|
「…あー、疲れた」 洞窟を抜ければクロガネシティだった。 あの薄暗い中でリンクとツブテははしゃぎ回るし、日光浴が出来ないとスボンヌは膨れるし。 (それでもボールに戻らないのが不思議だ) 鳥目のクーリは飛ぶ度に頭をぶつけるし。 ポチリもそこらの石に躓くし。 それを看病したり追っかけたりするも、そしてポケモン達も満身創痍。 洞窟を抜けたときは既に深夜だった。 「あー…こりゃポケモンセンターで明日の夕方まで寝なきゃ駄目だわ」 ポケモン達は怪我だらけ。 も泥だらけ。 疲れもマックスに溜まっている状態で朝早くなど無理。 さすがのわんぱく兄弟のリンクとツブテも賛成。 街へと一歩踏み出したときだった。 「オッス、トレーナー!」 深夜だというのに、元気いっぱいの男が話しかけてきた。 一体何だ、とばかりにポケモン達と一緒には睨む(一刻も早くポケモンセンターへ行きたいというのに、邪魔をされたからだ) しかし、彼は笑顔のまま口を開いた。 「ジムバッジの1つも持ってないと他のトレーナーから甘く見られちゃうだろ!」 「いや、別に」 甘くみられるということはなかった。 勿論バッジを持っているトレーナーがいたが、自慢するだけに終わっていた。 というか戦っても大したことはなかったような気もする。 (疲れているため、記憶もおぼろげだ) 「じゃ、失礼しま「だから俺がポケモンジムまで案内してやるよ」……アァ?」 さっさと退散しようとした途端、腕を掴まれた。 何だこの状況は。 誘拐かこれは。 「いや、マジいいすから。つか離してください」 「遠慮すんなって!」 「遠慮じゃねーよ、嫌なんだよ」 「いいからいいから!」 ズルズルと引きずられる形になる。 嫌がっても、彼の力の方が強い。 しかも、嫌だと言ってるのに離すつもりもない。 ポケモン達が反抗してもだ。 「俺はポケモンセンターで一刻も早く休みたいんだよ!離せ!」 「ハッハッハ!照れるな照れるな!お、君のポケモンも元気だなーハッハッハ!」 「何この人!ジュン以上に空気読めないヤツだ!」 これはもうジュンサーさんを呼んだ方がいいんだろうか。 ポチリやクーリが嘴でつつくもモノともしない。 リンクとツブテが男のズボンを引っ張っても気にせず引き摺る。 スボンヌはというと…我関せずにホエホエしていた。 とにかくズルズルと引きずられているうちに、ジムの前に辿りつく。 すると男が「お?」と声をあげ、足を止めた。 「あれ?ジムの前に誰かいるぞ」 「……」 無理矢理足を進ませられたために不機嫌に男を睨む。 そしてメンチを切るかのような鋭い瞳でジムの玄関へ視線を向けた。 そこにいたのは、金髪。 知った顔に、どこかうんざりしてしまう。 「ポケモンジムの前にいるのって君の知り合いかい?何だかせっかちそうだね」 「アンタよりはマシだ」 せっかちで空気読めない幼馴染だが、この男には負けるだろう。 思いきり腕を振って、掴まれていた手を振りほどく。 そして怒りを露わにしながら、知り合いであろう金髪の肩を思いきり叩いた。 「イテェッ!!?」 八つ当たりの攻撃に、ジュンは悲鳴をあげた。 これで他人だったら笑えるなと思いながらも、そんな考えは一つも浮かばない。 というか、どうでもいい。 イライラしたままジュンを睨むと、彼はキョトンとした顔でを覗きこんだ。 「なんだかよ!っていうか肩痛っ!!何怒ってんだよ?オレ何かした!?」 「ただの八つ当たりだ。気にすんな。お前はまだイイ男だ。そのまま少しは空気を読めるヤツに育て」 「なんだってんだよー!?」 これで怒ってると分かってるだけ、この幼馴染は良い奴だと思う。 あの後ろで「やっぱ知り合いかーハッハ」と笑っている男よりよっぽどだ。 ポチリ達も納得してうんうん頷いている。 「ってか、今頃来たのか?相変わらず遅いぞ」 「るせーな。俺がいつ出立しようと別にいいだろうが」 というか、ジムに来るつもりは全くなかったのだが。 どこぞの嫌な男のせいで来てしまった。 未だイライラが消えないに、ジュンは肩を軽く上げてみせた。 「遅すぎて話にならないぜ。だってジムリーダーいないぜ?なんだっけ……そうだ!クロガネ炭鉱に行くってさ!まあ、オレはジムバッジを手に入れたからいいんだけど」 「…あーそう。おめでと」 「ヘヘッ、サンキュ!」 話が少し彼の独り言が入ってきたが、どこか落ちつく自分がいる。 というか、知り合いがいるというのは心強い。 イライラした気持ちも少しでも落ち着くのは不思議だ。 いつも空気読めないジュンだというのに。 イライラ混じりの祝福も彼にとっては嬉しいらしい。 ニッカリと笑って、をギューっと抱きしめてきた。 