 「リ?」 「あー。アイツはヒカリってやつ。知り合い」 疑問に思っているクーリに答える。 納得する彼の隣でリンクはまず「何の話?」と首を傾げていた。 どんだけ御飯に集中してたんだろうか。 呆れながらも、サラダをまた頬張った。 知り合い、というところにポチリはツッコまなかった。 (明らかにヒカリは友達と思っているのだろうが) 「…御飯食べ終わったらスクール行くか。そういやジュンに届けモンあるんだったし」 旅の目的の一つに、ジュンの届け物があった。 これ以上遅くなったら彼の母親に何を言われるか分かったもんじゃない。 というか、これ以上の旅も面倒臭い。 ポケモン達も軽く頷いた。 「!!」 「」 「よ」 スクールに入ってものの数秒。 黒板の前にいる二人を発見する前に、彼らがを見つけた。 一か月前に会ってからしばらく経つ。 が、外見は全く変わっていなかったことに、は心の中で小さく安堵した。 「久しぶりだな〜!」 「はいはい」 ジュンが我先にと抱きついてくる。 これもまた昔から変わらない。 その後ろで苦笑いするコウジもだ。 中身もまだまだ変わってない。 ポンポンと背中を叩けば離れる。 ジュンはニッカリと笑った。 「おまえも勉強か?」 「ンなワケねーだろ」 「俺なんか黒板に書かれてることバッチリ覚えたぜ!」 「聞けよ人の話を」 相変わらず人の話を聞かない人物である。 のツッコミも聞いてはいない。 ペラペラと話し始めるジュンを無視し、は近づいてきたコウジと話し始めた。 これもまた、昔から変わらないやりとりである。 「元気そうで何よりだよ、。っていうか、ここまで来るってのが凄い意外」 「うるせーよ。俺だってここまで来るつもりなかったっつの」 「そうなの?トレーナーの目標として、ジムのバッジを集めることだから、てっきりそれでかと」 「そんな目標なんて誰が決めたんだよ。面倒臭いから俺は嫌だ。こちとら親父に追い出されるわ博士の図鑑催促されるわ、色々あんだよ」 「ハハ、らしいや」 溜息交じりに話をする。 好奇心が強くなければ、コウジは至って優しい穏やかな少年である。 だからこそジュンのストッパーの一人だ。 …勿論、好奇心が勝てばそちら側に回ってしまうので、手が負えなくなるのだが。 ちなみにのポケモン達はスクールの子供達に囲まれていた。 「鳥は電気には…」とかスクールで習ったものを復習しながら見ているらしい。 害は無さそうだ。 「じゃあなんでここにきたんだい?」 「あー、そうだった。ジュン」 ここに来た理由を思い出した。 勿論、幼馴染二人の様子を見ることも一つの目的だったりする。 (とは違って、この二人は少年らしすぎて危なっかしい面がある) (そう言うと「の方が危なっかしい」と言い返されるのだが) 「自分のポケモンに怪我は……ん?」 呼ばれたジュンはようやく独り言をやめた。 いや、独り言ではなく、自分の意見をひたすら言っていただけなのだが。 そんなことを全く聞いてなかったは話を遮って、ポシェットから預かっていた袋を取り出した。 「ホレ、お前の母親からだ」 「なんだこれ……?」 「知るか。俺はお前に渡せって頼まれただけだ」 コウジはこの一言で察したらしい。 苦笑を零し、「お疲れ様」と労いの言葉をくれた。 溜息で返事をすると、乱暴に袋を開けたジュンが声をあげた。 「やった!タウンマップ!」 入っていたのは、シンオウ地方の地図。 いわゆるタウンマップだ。 現在の位置や、隣の町への道路などが書いてある。 喜ぶと同時に、ジュンは再び驚きの声をあげた。 「って3つも入ってる!?」 「…お前の母親だな、ジュン」 息子分だけのはずが、何故かそれが三枚。 せっかちなところは母親譲り、ということが証明される。 呆れて溜息も出ない。 純粋に驚くジュンの横で、コウジが口を開いた。 「…イイんじゃないの?ジュンだったらすぐ無くしそうだし、予備として持ってたら?」 「いや、いらねーよ!なんだって俺のことそんなドジっ子みたいな言い方すんだよー!」 「「いや、ドジだし」」 「なんだってんだよ二人してー!!」 ちなみにジュンは自分の性格を理解していない。 せっかちでドジで、思ったことをすぐ実行する単純な性格。 それをもコウジも嫌というほど分かっている。 プゥと膨れるジュンは次の瞬間「そうだ!」