決戦のとき




負ければホームレス逆戻り














料理は下ごしらえをしっかりとしないと、とんでもないものがデキちゃう不思議!!














貰ったチャンスはしっかり使うべし。
はしっかりと台所を借りて、ある材料、道具を調べていた。

カツカツ、というだけあって、買い物してきても目ぼしいものはほとんどない。
その中で、どんな料理を、美味しく作れるか。
腕の見せ所はそこだ。



「…どうです?作れそうですか?」



食材を出してくれた新八が窺うように声をかける。
ちなみに神楽と銀時は居間で待つことにしたらしい。
時々そちらから会話が聞こえてくる。

は灰色の長着をベルトに委ねるように上だけ脱ぎ、紅の長袖Tシャツを捲った。
適当にゴムで後ろ髪を結って、声をかけた少年に笑顔で返した。



「出来なきゃホームレスなんだし、出来なくてもやるっきゃないしょ」


「何か足りないものあるなら買ってきますよ?」


「んにゃ、大丈夫。俺もツカツカでやってきたから、それ系の料理は心得てるから」



有り難い申し出を断って、はニッコリと笑った。
と、いっても十分足りるのだ。

さてと、と取りかかり始める。
ある材料、今までの知識、道具、全て総動員させて体を動かす。
フンフンと鼻歌を交えながら。


(久し振りの料理だなぁ)


流浪生活に入ってからは、そんなに料理は出来なかった。
バイトですることはあっても、家庭的なそれをするわけでもなく。
大体、バイト先が出してくれるまかないを食べていたようなものであったのだから。


(さぁて、キャベツがあるから〜、これとこれを入れて〜。煮込んでる間にこっちでアレでも作って〜)



手際よく、包丁で捌いてコンロで煮込んで。
その間の時間を利用してもう一品。
お米もその間にちゃんと炊いて、とトントンと進んでいく。

新八はその様子をポカンと口を開けて見守っていた。
本当に料理が出来るなどと、思っていなかったからこそ。
いつも彼らの料理を作っていた新八だが(日替わり制だが、何故か彼の当番の数が多い)、それよりも手際よく、着々と作っていく。
まさに、母のように。



「…凄いですね」


「んー?」


「あの材料から、なんでこんなに出来るんですか?」



大体、味噌汁やら油炒めやらで終わっていたというのに、自分が作ったことない料理が並ぶ。
素直に感嘆の声を零す新八に、はクツクツと小さく笑った。



「言ったろ?慣れてるってさ」



貧乏暮らしはダテじゃない。
自分のためだけではなく、誰かのために料理をするのも慣れているためにすぐに出来る。
それは、攘夷戦争の後で、の経験だが。



「いや、それにしても…今度教えてもらっていいですか?実家で作る参考に」


「アハハ、こんなんで良ければどうぞ」



小一時間すれば、辺りは美味しそうな匂いに包まれる。
新八と話をしながら久し振りに作った料理は、中々の出来。
米も炊けたようで、時間も丁度ご飯時。
全部作り終えて、はとりあえず一息ついた。



「よし、終了。新八君、運ぶの手伝ってくれる?」


「あ、はい」



あとは食べるだけ。
判定を残すだけだが、悔いはない。
は笑顔崩さずに、新八と一緒に料理を運び始めた。


先程手当てをしてもらった部屋では、相変わらず銀時がジャンプを読んでいる。
その横のソファで神楽がグッタリと倒れていた。
どうやらお腹が空きすぎたらしい。



「ご飯出来たよ〜神楽ちゃん、銀時」



一声かけると銀時は視線をあげ、神楽は身体を思い切り起こした。
特に神楽は待ってましたとばかりに視線をキラキラと輝かせている。
新八は淡々と料理を置く傍ら、もクツクツと笑いながらテーブルの上へと並べた。

並べられたそれらを見てキョトンとする人在り、期待する人在り。
それを横目に茶碗に白いご飯を盛って、出来上がり。



「新八君も食べてくだろ?」


「あ、ハイ」


「ん、了解。ハイ、ご飯」



三人分、そして自分のを適当にそこらの食器に盛って、箸を渡して準備は完了。
新八のアドバイスに従って、普段より多めに作った料理を前に銀時が訝しげに声をあげた。



「…え、何コレ。本当にお前が作ったワケ?」


「うん。新八君が証人。お肉がないからハムとかで代用したりとかしたけど、たぶん味に支障はないと思うな」



どうやら本当に作ったのか、疑問が上がったらしい。
それはそうだろう。
銀時の知っているは、料理などほとんど出来ないに等しかったのだから。
その横で新八が「本当ですよ」と言いながら定春用にドッグフードと水を受け皿に流している。



「…食べていいアルカ?」



どうやらずっと我慢していたらしい、
神楽の口からは涎が出ていて、上目遣いでを見上げた。
そんな可愛らしい姿に、はニッコリ笑って促した。



「ん、どうぞ召し上がってくださいな」


「いただきます!!」



我先に!とばかりに神楽が箸を動かす。
ご飯ではなく、先におかずに手を伸ばし、口へと運ぶ。
味は彼らの好みに合うだろうか。
は反応を見るべく、じっとその動作を見つめる。



