夜の風が




辺りを包む











イエスかノーかって訊かれたら気持ち的にイエスなんだけど言葉はノーって答えるのは大人!!












「…ところで?」


「ん?」



抱きしめている神楽が疑問の声でワサワサと手を動かす。
何事だろうとが手を離すと、神楽の手がの一部分に触れた。
その先は、の胸元。

さらしを巻いているため平らなそこを、神楽はおもむろに、揉み始めた。



「わ!?ちょっ、やめっ!?」


「わわ!?何やってるの神楽ちゃん!」


「何。俺たちの前でセクハラ?神楽ァ、そっちの気あったのかお前」



さすがに恥ずかしい。
新八も驚いて声をあげている…銀時は我関せずとばかりに適当なことを言ってるが。
が焦って押さえると、神楽はやっぱり、という表情を出した。



、女の子アルカ」


「…ええええええええええええ!!?」



逆に大声で驚いたのは新八。
それはそうだ。
は見た目、彼と同じ年頃で背は少し小さめの少年なのだから。
驚きの声を聞きつつも、は真っ直ぐな青い瞳に苦笑を零した。



「あ、バレた?一応サラシ巻いてバレないようにしてたんだけどなぁ。よくわかったな」


「え、ほんとに、ええええエェェ?」


「何となくそんな気がしたアル」



神楽は当然、と言わんばかり。
バレた、と言いつつもはヘラヘラと笑うだけ。
そしてその手で神楽の頭を優しく撫でた。



「気持ち的には男なんだけどな。金属の球体、俺だったら三つ持ってる気がするし


「三つゥゥ!?多い!多いィィ!てか無いでしょ!無いから女の子なんでしょォォ」


「アハハ!だから気持ち的には男だってば。昔から。な、銀時」


「お前まだそんな事言ってンの。昔から金属三つだとか袋があるとか……勘弁しろっての


「そんな気がするからしょうがない!」


「しょうがなくねェェェェ!!」



いい加減女として認めねェかァァァ!!
とちょっとした言い争いが響く中。
神楽はに頭を撫でられたまま、じっと抱きついていた。


手当てされたときから感じていた。
地球に来てから、初めて、といっていいほどの一番の安心感。

この撫でてくれる手の温もり。
微笑み。
流浪していたと言っていたけれど、それを感じさせない柔らかい香り。
抱き返してくれる優しさ。

少年だと思っていたのその仕草はまるで


(マミー…)