と思いついたことに対して笑顔を浮かべた。 これもまた、単純といわれる理由である。 「…そうだ!、コウジ、これやるよ!」 「「は?」」 「捨てるのも勿体ねーし!ホラ!!」 確かに人数分ある。 が、欲しいとも思わない。 (はこれから旅をするつもりはない) だが。 「貰えるもんは貰っとく」 「らしいなぁ」 そう、所詮タダなのだから貰っておくのがとしての常識だ。 コウジが苦笑を零す。 勿論、彼も受け取るに決まっている。 知り合いのタダより安いものはない。 ジュンは渡したと同時に、次に向かう目標の町を既に見ていた。 「こっからだと、クロガネシティが行けるな!」 「ああ、そうだな。あそこには確かポケモンジムもあるし…」 トレーナーが夢だった二人はしっかりとジムに目を向けている。 彼らの夢は昔と違ってトレーナーの頂点。 ジムに行って、バッジをゲットして、いつかポケモンリーグに挑戦する。 そこまで、行っているのだろう。 はそんな情熱はない。 むしろ地図を貰っても、そこまで行こうとも思わない。 無難に暮らせれば、満足なのだ。 「よし!そうと決まれば俺は出発する!!じゃーな、コウジ、!!」 「ああ、またな」 「おー」 キラキラと目を輝かせて走っていくジュン。 その姿が眩しい。 夢を、情熱と共に追いかける。 それが出来るからこそ、この少年達は眩しく見える。 ジュンが去った後、コウジはしばらく地図を見た後に顔を上げた。 「はこれからどうするんだい?」 どうしよう。 これが本音だ。 彼らのようにトレーナーとしての夢があるわけじゃない。 適当にのんびり暮らすことが夢。 だが、家には帰れない。 勿論、マサゴタウンにもあの博士がいるため帰れない。 「……ここで、暮らそっかな」 金を稼いで、ここに住むのもいい。 マンションやアパートが一杯あるのだから部屋は空いているだろう。 …勿論、そんな金はどこにもない。 あるのは子供独特のお小遣い程度。 そこらのトレーナーと戦っていって金を稼いだとしても、彼らも自分と同じ初心者。 貰えるのはお菓子代金ぐらいだ。 冗談に近い、本当の言葉。 そんなことはコウジにも分かっている。 彼は苦笑を零した。 「…だったらさ、ここで住むためのお金を稼ぐために、僕達と同じくトレーナーの頂点を目指したら?」 「…は?」 コウジの提案に、は首を傾げた。 コイツは何を言ってるんだ。 面倒だからここに住んでやり過ごそうという考えなのに、何故そこで君らの夢が出てくるんだ。 訝しげに聞き返すに、コウジは至って真面目な顔で口を開いた。 「だって、僕らまだ子供なんだ。会社にも勤められる歳じゃないし、バイトの歳でもない」 「いや、確かにそうだけど」 「僕らみたいな子供がお金を貰うには、ポケモンに携わるしかないじゃないか。トレーナーでもブリーダーでも、ポケモンが関わって、認められればお金は手に入る」 子供というカテゴリーに囲われているうちは、仕事は出来ない。 特に人に携わる、社会に携わるものは責任を取れないからと足蹴にされる世界。 こんな世界で子供が認められるのは、ポケモンに対する何かが突出している場合だ。 ポケモンは老若男女を問わない。 何故ならポケモンは共に歩むパートナーであり、彼らを育てるには歳は関係ないからだ。 ポケモンの成長が表すのは、育てたり世話したりする人の人間性。 ポケモンが立派なことをするのは、ブリーダーやトレーナーが立派だということを意味する。 それを見込まれて、お金が手に入るのだ。 「だからさ、ここに住むにしろどうにしろ、お金がいるじゃないか。だから、はお金のためにトレーナーとか目指したら?」 「……それは……」 コウジの言うことは尤もだ。 だが、の表情も心も、曇っていく。 コウジやジュンは夢のためにトレーナーとして成り立とうとしてる。 だが、がそうするということはお金のためにポケモンを育てるということだ。 ポチリ、クーリ、リンクを、使う、ということだ。 あんなに楽しそうに子供達に囲まれている、彼らを。 自分の我儘だけに、お金のために付き合わせる。 そんなこと、許されるはずがない。 許されない以前に、自分が嫌だ。 「…成り行きとはいえ、僕らにはポケモンがいる。それでどうするかは、自分自身じゃないのかな。