「…どう?神楽ちゃん」



モクモクと口を動かす少女に窺う。
銀時も、新八も反応を見てから動き出そうとしているらしい。
何も言わずに、ただ口を動かして。
そして。

彼女は無言のまま鋭い速さで箸と口を動かし始めた。



「おお、凄い食べっぷり」



感想などなく、ただひたすら食べ続ける。
ガツガツガツガツ、という音が好ましいほどだ。
が呆気に取られつつ感嘆の声を零す。

途端。



「神楽ァァ!!お前ばっか喰ってんじゃねェェェ!!」



銀時、新八も奮って参加し始めた。

箸がまるで乱れ咲くように飛ぶ。
の目が点になるぐらい、素早く動く箸と口。

これぞ食卓戦争。



「……おかわりあるから、そんなガッツくことねぇよ?」



さすがにこんな反応を考えていなかったために、それを緩和しようとそんな言葉が出る。
実際、「今これを食べなければ一生食べれない」という空気が辺りを包んでいる。
材料は買い出しに行かなければないが、おかわりの分は多めに作っていたから間違ってはいない。



「ふむむむ!!」



おかわり、と言葉を出した途端、の目の前には空っぽのお茶碗が差し出された。
手の持ち主は神楽。
どうやら、おかわり、らしい。
しかもその間、口ともう片方の手は止まることを知らない。



「はいよ」



とりあえず茶碗を受け取ってご飯を盛って差し出すと、奪うように取っていく。
すると今度は銀時の茶碗と新八の茶碗が飛んできた。



「………おかわり?」



そう尋ねれば頷き二つ。
またご飯を盛れば、また戦争再び。

こんな食卓などあっただろうか。
どんなに激しくてもここまでとは思わない。
あまりの戦争振りに。



「…アハハハハ!!」



は笑い始めた。
それでも戦争が止まるわけない。
またそこがツボを刺激する。

美味しそうに食べてくれるのならば、これは作った人にとっては至福の喜び。
だからこそ笑みが零れる。


チャンスだとか、そんなのどうでもいい。
ただ、食べてくれるのが幸せ。

こんな感じは、久しぶりだった。






久しぶりの食卓は、戦争と笑い声が占めた。












とまぁ、食卓戦争が終わればお茶を出して一服。
満足といわんばかりの神楽の横で、ものんびりお茶を飲みまくっていた。
勿論、出がらしになるまで。
(そこに新八からツッコミを受けたが、は全く気にしなかった)



、ご飯美味しかったアル!」


「本当に美味しかったです。ごちそうさまでした」


「アハハ、お粗末様。お口に合ったようで何よりだよ。それが一番嬉しい」



食卓戦争の名残、綺麗になった食器類。
お茶を飲み終わったら洗い物だなぁ、とはニコニコしながら二人の嬉しい声に応えた。



、私が許すアル!ここに住むがヨロシ!」


「ここが駄目でも、僕のところもありますから安心してください!」


「アハハ、ありがと」



神楽から許しがでて、新八から声もかかる。
どうやらホームレスに戻ることは無さそうだ。
後は、ここになるか、それとも新八に甘えてそちらに趣くか。
全ては、ここの主の銀時にかかっている。

自然と視線がそちらへと向く。
神楽も、新八も、も。



「…で、銀時。ご飯、どうだった…?」



もしかしたら、料理がなくなるかもしれない、という意識の元で食卓戦争になったのかもしれない。
また、なりゆきとはいえ、自分が押して無理にここに住ませろと言っているのだから無理かもしれない。


(出来れば、ここにいたかったけどなぁ…)


無理ならしょうがない。
のんびりと窺っていると、おもむろに銀時は溜息を吐き出した。


(…無理っぽいかも)


はそれを見て苦笑を零し、とりあえず食器をさげようとしたときだった。






「ん?」



ここに来て、初めて名前を呼ばれた。
いきなりのことに、紫苑の瞳を瞬かせる。
瞳に映るのは、いつもと変わらぬどうでも良さそうな表情。
紅の瞳はそれでもしっかりと、を捉えていた。



「…言っとくけど、本当にカツカツだかンな」


「?うん、聞いたそれ」


「アレがないコレがない言われても、何も出ねェから。マジで」


「うん」


「お茶とか高いのとか無理だからな」


「お茶であれば美味しさとか関係ねーよ俺は。ヤバかったら団子屋行って無料茶たらふく飲めるし


「それいいんですかね」



新八がそことなくツッコむ。
しかし、はのんびりと「いいんだよ」と笑顔で答えた。
手には勿論、出涸らしのお茶。
もう色のないそれだが、一口、美味しそうに啜った。
銀時はそんな様子を、横目で確認して口を開いた。



「…それで、イイんだな?」


「うん」


「………それでイイなら、勝手に住めばイイんでない」



屈折している、了承の言葉。
瞳はすでに外され、そっぽを向いている。
キョトンとするに、目を覚まさせるような突撃が横から襲った。
歓声と一緒に。



「イヤホォォォイ!!!良かったアル!!これからも美味しいご飯食べられるアルヨ!!


「神楽ちゃんソコォォ!?あ、とりあえずおめでとうございます」



抱きついてきたのは、神楽。
向かいから声をかけてきたのは笑顔の新八。

まだ思考が追いついてきていないながらも、反射的に神楽の頭を撫でた。
まるで、大きい子供のようで。
心の底から喜んでくれているのを感じて。

ようやっと心が追いついたとき、は心から笑みを零した。



「…うん、ありがと」



撫でながら、優しく神楽を抱きしめる。
そして、新八にも笑いかけて。
勿論、そっぽを向いている銀時と、こっちを向いている定春にも。

ありがとうを。














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