母親の、ようだと。


勿論、自分の母親とは全然違う。
星も、人種も、何もかも違うのだが、どこかそれを感じてしまう。
会ってから間もない、というのに。



「分かったよ…生物上は女で、気持ち的には男、これでいいじゃん?」


「妥協したように言うなァァ!何も変わってねェだろうがァ!ああもう!お前バカ増したろ!大切なしっかり部分を過去に置き忘れてきたろ」


「そうかなぁ〜」


「いや、そこは否定しましょうよ」




未だに終わらない言い争い。
はどっちかっていうとのらりくらりと笑いながら楽しんでいるようだ。
しかも、どちらかというとボケっぽい。

これから、こんな生活が待っているんだろうか。
面白く、なるんだろうか。

期待が神楽の心の中を占めていく。






「ん?」



呼べば、笑顔で応えてくれる。
神楽は紫苑の瞳を見ながら、身体を離して嬉しそうに笑った。



「明日、私のかぶき町を案内するアル!有り難く案内されるがヨロシ」



いきなりのお誘い。
話が思い切り脱線するであろう言葉。
ツッコミ所は多々ある。
『私のかぶき町』や、『有り難く案内されろ』やら。

それを新八がツッコむ中、は思い切り瞳を開いてから。
嬉しそうに微笑んだ。



「あ、ほんと?嬉しいなぁ〜。有り難く案内されます」


「え、流すんですか!?ツッコミしないで流すんですか!?」


「諦めろ新八ィ。コイツはバカだから。ツッコミなんて芸当出来ねぇから。カテキン中毒だし一週間に一回チョコ中毒だし」


「エエエエエ、まともな人が増えると思ったのに」



新八の嘆き声が響く。
ツッコミ役が少ないのは痛いところ。
そんなことを無視して、と神楽は笑いながら話をし始めた。

かぶき町は私の庭だとか、酢コンブが人気だとか。
デタラメや本当のことを交えて話すそれに、が笑顔で頷く。

今更ながら、銀時はそれをぼんやりと見ていた。












攘夷戦争。

どす黒い血で染まる戦場。


仲間達も天人と呼ばれた宇宙人達も死んでいく世界で、戦いに趣くそこに

白い雲と呼ばれた青年と、黒い風と呼ばれた小さな少女の兄妹が

戦場を駆け抜けて


灰色の嵐と、呼ばれていた



どんなに辛くても笑みを絶やさずに

バカやって笑って

妹はカテキン中毒で

兄はカフェイン中毒で



兄バカで、妹バカで

皆に笑みを分けていた


兄妹







変わらない、という言葉で括れたらどれだけいいのだろう。
確実に変わったことが事実として一つある。

妹しか、残ってないこと。



その後、別れて、何があったのかは知らない。
今現在会って、変わってないところがあるのを感じたが。
変わっていることもある。

笑みが子供から大人になったことや。
少し母性本能みたいなものが出てきていること。
家事も出来ること。
髪が黒から、灰色になったこと。



もっと多く変わっただろう。

自分が知らない間に。












(…どっちにせよ、これから一緒に住むことには変わりねぇけどよ)


神楽はすっかりに懐いたようだし(ある意味、食事で)。
新八もあまり気にしてはいないようだ(ツッコミが大変になるだろうことにガッカリしてはいるが)。

まぁ、依頼を承諾してしまってはしょうがない。
依頼通りに、住居を与えるだけだ。



「案内してくれるお礼に明日の朝食好きなの作ろうか」


「キャホゥゥゥイ!!じゃあスキヤキがイイネ!


「アハハ!そうしたいのは山々だけど、材料がないわ


「!……大人は皆嘘つきアル」


「いや、神楽ちゃん、さすがに無理だからね。スキヤキなんて全然食べれないからね、お金なくて」




当たり前のように馴染む三人。
年頃も近いし、話も合うのだろう。

銀時は一人、のんびりとジャンプに目を通しながら考え始めていた。


一人生活する人物が増えることに、何が必要なのかを。
どれぐらいお金がかかるかを。


(…あーあ、また金が減らァ)


きっちり、には働いて返してもらおう。
そんなことを考えつつ。

心から嫌というわけではないことを、感じながら。















食器を片付けて、新八が実家へと帰った後。
お風呂も借りて、寝巻きに着替えて。
疑問となるのは勿論、の寝床なわけだが。



「俺の寝床?床さえあればいいし」


「ハァァァ?」




一応尋ねた銀時に、あっさりとは期待を裏切って床を指した。
普通は布団をくれだとか、妥協してソファがいいとか出るはずだからだ。
まさか床が出るとは思わない。



「何。床ってここだよ?分かってる?ユカちゃんとか女の子とかいないからねココ。分かってる?」


「そんなんバカな俺だって分かってるよー。だからココでいいって言ってんじゃん」


「ハァァァァァ?」



確認してみても、やはり二人の『ユカ』の意味は同じ。
自分たちが今足の下にある床であるわけで。
さすがにそれはない、とばかりに銀時が嫌そうな声をあげる。
しかし、は本気だ。



「だって俺、ダンボールと新聞紙があれば眠れたし。床があるだけすっごい幸せなんだけど」


「どんだけハードな生活送ってんのお前」



ホームレスだったがために、床があるだけで嬉しいこと。
ヘラヘラ〜と笑うに、さすがの銀時も顔を引き攣らせた。

ちなみに神楽はさっさと寝る、と押入れに潜ってしまっていて今は銀時としかこの場にはいない。
どうやら彼女の寝床はそこらしい。
誇らしげに「私の素敵部屋アル!」と笑った姿は微笑ましかった。
誰もドラ○もんか!とツッコまないのは仕様である。



「せめてソファって言え、ソファって」


「え、マジで?んじゃあ贅沢言ってソファ!わーい!!」


「………」




ソファに贅沢、が出るとは思わず、銀時は反射的に頭を抱えた。
どれだけホームレスをしてきたんだ、と。
しかも嬉しそうに両手をあげて喜ぶ姿を見たら尚更だ。



「あれ、銀時?どした?」



そしては全く分かってない。
キョトンとするだけだ。



「…お前よォ」


「うん?」


「…ああもういいや。何言ってもムダだし」


「アハハ、分かってるぅ」



あっさりと嫌味を納得してしまった。
ここらへんは全く変わってないというか何というか。
しょうがない、とばかりに銀時はとりあえず代えの掛け布団をソファに放り投げた。



「んじゃ俺は隣の部屋で温かい布団ですやすや快適に寝てっから」


「ん、おやすみ〜。わーい!ソファふかふか〜!」


「………」




この嫌味も通じない。
は笑顔で素直にソファにある掛け布団に潜り込んだ。
しかもソファは事務所用のものなので、そんな柔らかいわけがない。
それでもフカフカだと心から喜んでいる。

ここまでされたらもう、何も言えない。
銀時は一人、のそんな姿を見ながら、しょうがない、と大きくため息一つ。
その音と共に、ソファの中から顔がひょっこりと出てきた。



