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「君がお預かり君ね。保健室でゆっくりしてきなさいな」 「う、ウヌ」 保健室へと連れてきてから、担任はすぐに職員室へと戻っていってしまった。 そして挨拶をした保健室の先生も会議があるからと同じように出て行った。 真っ白く、消毒の匂いが漂う部屋。 一昨日、屋上でに助けられて以来。 相手がいない今、話し相手がいるわけがない。 暇としか言いようがなく、ガッシュはそのまま回転椅子へと座った。 くるくると回って見える世界は変わらない。 青い空、真っ白い世界。 変わったといえば、清麿の世界。 そして。 「…………」 が、消えたこと。 一昨日に会って、助けてもらって、あの後で消えてしまった。 担任曰く、急な引越しらしい。 しかし、そんなことガッシュが知るはずもない。 何せ、クラスメートや水野でさえ知らなかったのだ。 きっと清麿を見て一番に喜んでくれるだろうに。 そんなことを考えながら来たのに。 もうはいない。 「だから、はあんな顔をしていたのか…?」 微笑みの中に、影を落として。 遠くを見ていた。 遥か、遥か遠くを見て悲しそうに微笑んでいた。 本当にどこか遠くへ行ってしまいそうで。 消えてしまいそうで。 思わず手を伸ばしたくなる表情だった。 授業中、連れ出してくれた中庭。 涼しいよりも、少し冷たく感じられる風に靡く銀の髪。 紅の瞳には大きな青い空が映っていたのに。 まるで映すだけで、本当は違うところを見ていたのを知っている。 悲しげな瞳に、過去を映していたのを、感じることが出来たから。 『……ありがとな』 ありがとう、と言っていた。 清麿のことを考えてくれて、と。 そして自分のことも考えてくれてと。 『……ガッシュ、高嶺のこと好きか?』 抱きしめてくれたあの体温。 優しい手。 心臓が優しく鼓動する。 小さくも、心地よいアルトの声でそう尋ねた。 友達だから当然だ。 何も疑わずにそう答えると、はあの笑顔で微笑んだ。 『…………なら、大丈夫だ』 何が、なのかは分からない。 聞き返しても、何も言ってはくれなかったから。 でもきっと、清麿のことを後悔していたんだと感じた。 沢山の言葉の中で、まだ彼が大事だという想いが込められていた。 それでも清麿に近づかなかったのは、負い目があったから。 今更戻れないと諦めの気持ちが強かったから。 そして清麿が近寄らせなかったから。 誰からも明らかにされていないその真実だけは、何となく感じることができた。 (屋上のあの事件も、きっとは助けてくれたのだ) 一昨日を思い返して思う。 清麿はこれを否定していたが、それはガッシュにとって確信に近いものがあった。 どれだけ傷だらけになっても、は引かなかったから。 清麿やすずめに手を伸ばそうものなら、すぐに立ち向かったから。 全力で戦って、ガッシュ達に早く行けと促していたから。 勿論、清麿の推理ももっともだ。 屋上に入ったときの扉の音もしなかったし、隠れるところもきっと屋根のあたりだろう。 あんなに大きな喧騒をしていたのだから、気づかないはずはない。 それなのに、あのタイミングで入ってきた。 しかし、それはガッシュにとって好都合だった。 何せ「おともだち大作戦」の最中だったのだ。 清麿が出てくる前にが出てきていたら、これはの「おともだち大作戦」になっていたに違いない。 それこそ作戦は失敗だ。 だが、は。 清麿が現れて、水野すずめとガッシュを彼が守った後に現れた。 これからは、自分の仕事だと。 作戦が成功してから、まるで何事もなかったかのように戦う。 金山と対峙して、拳を、足を振り上げて。 そして屋上が吹っ飛んだ後、すぐに怪我の具合を確認してくれたのだ。 心配そうに、顔を覗き込んで。 どこまでが、の本当なのか。 それは分からないが、は助けてくれた気がするのだ。 「おともだち大作戦」までも。 過去に、清麿との間に何があったのかは知らない。 教えて欲しいと頼んでも、真実を知る人は少ないだろう。 況してや、清麿になど聞けるはずもない。 「……清麿は、もう大丈夫だぞ」 せめて、そのことだけでも伝えたかった。 あの表情はきっと、清麿を追い詰めた自責からきていたものだったから。 「の言ってたとおり、大丈夫だ」 真っ白い空間にポツリと自分の言葉だけが置いていかれる。 伝えたいのに伝えられない。 それがこんなにももどかしい。 きっと伝えられたなら あの優しい腕が抱きしめてくれただろうに 安心させてくれる、癒してくれるあの胸に抱かれただろうに 「でも、これで最後など、私は認めぬからな」 金色の瞳に力が宿る。 それは青い空を、綺麗に映していた。 優しい風に抱かれて、木々は同調するかのように音を奏でる。 「きっとまた、会える」 連絡先は分からない。 会える確率はきっとゼロに等しいところにある。 それでも 「会って、みせる」 直接会って、伝えたい。 清麿が学校で受け入れられていることを。 嬉しそうに、笑っていることを。 もう彼は、一人ではないことを 同じ感情を宿していたに |