パートナー、という言葉。
しかしそれは、あまりにも重たいものだ。

王の座を賭けての戦い。
しかも攻撃を出せる本の言葉はパートナーである人間でしか出せないというのなら。
この戦いはその人間に懸かっていると言っていいだろう。



「…パートナーってのは、その魔物が決められるのか?」



そうならば、紅羽の方が体力も知力もあるのだからそちらの方が有利だ。
戦いに勝つことを考えるのならその方が断然良い。
しかし、は首を横へと振った。



「……いえ、本が決めるのか、それとも他の何かによって決められているのか……魔物の意思とは関係なく決められているんです」


「…関係、なく?」


「ええ。パートナーに出逢うことも出来ずにいる魔物もいるでしょう。…貴方に逢う前の僕のように」



パートナーに逢うことすらも試練なのだろうか。

この戦いの意図はどこにあるのだろう。
『王の座』を賭けての戦いを、ここで行うこと。
人間に出逢い、共に戦いを行うことに。


どちらにせよ、パートナーは意図せずに決まってしまった。
まるで運命に導かれるかのように。



「…俺で、いいのか?」



自信がない、というのがの答え。
戦い、というのはただの喧嘩とはかけ離れている。
しかも、自分勝手なものではなくの将来を左右するのだ。


昨日、会ったばかりのの。
大事な友人となった彼の。

将来を背負っていかなければならない。



「俺、頭悪いし、喧嘩しか脳がないし」



一ヶ月懸命に勉強しても、本当の父親を満足させることは出来なかった。
喧嘩は、自分を守るためにしていただけ。
誰かのための喧嘩なんて、あの屋上の一件だけだ。



のために戦いてぇけど……俺じゃあ……」



自分に出来ることがあるのなら、何でもしたい。
だが、自分にそれが出来るのだろうか。

先程のような戦いが続くとは限らない。
魔界というところには多々の魔物があるように、ピンからキリまで、強い魔物も現れるだろう。
そのときに、を理解し、がしっかりと判断して戦えるか。


無意識に、膝に置いた本を持つ手が震える。
不安と、悔しさが心を締め付ける。







温かく、綺麗な手が震える両手の上に置かれる。
優しいそれに、は声の主をゆっくりと見上げた。



「さっきの戦いで僕は、パートナーがであることに、感謝しました」


「え?」


「貴方の心が本を通じて、僕に流れ込んでくる。それが僕と同じであったからこそ、心地よい一体感を感じたんです」



驚く紅の瞳に、はいつもの笑みを浮かべた。
彼の脳裏には先程の戦いがある。


初めての戦いだからこそ緊張感も、恐怖もあった。
相手に見せないようにしながらそれを抑えて。
冷静に対処出来るように精神を落ち着けていた。

だが、が本を持って覚悟を決めたとき、どこか清々しく、心地よく感じた。
心と心が通うだけではなく、まるで異なるモノ二つが一つになって、大きくなったような。


あれを現すのなら、一体どういう言葉が適切なのだろうか。
いや、言葉になど出来はしない。



「貴方だからこそ、力が出せたんです。それは、僕が保障します」


「………でも……そうだとしても、の人生を俺が左右させるわけには……」



例えそうであったとしても。
背負うものが大きすぎる。

はそれを知っていながら、の手を優しく握った。



「僕の望みは、王に相応しい魔物が王になってほしいだけです。僕が王になりたいわけじゃありません」



冷静な言葉に、は目を見開いた。

は王、という立場が欲しくてここにいるわけではない。
ならば何故ここにいるのか。
銀色の瞳は、真剣さを増した。



「ただ、相応しくない魔物が多々います。今日のマグーリのように」


「相応しく…ない?」


「ええ。王は魔界の頂点。それは独裁政治となり、世界を壊しかねない可能性が遥かに高いことを意味します」



千年に一度、決められる王。
絶対的な存在であることには変わらない。
もし力のみで捻じ伏せるような暴君が現れたら。

今まで生きてきた魔界は崩壊し、大切なモノが壊れていく。



「彼らを王にしないためにも、僕は戦いたいんです。王を任せられる魔物達が、王へとなれるように。魔界が、平和になるように…この日本のように」



瞳の奥に見えた流れる景色は、平和そのものだった。
人々は微笑みあって、友や家族と共に歩いていく。

勿論、日本とて平和で幸せが随時あるとは限らない。
法律や秩序で定めても、犯罪は多々ある。
哀しみや苦しみなど溢れている。


それでも、まだここは平和なのだろう。
戦争はなく、環境も整い、未来への希望があるここは。



「…この本が燃えてなくなれば、王になる資格が失われ、魔界へ強制送還されます。あのマグーリのように」



本を攻撃した瞬間、発火して本が消える。
同時にマグーリと呼ばれた魔物が消えたのは知っていること。
それは消えたのではなく魔界へ還った、ということ。



「この人間界で最後の一人になるまで戦い、互いの本を燃やしあいます。…そして生き残った一人が次の王。その魔物に魔界が全て託されます」



それが、吉と出るか凶と出るか。
魔界の運命はその手に握られてしまう。
平和となるか、独裁政治となるか、はたまた世界全てを壊してしまうのか。



「僕は、出来るだけここに残りたい。魔界を任せられる魔物に、託せるまで。それに」



真剣な眼差しは優しくなり、口の端は上げられる。
ふわりと笑って、彼はの手を握った。



「まだ、皆さんと一緒にいたいですから」



人間界で出来た関係。
ここでの家族。
そして昨日出来た友人。

それらを簡単に手放せるわけはない。
まだここにいたい。


はしっかりとした銀色の瞳をじっと見つめた。
自分と同じ髪の色。
しかし、それには意思が宿り、力強く輝く。


(夜空の正体は…魔物、か)


普通の人たちは恐れ慄くだろうか。
自分とは異なる世界の、異なる生物を。

しかし、に全くそういう感情はなかった。
昨日から変わらぬ夜空がここにある。

自分を、救ってくれた夜空が。



「……これが、僕の真実です」


「………そ…か」



長い、長い話だったように感じる。
車は未だにこの都会から抜け出してすらいないというのに。

全てを理解しきれていない頭の中では、一つ一つがグルグルと回るだけ。
目的、意味、これからやるべきこと。
回りに回ってようやく理解へと繋がっていく。
の中で少しずつ理解される中、は口をゆっくりと開いた。



「…、おこがましいことであることと重々承知しています。…ですが、ですがどうか、僕と共に戦ってはいただけないでしょうか」



がしっかりと言葉に出したのは、頼みにしてはまるで、お客に頼む販売業のよう。
確かに普通の人にとっては難しい願いだ。
だからこそ、丁寧な言葉で申し出る。
はそれを知りながらも、顔を少しだけ顰めた。


運転している紅羽は静かに運転するだけで何も言わない。
ミラー越しに様子を窺うだけにしている。
静かなエンジン音だけが、車内に響いていた。















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