銀の髪が通る。



黒い男子学生用の学生服に身を包んでいるせいか、その髪は際立っている。
紅い瞳はまるで何も見てないような虚ろ。
ネクタイはなく、白いワイシャツは襟元がはだけ、瞳と同じ色のシャツが見える。
ズボンのポケットに両手を入れて歩くその人物の中性的な顔には気力はない。
ただ前を見て、ぼんやりと歩く。
それに伴って銀髪と、背中の少し小さめなバッグが揺れる。


辺りの生徒はその人物を一目見るなり、すぐに視線を逸らして端へと寄る。
そしてすぐにひそひそ話を始めた。
勿論、いい話ではない。







その声に銀髪の少年であろう人物は静かに振り向いた。
声の主は白髪に眼鏡をかけた、中年の男性。
担任という名の他人。



少年の名は 

そういう名であり、この中学校の女子の学生。
意図して男子学生の制服を着ている、見た目は不良の学生。

いや、見た目と同じように、不良か。



「…何?」


「何?、ではない!…忘れ物だ」



担任の手には紙が数枚。
どうやらそれを今出てきた職員室に忘れてきたらしい。
は頭をカリカリと掻いた後、スタスタと担任の元へと引き返した。



「サンキュ、センセ」


「そうじゃないだろう」


「……………どうも……」



ふぅ、とは溜め息をつきながらプリントを受け取る。
担任はただただその様をじっと見ていた。
それに気付いたのか、は顔を顰める。



「何?」


「…いや…本当に言わなくていいんだな?皆に」


「いいっつってんじゃん。センセもしつこいなぁ。じゃあな」



やれやれ、と溜め息をまた吐いて担任に背を向けてさっさと廊下を歩き出した。
顔は不機嫌によりしかめっ面になる。
窓からの風を切って速く歩くためか、肩まである銀髪は先程よりもゆらゆらと揺れる。



(……ったく、あのセンセも…しょうがねぇんだから)



あの担任と話し合ったのはつい数分前。
内容はからの急な話。
それは生徒には内緒にして欲しいと頼んで、話をつけた。


(内容が内容だからしょうがねぇかもしれねぇけど…)


思考を巡らせながら、カラリと自分のクラスのドアを開ける。
あちこちから感じる冷たい視線。


あちこちから聞こえる、声。
批判、中傷の嵐。

はそれらを気にするわけでもなく、自分の席に着いた。
背負っていた鞄をやる気なく机に置いて、一息つく。


一番後ろの席。
黒板の正面にあたるそこは自分の特等席だ。
教室全体がよく見える上、後ろの席だから窓の景色がゆったりと見える。



ちゃん!おはよう!!」



不穏な教室の中、パタパタと音をたててのもとに走ってくる人物がいた。

黒髪はサラサラのショートヘア。
ヘアーバンドと無邪気な笑顔が印象的な女子生徒。


水野 すずめ。


この学校で唯一、に気軽に話しかけてくれる人物と言ってもいい。
明るいクラスメートとは逆の気分のは少し顔を引き攣らせながら軽く手をあげた。



「…あぁ、おはよう」


「今日は早いんだね!でも元気なさそう…大丈夫?」



その言葉には苦笑を漏らした。

水野すずめは、ヒトの小さな表情や仕草に鋭い。
ほぼお節介に近い優しさが、そうさせているのかもしれない。
しかし、それを嫌う者はいない。
もどちらかというと、好きなほうだ。


…ただ、今はあまり悟られたくない。
内容が、内容だ。
無理やり笑顔を作って席につく。



「元気だよ。それより…すずめは何か嬉しそうだな」



話を逸らす。
これが最善の策だ。
すずめは「え」と驚いた後、顔を少し赤らめてはにかんだ。
作戦は成功。
紛らわせたは、からかうようにニヤリと笑ってみせた。



「で?何があったんだ?すずめ?」


「え、えっと、その、………今日、来てくれたから…」



ずっと照れたままのすずめ。
そして目は窓際をちらりちらりと見ては戻る。

すずめが照れて、気にする人物。
その人物は、窓際の、一番後ろの席。


(まさか)


自分の至った考えと、すずめの反応を疑う。
先程まで不機嫌だった理由の出来事は、頭の遥か彼方へと追いやられた。

瞳は自然と、ゆらりと窓を見つめていた。


紅い瞳に映ったのは先程から変わらない青い空。
白い雲。


そして



(あ…っ………き……違う、高嶺……)



高嶺清麿がそこにいた。










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