君!君はお料理とか出来ますの!?」



真剣に紅茶を淹れて、お客様へと差し出す。
その一連の作業を終えて一息吐いたとき、はそう声をかけられた。



「…出来るけど」



見た目無愛想な不良少年のに声をかける勇者は数少ない。
そしてその質問を投げかけてきたのもまたその勇者の一人であった。

いや、勇者にしては全く空気が読めない人間だ。
ゲームでの出来事を現実にまで持ち込み、実在の人物に勝手に惚れていたという事実がある。
また、あちこちの女子を妄想の世界へとご案内しているらしい。
そんな妄想オタクで有名な宝積寺れんげは、の言葉にキャアッと顔を綻ばせた。



「では甘いお茶菓子なども…?」


「出来るけど」


「!さすがですわ!見た目不良少年が甘いお茶菓子を作る…これこそギャップ萌え!!」


「はぁ?」



ホスト部只今営業中。
そんな中での一テーブルの中でそんな会話が起こる。
ちなみに彼女達(れんげとその友人数名)はハルヒ待ちだ。
一体どうしてそういうことになるのか分からないが、とりあえずこの女性陣は勝手に盛り上がっている。

嫌そうに聞き返しても無駄だ。
何せ相手は妄想戦士達で、恐いものはほとんどないのだから。



「お待たせいたし…ってどうしたのこの空気」


「俺に聞くなよ」



丁度そこにハルヒが来た。
指名相手が来たことで、彼女達がまた盛り上がる。
しかしそれだけではないみたいだ。
とハルヒをセットに見ているらしい視線が飛ぶ。

尋ねられても、こちらも分からない。
一人は純粋に首を傾げ、もう一人は嫌そうに溜息を吐く。
そこにれんげは再び声をかけた。



「ハルヒ君、君!今度是非とも二人でお菓子を作っていただけませんこと!?」


「「はい?」」



何故そういうことに。
二人同時に聞き返すが、それは届かない。



「お二人の作ったお菓子を食べてみたいですわー!」


「それにお料理している姿も!!」


「これでうき☆どきメモリアル3の制作に力が入りますわ…!君がシークレットキャラとしての登場で、誰かを攻略すれば攻略出来るという…」


「ああ、れんげさん、それは素敵ですわ!!」


「そうですわね…不良×優等生っていうのもまた定石ですから、そのへんも考慮して…」



何故なら女子達が勝手に作るもんだと盛り上がっているからである。
此方の返事もまだだというのに。
しかも何か変な言葉が聞こえるのは気のせいだろうか。

しかしこれはお客の要望。
ともあれば、やらなくてはいけないのだろう。
鏡夜の眼鏡が光ったと同時に、被害者である二人は溜息を吐いた。






というわけで。



「…藤岡ー、砂糖とって」


「はーい」



急遽翌日にお料理教室。
それぞれエプロンとバンダナをつけての料理だ。
簡単なもので良い、という話だったのでクッキーとマフィンを作っていた。

お互い料理には慣れているため、かなり早い。
時折料理本を見るのは分量の確認だ。



「…つーか何あのカメラとかマイク」


「もう気にしたら負けだと思ってるよ…」


「悟ってんなー藤岡」



ちなみに教室の端では二人を撮っているだろうどこぞのスタッフがいる。
よく監督が持つカチン!とかいうものはれんげが持っている。
遠い目をして答えるハルヒに、は同情に近いコメントを残した。

そして。



「ハルヒー!お父さんだよー!可愛いエプロン姿でこっち向いてピースしてー!!」


「…環がそう言ってるけど」


「アレは気にするだけ無駄だと思う」


「…達観してんなー藤岡」



他、ホスト部員は教室の外からドア越しに覗いている。
部長である環はカメラを構えて、やたらハルヒを撮っているようだ。
時折「フラッシュたかないで!」とれんげから喝が入っている。
どう見ても親馬鹿な親にしか見えない環へのコメントに、もまたどうでも良さそうに返した。



「…よし、あと焼き上がればいいや。藤岡は?」


「こっちもあと焼くだけ」



特にハプニングもなく、オーブンへ。
時間と熱量をしっかりと確認してから一息吐く。
お互いに目を合わせて、そして気付く。



「藤岡、頬に生地ついてるけど」


「え、どこ?」



鏡がないから分からなかったのか、ハルヒの頬に生地がついていた。
がトントン、と自分の頬をさしても、彼女は反対の頬を擦る。
変なところで天然だ。
そんなことを思いながら、は手を伸ばした。



「違ぇーって。こっち」


「あ、ありがと」



クイッと親指でそこを拭いとる。
そうかこっちだったか…とそっちが恥ずかしかったらしい。
本当に天然なのだから、面白い。
は小さく笑って、己の指を舐めた。



「変なとこでヌけてるよな藤岡」


「うるさいなぁ」



そう言われるのは不本意だと嫌そうに顔を歪める。
それがまた面白いため、はクツクツと笑った。

途端。



「キャアアアアアアア!!!」


「ぎゃあああああああああ!!!」


「!?」


「あ?」



れんげと環が叫んだ。
一人は顔を赤くして、心の底から。
一人は顔を青くして、心の底から。

いきなりの悲鳴(?)にハルヒはびくりと肩を揺らし、はそちらを睨む。
すると、環はすぐにハルヒの肩を掴んだ。



「ハルヒィィ!!おまえはまたそうやって反応を間違ってぇぇぇ!!」


「邪魔です退いてくださいウザイから」


「反抗期!?ちょ、お母さーん!!」



どうやら一連の動作を見守ってきた彼は今のが気に食わなかったらしい。
まぁ、親(?)としては当たり前なのかもしれないが。
そして一方。



「いいい今の!今のシーンは最高でしたわ!!ちゃ、ちゃんと撮りまして!?」


「イエス!!」


「ナチュラルなあの感じ…まさしく、まさしくでしてよぉぉ!!!」



こっちはこっちで喜んでいるらしい。
どうやら良いものが撮れたとかどうだとか。
興奮していて、こっちの騒ぎはどうでも良いらしい。
ギャーギャー騒ぐ彼らを見やりながらも、はまるで他人事だというようにタイマーを見やった。



も変なとこで天然だよねー、崇」


「ああ」



後、うき☆どきメモリアル3は大好評で売り切れ続出となるのであった。











天然の意味

「売上は好調だな…ところでいつまで泣いてるんだ環」
「グスッ…何故ハルヒとのカップリングが良いんだ…。なんで俺とハルヒのがないんだ…」
「知るか」





環は不憫(笑)