がある家の家族になってから一日目にして、の正体を知る。

この世界のモノではなく。


違う世界のモノであることを。












あれから数日経つ。
ある人達と家族となってからまだ数日しか経っていないのだが、色々慣れつつある。

家族の習慣。
彼らの性格や特徴。
自分のやるべき仕事、やらなくてもいい仕事。



「…ん、これで終わり」



今も丁度、自分のやるべきことである庭の掃除が終わったばかり。
あとは水巻きをすれば完璧だ。
ホースを取りに、のんびりとそこまで歩く。

平日のお昼下がり。
陽は高く、世界を照らしている。


本来ならば学校の時間だ。
中学生の身分であるなら尚更のこと。
だが、新たな家族となってくれた父はのんびりと笑った。



『学校?…アハハっそんなんはまず、家族に慣れてからにしな。環境が変わるってのは結構精神的にクるからな」



そう、とりあえず家族に慣れろ、ということだった。
唯でさえ数日前に衝撃的なことが多々起こったばかりだというのに、新しい環境にすぐ慣れるなど無理に近い。

最初は家族から。
これから、ゆっくりと慣れていけばいい。
それから学校やら地域に行けばいい。
兄である紅羽も賛成して、頭をグシャグシャに撫でてくれた。



だからこそ、まだ学校には行っていない。
父は一応、手続きは取ってくれたらしいので、休学扱い、または不登校扱いだ。



「いい天気」



近くにある海の潮風の香りが鼻を擽る。
涼しさと、温かさが入り混じって丁度いい。
銀色の髪が靡くのを、心地よく感じながら歩を進める。
ホースを取ろうとした紅の瞳には、一人の人物を映し出していた。



「はい、どうぞ」




漆黒の髪と銀色の瞳に、夜空だと思った、彼。
優しい微笑みでホースを差し出す彼に、は同じように笑って手を伸ばした。



「サンキュ、



ゴム製の青いホースを手に取って、その先を庭に向ける。
はそれを見届けてから、蛇口を捻った。
持っている手に独特の感触が伝わる。
次の瞬間、ホースの口から水飛沫があがった。

陽の光が透明な水を輝かせる。
それが緑色の庭へと吸い込まれるように落ちていく。



「綺麗ですね」


「だな」



幻想的な世界が垣間見える。
平和を象徴するその世界に、二人は穏やかな笑みを浮かべながらのんびりと見やっていた。













「魔物?」



マグカップらしき生き物が消えた後、三人は紅羽の車へと戻って家への道を走っていた。
流れる景色の中、から出た言葉に、素直に首を傾げたのは
全く聞きなれない単語だからこそだ。

隣に座ったは真剣な面持ちのまま、小さく頷く。
いつもある優しい微笑みは姿を隠したまま。
どこか緊張しているのか、銀色の瞳が小さく揺らいでいた。



「ええ、例えるなら魔物なんです…僕は」



例えるなら魔物。
ということは、言葉としてそれが一番適しているからだろうか。

明るい空気の中であったなら、これは冗談で流すだろう話。
だが、真剣なその声は、冗談ではないように思える。
いや冗談ではないのだろう。
これは真実として受け取った方が良いと判断しつつ、は腕を組んで頭の中の辞書を捲った。



「…魔物って、魔の物?邪悪とか?」



それにしても魔物というものは何だったか。
明確な定義が見つからない。
頭の中はどこかの小説の主人公が魔物と呼ばれた化け物を倒す、という場面が過ぎる。
あまり良いイメージではないその言葉に、のみならずも表情を堅くした。



「…そう、ですね。この世界の人たちにとっては邪悪な存在になるかもしれません…少なからず、先程のように迷惑をかけてますから」



先程のように、とは戦いのことを言っているのだろう。
酸性で溶けた床はそのまま修復されることはない。
また、あれは自分達だけがいたから良かったものの、大衆の中で行ったのなら大惨事は必須だ。
戦いをやる度にそうなるのならば、確かに迷惑なことになってしまう。



「……この世界ってのは?」



そこまで納得したところでの言葉の一部には注目した。
この世界、というのは一体どういう意味なのか。
その質問も予想済みだったのか、は小さく頷いた。



「ええ、僕達はこことは違う世界…異世界のような……そうですね、言葉にするのならば『魔界』でしょうか。そこから来たんです」


「…魔界……じゃああのマグカップも…」


「ええ、僕と同じ魔界から来た魔物です。他にも色んな『形』の魔物が住んでいます」



魔界と呼ばれるその世界が、別の世界として存在して、そこから来ている『魔物』。
の説明に、は納得せざるを得なかった。

はまだ人間に見えるから良いものの、あのマグーリというものはまさしく異形。
表情豊かに、言葉を話し、人間と同じモノ。
魔物と呼ばれても無理はない。


それらを合わせると成程、魔物と呼ばれるのは無理ないかもしれない。
この世界の人間にとって全く『異形』の意思を持つ生き物なのだから。



「…異世界、である魔界から、なんでここに?」



そこまで理解出来たなら、次に進む。
隣に座る漆黒の髪を見上げながら、紅の瞳は真剣に疑問を投げかける。
話を鵜呑みして理解するに、は驚きながらもその答えを口にした。



「…千年に一度。魔界で選ばれた百人の子供が、この本と共に人間界に送り込まれます」



彼の手には、銀色の本。
戦っていたときにはまるで星のように光放っていたそれは、今はただの本でしかない。
中身はあの読めた部分と、読めないページがどっさりとある。

不思議な響きを奏でるあの言葉によって、は風の刃らしきものをその手から放ち。
スピードをあげて相手を攻撃することが出来た。



「そして…人間に育ててもらいながら、王の座をかけて戦うことになっているんです」



『なっている』というのは決められているのだろう。
その、王の座をかけての戦いとやらが。



「王ってのは…?」


「魔界にも社会があり、それを治める王がいらっしゃいます。その王が決める戦いが千年に一度、この人間界で行われているんです」



王、とはまた大きい立場だ。
この日本にも首相とやらがいるが、それは国民に選別された議員から選ばれる立場。
しかも国民の意見によって政策を打ち出し、それを国民に問うものだ。

しかし、王となればまた別なのだろう。
ある意味独裁政治に成り得るのが王というものだ。
その一人で、世界全体が決まってしまう。
千年に一度の決定のための戦ということならば、それによって千年の世界が決まってしまうのだ。



「……なるほど」



魔界からきた子供が、魔界を背負っている。
それはも然りなのだろう。

人間のいるこの世界で、その戦いが行われる。
先程の戦いも、それの一つに入っている。
負ければ恐らく、『王の座』は手に入らない。



「この本は魔物のパートナーとなった人間が使えることになっているんです。読めば先程のように攻撃が行えます」


「ってことは、他の人や魔物自身には使えないってことか?」


「ええ、使用できるのはあくまで、パートナーだけです。つまり僕の場合は…、貴方だけ」



の両手の上に、本が置かれる。
厚みと重みのあるそれはまるで辞書のよう。
表紙や裏表紙にある奇妙な模様と、中には人間界にはないだろう文字の羅列。

はそれを、ゆっくりと、自分の膝の上へと置いた。
その重みは、色んな意味で、重たかった。















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