チャイムが鳴り響き、クラスメートがぞろぞろと自分の席へと着く。
一時間目担当の先生が教室へと入ってきた。

授業を始める前に、簡単に清麿の事件について話して。
まるで自分のことのように喜んで。
ほんの小さくが引っ越した話をして。


そしてさっさと授業を始めた。



教室に響く、チョークが黒板を叩く音。
先生が一つ一つの言葉を詳しく説明していく。
それを聞き取って理解し、教科書を捲って理解を深め、ノートへと書き写す。

ごく単純な作業でありながら、それが授業というもの。
私語が少しばかりちらつくだけの、時間。


窓の外には変わらない青空。
時々吹く風に木々の葉が揺れる。



あの銀行強盗事件の結果から、皆に認められたのらしい。
先生も生徒も、自分に微笑みかける。
金山や一部の連中はまだ清麿を良く思っていないようだが、こんな気分は本当に久しぶりだった。


いつも陰口ばかりで。
見知らぬ人間さえも自分を睨み、差別する。

そんな学校での生活はまるで暗闇のようだった。
光がない世界で、何の希望も求められない。


心なんて、なければいいと思うぐらいに。

ここは辛い場所でしかなかった。


それが、一番信じていたによる仕業だと思うと尚のことで。












小学生の頃、ずっと長袖を着る女の子がいた。
銀色の髪と紅の瞳の持ち主で、見た目だけでも不思議な存在な彼女。
どんなに暑い日でも、長袖とパンツで肌だの露出させなかった。

自分と違うものは、大体距離を取る。
の場合、見た目から全く異なるのだから子供だけでなく大人さえも距離を取った。

いつも一人で、同情がてらに近寄る人間を一瞬で識別してそれ相応の対応する。
子供らしくなく、休み時間にはいつもどこかフラフラと出かけていた。
さすがに先生方も手を焼いたようだ。


しかし、清麿にとっては興味をそそられる存在だった。
見た目は、ただの日本人ではないもの。
纏う空気は澄んで見えた。

友達になりたい、と思っていた。
近所に住んでいることを知っていたから、尚更。


声をかけるのには勇気がいる。
きっかけもないまま、いきなり友達になろうと言ったところで、どう反応されるか分からない。
そうこうしている間に時だけが過ぎていっていた。



だからこそ、プールのとき倒れているを介抱できたことは、嬉しいきっかけだった。



それからすぐに仲良くなってからは毎日が楽しかった。
女子のくせに男子みたいで、気の合う友人。
大人っぽいかと思いきや、やっぱり自分と同じ子供で。

良く笑い合った。
野球もサッカーも、二人でやれば何でも楽しかった。
そこに他の友達も入ってくるようになって。


小さなことでの喧嘩すらも。
いい思い出だったというのに。












学校の生活を真っ暗にしたのは、だった。
清麿の頭の良さを大声で暴露し、自分を蔑んでいるんだろうと叫んだ。

喧嘩でも、ここまでなることはなかった。
殴り合いとかで済んでいたのだ。
それなのに、意外な言葉は清麿の心を抉った。


そして次の日。
彼女は学校に姿を現さなかった。

現れたのは、清麿に対する蔑みの視線。
自分達とは違うという差別の視線。
クラスメートだけではなく、先生までも。


差別し、無視して。
あちらこちらでは陰口が溢れて。

自分を知らないだろう学校の人たちまでも。



敵となって




「おし高嶺。ここ読め」



過去を振り返っていたら、いきなりあてられた。
小さく驚きながらも、耳はしっかりと教科書のページを聞いていたようだ。
すぐに、ここからだと分かる。



「…はい」



立ち上がって、言われたとおり読み始める。
教科書の中では、友達と喧嘩した主人公が仲直りする場面が描かれていた。

お互いの立場、気持ち。
擦れ違いから生まれた諍いが綺麗に治まる様。
こんな簡単に治まることなど、あるはずもないだろうに。


視界の端に映るのは、持ち主のいなくなった席。
過去の親友、今の憎むべき相手。


(もう見なくてすむんだ、アイツを…)


自分を、あの闇の世界にまで陥れたかつての親友。
見るだけで、思い出すだけで、吐き出しそうになる。

だからこそ逃げた。
自分に何かを言いたそうに、声をかけようとしていたことは知っている。
後ろを、追いかけてきたことをも。


けれど、聞きたくなかった。
あのアルトの声さえも。

姿も見たくなかった。
あの銀色の髪と、紅の瞳を。



憎しみと怒りで、全てを壊してしまいそうで。




「…よし、座っていいぞ」


「はい」


「この場面では、自分を憎んでいた友人の知られざる過去が明らかになるところで、それを理解した主人公が許すとこでだな……」



先生の声が、まるでラジオから聞こえるよう。
耳の中には入ってくるのに、理解せずにするりと言葉が抜けていく。
席についた清麿に聞こえたのは、一昨日叫んだ自分の声と、去り際のの声だった。



『アイツなんか…消えちまえばいいんだ』



そう言ったら、今日、消えた。
急な引越しとか、そんな理由で目の前から。



『…今まで悪かったな、高嶺』



その言葉は、何を意味した?
心からの反省のようにも聞こえるが、まるでその一言で勝手に清算させたようでもある。
こちらにとっては、そんなもので終わるような過去ではないというのに。



『………ありがとう。じゃあな』



何のための、ありがとうだっただろう。
何を秘めた、別れの言葉だったろう。

考えても、答えなど出るわけもない問題。



清々する。
教室が酷く明るい。
闇を作った本人がいない世界。

もっともっと、明るく見えるだろうに。

心はどこか喪失感を訴えている。



そんな理由など、分かりはしない。
この心は教科書に載ってなどいないのだから。


(まぁいいや。もう会うことはないんだから)


この心は見ないことにして、清麿は黒板をしっかりと見つめた。
教科書ガイドに載っているだろう言葉がツラツラと他人事のように並べられる。

今は授業へ集中するのみだ。
そう、進むしかない。

過去とは、もう戻らないことを言うのだから。







LOST

そんな言葉が、頭を過ぎった















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