ポケモン達の了解を得てさ、夢のためでもお金のためでも一緒にやってくのも一つの道だよ」 「……」 夢を追う幼馴染。 相棒のポケモン達は快く納得してくれるだろう。 だけど。 お金を追う自分を思うだけで、酷く空しくなってくる。 例え了解を得たとしても、彼らをお金を得るための道具として使うようで。 の表情がどんどん暗くなっていく。 その心情を理解したコウジが、フワリと優しく微笑んだ。 「勿論、どうしようとの勝手だよ?これは俺の勝手な提案だし。もしかしたら他の道もあるかもだし」 「……」 お金のためは嫌だ。 だが、面倒臭いことも嫌だ。 どうすればいいのか、こんなときに路頭に迷う。 自分にとって何が一番大切なのか。 どれが一番良い選択なのか。 そんなこと、分かっているというのに、完璧に吹っ切れることは出来ない。 旅のきっかけも無理矢理なものであったし、ここに来ることもジョーイさんに追い出されたことがきっかけ。 これからのことも、コウジに促されてその通りに決めるのが嫌なのだ。 これは単なる意地であることは百も承知。 幼い理由であることも。 それでも、反抗したくなる。 お金のため? 夢のため? ポケモン図鑑完成させるため? 観光するため? そんなんじゃなくて。 自分がしたいことは一体何なのか。 ポケモンを持ったトレーナーとなった以上、どうするのか。 「……」 やりたいことが見つからない。 なら。 「…わかった」 「え?」 の言葉に、コウジが驚く。 紅の瞳はもう迷っていない。 面倒臭そうな表情は変わらないが、目は真っ直ぐ。 お金のため!?と本気で思っているコウジの漆黒の瞳を貫いた。 「…面倒臭ぇーけど、やりたいこと探すために旅に出るわ」 やりたいことが見つからないなら、探せばいい。 どちらにしろ、フタバやマサゴには帰れないのだ。 ポケモン達と離れるなんてことも出来ない。 ならば、探していけばいい。 お金のためとか、そんなものではなく。 自分のために、ポケモン達のために何が出来るのか。 探すことを、目的とすればいい。 どこかスッキリする。 それを見て、コウジも嬉しそうに笑った。 「…」 「一番面倒臭くない選択肢を選んだらコレしかねーだろ」 実際、一番面倒な選択肢だとも思う。 だが促されるまま流される理由よりは良い。 ポケモンや自分のことを考えたら、一番良いものがそれしかない。 それを知っているコウジはクスクスと笑った。 「素直じゃないなー、相変わらず」 「あ?」 「いーや、なんでもない」 は眉を寄せるが、コウジは笑って誤魔化した。 先程まで真剣に悩んでいたとは思えないほど、面倒臭そうな顔。 いつも通りの、だ。 なんだかんだで、色んな人やポケモンのことを考える。 自分の事は二の次とか三の次。 面倒臭がりで、男勝りで時折メンチを利かせているけれど。 (誰よりも、君は優しいから皆好きなんだよね) 昔から変わらない。 なんだかんだで、コウジとジュンの我儘に付き合ってくれることも。 自分が一番泣きたいだろうに、我慢して彼らを慰めていたことも。 変なところで負けず嫌いなところも。 (僕も、ジュンも。そんな君が大好きだから) 「…でも鈍いよね」 「何が?」 ちなみにそれに気付かないという鈍さ。 ジュンに至っては「好きだー!」とばかりの行動だというのに気にしない。 に、コウジは苦笑と共に銀色の髪を優しく撫でた。 柔らかい、過去から変わらない綺麗な色を。 「ん。なんでもない。じゃあ僕はそろそろ行くよ」 「お、そうか」 コウジにはコウジの旅がある。 それを止めることなどしない。 が納得すると、コウジはゆっくりと髪から手を離した。 「じゃ、またね」 「おー」 今度また会える。 コウジとジュンはトレーナーの頂点を目指すための旅。 そして面倒臭がりのは、自分のやることを探すための旅。 ならばまた、会える。 だからこそ、笑って別れられる。 コウジの笑顔に、も苦笑で返した。 「……はぁ、また面倒なことが増えたなぁ」 しかし、後悔はない。 出て行くコウジの背中に、はいつもと同じ溜息交じりの声を小さく発した。 紅の瞳の先には、楽しそうなポケモン達がいる。 人知れず、彼女はフワリと優しく微笑んだ。
面倒くさいけれど、それでも良心とかそういうものは大切にする。 そんな主人公。 |