「ちなみにコウジもバッジ貰ってたし。あとはだけじゃん?」 「いや、別に俺バッジいらねーし…ってか抱きつくな。ポチリとスボンヌが潰れる」 「あ、悪ィ!」 というか、そんなもののために来たんじゃない。 いらない、とキッパリ言えば、ジュンは身体を離して声をあげた。 「えー?なんでだよ?バッジがあれば秘伝マシンってやつ使えるんだぜ?」 「あー…ンなこと洞窟のオッサンが言ってたな」 バッジがあれば、秘伝マシンというものに入っている技をポケモンに覚えさせて行動出来る。 いわくだき、という技のそれを貰ってはいたが、特に使う意味もないような気がする。 (誰かの後をついていけば、いわくだきを使って岩を砕いてくれるだろう) しかし、ジュンはそれだけじゃないって!と目をキラキラと輝かせた。 「ジムバッジがあるってことは、トレーナーとして認められるってことだぜ!?ポケモン達のレベルが上がってくと言うこと聞かなくなってくるんだけど、バッジがあれば認めてくれるんだ!」 「…はぁ」 そうか、そんな話もあったか。 今更ながらその事実を思い出したは腕の中のポチリやスボンヌ、頭の上のクーリ、足元にいるリンクとツブテに目をやった。 この子達も、反抗する時期が来る。 バッジがないということでトレーナーの力量に嫌気が刺す時が来る。 自分が認めるトレーナーではないと思う。 それは、絆が薄まることを意味する。 別れを、意味する。 「…ポチャ?」 こんなに懐いてくれている時期がなくなる。 トレーナーとして、友達として認めてくれなければ、今の関係は崩壊する。 それは、嫌だ。 「…ハァ」 ポケモン達と出会ってから、面倒臭いことを選択しなくてはいけないことが増えた。 特に自分の我儘が増えた気もする。 別れたくない、もっと仲良くなりたい。 彼らに会って、沢山のモノを貰った。 いつか別れが来ると知っていても。 もっとずっと、一緒にいたいと思っている。 例え、面倒臭いことが多くても。 「…分かった」 「へ?」 答えは決まっている。 自分のやりたいことを見つけるため。 彼らとまだ別れたくないため。 選択肢は一つ。 キョトンとするジュンに、はいつもの顔で口を開いた。 「バッジ、貰いに行く」 面倒臭いことは嫌いだ。 だが、その面倒臭いことよりも大切なモノが先にある。 の言葉に、ジュンはキョトンとした後。 「そっか」 心から笑った。 どうしてそう笑うのか分からない。 が訝しげに首を傾げても、彼は笑ったまま。 そして、そのままジムの玄関に座った。 「ま、とにかく今ジムリーダーいないからさ!炭鉱に行ってくるといいぜ!たぶんコウジも手伝ってるだろうし」 コウジは手伝っているのか。 そんな情報を頭に入れながら、そこに座りこんだジュンに、はあ?と聞き返した。 「ジュンはどうすんだ、そんなとこに座って」 もう深夜だ。 そこに座っても意味がないだろうに。 (バッジももう貰ったというのに) 彼はニカッと笑った。 「これから来る人達リーダーは出掛けてるって言う係!頼まれたからさ!!」 コウジはリーダーの手伝い。 そしてジュンはお留守番、という役目か。 何とも、お人好しな幼馴染達である。 恐らく自分から申し出たのだろう。 ジムリーダーとて、挑戦者にわざわざ手伝わせるとも思えない。 は小さく溜息を吐いて、ポシェットの中を漁った。 「ホレ」 「うわっ!?」 出したものを投げつける。 ボフッという音がジュンの顔面から聞こえるが気にしない。 「…ブランケット?」 ジュンに渡したのは、モフモフのブランケット。 紺色のシンプルなそれは暖かく手触りも良い。 のお気に入りのそれだ。 「深夜は冷えるだろ。少しの間貸しといてやる」 冬ではないにしろ、シンオウ地方の夜は冷える。 リーダーが戻ってくるのに時間がかかるのなら、それは必要になってくる。 キョトンとしているジュンに、は「じゃーな」と手を振って背中を見せる。 「出来るだけ早く、リーダーをこっちに戻して来てやるよ」 今日は疲れて無理だけど。 それでも出来るだけ早く戻した方が良い。 ずっとジュンがそこにいること自体、難しいことだ。 いや、難しいというより、大変そうだ。 あの鬱陶しい男が「いやーアツアツだねー」とか訳の分からないことを言ってるものを無視。 そしてひたすらポケモンセンターへと急ぐ。 「……あー……面倒くせぇ」 の独り言は星空に溶ける。 そして、傍にいる五匹のポケモン達の頭に、ゆるゆると刻み込まれていくのだった。
クロガネシティに着いたときに強制的に連行されてイラッとした管理人の心境。 ポケモン初めての人用の親切だと分かるけれど、お願い、断らせて! |