「銀時」


「あぁ?」



まだ何かあるのか、と面倒臭そうに声をあげる銀時に。
ソファから顔を出した本人であるは、どこか切なげに微笑んだ。



「……本当に、ありがとな」


「………」


「いきなりだったのに、依頼って形で押し切ってごめん」



銀時は紅の瞳でを見下げている。
驚きの、目で。
それを、は真剣な眼差しに変えて見つめた。
しっかりと、体を起こして。



新しい生活、新しい家族がいるのに。
知り合いだから、と無理やりここに居座ること。
しかも、万事屋をいいことに、依頼として押し切ってまで。

そこに、お礼と謝罪を述べる。
頭を、下げて。



「本当に邪魔だったら、すぐに言ってくれよ。明日にでも出てくから。…さすがに今日は無理だけどさ…ダンボール集めとかから始めなきゃいけないし」


「……」


「江戸だろうと何だろうと、ホームレスには慣れてるし。あ、言われんなら朝がいいな。そしたら準備出来るしさ」



無理に、ここに居座るつもりはない。
といっても、無理を通してここに至るのだが。

銀時は何も言わない。
ただただ、ソファに座るを見るだけだ。
外から、かぶき町特有の夜の声が、静かに聞こえるだけの空間。
紅の瞳と紫苑の瞳が交わるだけの、部屋。
小さく、の口を開く音が聞こえた。



「無理に依頼してまでここにいるの、理由沢山言ったけどさ」



不動産が見つからなかったから。
色々終ってみたら、いい時間だったから。
江戸に来てまでホームレスは嫌だったから。

本当だけれど、建前のような理由。

でも、本当は二つの理由だけだった。



「本当はさ、もうちょっと一緒にいたかったんだよ。久し振りに会ったから」



攘夷戦争の後、ずっと会ってなかったから。
久し振りに会えたから、話題はなくても一緒にいたかった。



「んでもって、銀時が幸せになってるとこ、ちゃんと見たかっただけだから」



ホームレスは関係なかった。
銀時をここで一目見てから、せめて一日だけでも一緒にいたかった。
彼の幸せを、しっかりと見てみたかった。



新しい場所で、新しい家族と一緒に

新しい幸せを掴んでる姿を






「幸せそうで、よかった…銀時」





今日一日ここにいて、の瞳から見えた彼の世界。


新八も、神楽も、定春もいる。
新しい土地で、新しい家族を得て、幸せなんだと感じられた。
経済的にカツカツだとか嘆いていたけれど。




銀時の世界は、輝いているように見えた

攘夷戦争の、あの時よりも



ホラ

今、だって



死んだように見える紅の瞳は


キラキラ輝いてる







は、銀時を見つめてフワリと微笑んで。
言いきったとばかりに布団に潜り込んで瞳を閉じた。



「…今日は本当にありがとね。…おやすみ、銀時」


「…………オイ、……お前は……」



銀時が、戸惑い気味に声をかける。
真剣な低い声で、問いかけようとしているのにの瞳は開かない。
言葉の続きを紡ごうと口を開いたときに彼の耳に届いたのは。



「………ぐぅ」



鼾だった。
途端に銀時は思い切り前へとズッコケた。



「早!お前はノビタ君か。ノビタ二世を狙うつもりかコノヤロー」


「……ぐぅ………むぅ、茶カテキンは安心な中毒です」


「何の寝言?っつーか夢の中までカテキン中毒?どんだけドップリ浸かってんだカテキンに」




は何やらスッキリしたのか、意識がもうここにはなかった。
銀時の声も、返事も聞かぬまま。
しっかりと寝言まで吐いて。
心なしか大きい彼のツッコミすら聞こえずに。


寝息を聞いてからしばらく、銀時はその姿を見下ろして。
一つ大きな溜め息を吐いて、後ろ首を掻いた。



「……変なところで大人になりやがって」



一瞬一瞬見せる、知らない『』。
表情、言葉。
心。


成長を意味するそれは

戸惑いを覚えるモノ



だからこそ、一緒に住むという依頼を受けかねた。
昔とは、違ってしまうことが多いから。
勿論同じ部分も多々あるが。
それでも昔と同じようにやってけるなんて自信がどこにもなかった。




受け入れたのは、神楽や新八が馴染んだということが一つ。



それと


少なからず自分が望んでしまったからだ





どう成長したのか、知りたいと







「…まぁ、いっか。ウダウダ考えてもしゃーねぇし」



目覚めない灰色の頭をグシャグシャとかき混ぜてから、その部屋の電気を消した。
暗闇の中、カーテンの向こうから零れるネオンが小さく揺れる。


流浪している理由も知らない。
わざわざ江戸に出てきた理由も知らない。
ここに置いてやる義理はない。

だが。



「…これからの食事、期待しておいてやるよ」



依頼は受諾した。
それは、もう、取り消す気などなかった。