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夜は更けて やがて朝はやってくる 朝食って一番大事なんだけど、朝起きるのって凄く面倒臭い気がすんの俺だけ!? 万事屋の朝は、とにかくゆるい。 新八がやって来てご飯を作って、それから起こすぐらい。 勿論御飯作りは当番制のため、新八じゃないときは銀時や神楽が作るのだが、その活動時間自体が遅かったりする。 時には朝御飯が十時以降となり、昼御飯と兼用じゃないかと新八が文句を言うくらいだ。 今日もまたその一日の始まりだろう。 九時ごろ、新八はそんなことを思いながら万事屋の扉を開けた。 が。 「お、新八君おはよ」 起きている人物がいた。 昨日と変わらない、灰色の髪を揺らして紫苑の瞳が微笑む。 まさか起きている人がいたと思っていなかった新八は目を点にしながら、反射的に。 「あ、おはようございます」 とだけ返した。 起きていた人物は「朝から丁寧だなぁ言葉」と笑顔で誉めて中へと促す。 今更ながら彼女、がここに住むことになったことを思い出す。 そうして、いつも食事を食べる事務所となっている部屋では。 「…うわ、槍が降りそう」 いつも寝たままの、銀時と神楽が起きていた。 しかも、食事も着替えも終わらせていた。 しかも目がパッチリ開いて、各々ジャンプを読んでいたり定春とじゃれていたり。 普段じゃあり得ない光景に、そう呟いてしまうのは仕方がない。 その後ろではクツクツと小さく笑って解説を始めた。 「神楽ちゃんがな、俺を案内するってハリキッて早く起きちゃったらしくて。そのテンションで銀時の布団の上ではねて、起こしちゃったんだよ」 「ああ…なるほど」 「お陰で銀時、ちょっと不機嫌そうだろ?」 想像するのが容易いのは、二人を良く知っているからだろうか。 納得する新八の目には、機嫌が正反対の二人が映っている。 まるで旅行に行くかのようにウキウキして定春を撫でている神楽。 そして、いかにも嫌々そうにジャンプを読む銀時。 昨日、訪れた人物はそれを見てケラケラと笑って、結っていた髪をほどいた。 「あ、新八君はご飯食べてきた?」 「あ、ハイ」 「そっか、良かった。じゃあ、ご飯終わったし、洗い物終わったし…後は洗濯物でも干すか。天気もいいし」 「…めっきり主婦ですね、さん」 「アハハ!それが条件だからなぁ。朝、ちゃんと銀時から正式な許可貰ったからな」 主婦発言に気を悪くするわけでもなく、ケラケラと笑って洗濯機へと赴く。 灰色の後ろ姿を見やってから、新八は改めて挨拶しながら事務所へと足を踏み入れた。 今日の依頼はゼロ。 従って、いつもどおりグダグダこの事務所で過ごすんだろうか。 お茶を啜りつつ、のんびりとテレビでもつけてニュースを見たりする。 その間にも、はベランダに出て洗濯物を干し始めた。 鼻歌を歌いながら。 その姿を見て、昨日から何となく思っていたことを。 彼女に聞こえないように、銀時へと声をかけた。 「…銀さん?」 「あー?」 「結局、僕と神楽ちゃんの提案で依頼受けたって形になっちゃいましたけど、本当にいいんですか?正式な許可を下ろしたって聞きましたけど」 気になっていたのは、自分達の提案で勝手に受諾してしまったということ。 確かに銀時もノってはきたが、一時のテンションに任せていたのかもしれない。 そんな小さな不安が、心の中で燻っていて。 銀時はジャンプからちらりと顔をあげたが、すぐにそのままジャンプへと視線を落とした。 大きな溜め息一つついて。 「しゃーねぇだろ。受けちまったんだから」 と、軽く流した。 そう言ったからには、ちゃんと受けることにしたんだろう。 それを朝、にちゃんと告げたのだろう。 素直じゃない銀時だからこそ、そっけなく言ってるのかもしれない。 新八はそこに安堵して、「そうですか」と笑った。 それならば、大丈夫と。 今日の朝。 神楽に無理やり起こされた後、銀時は寝呆けたままのんびりと髭を剃っていた。 食事のいい匂いが鼻を擽る。 そして、偶然近くを横切ったに、しっかりと言い切ったのだ。 こんな具合に。 「お〜い」 「ん〜?」 「お前昨日よくも俺の言葉聞かねーで寝てくれやがって。銀さんのハートがどんだけ傷ついたか分かってんの?皆の銀さんのガラスのハートがブロークンだよ、ブロークンハート」 「あ、うんゴメン?ブロウ君って誰?」 「いやむしろ、そいつ誰ってこっちが聞きてェよ。あー、もうイイヤ。うん、それはいい。面倒臭くなるからツッコんでたら」 「アハハハさっすが銀時〜分かってるぅ〜」 「分かってる〜じゃねェー…。とにかく依頼のことだ。依頼」 「ん、覚悟は出来てるよ〜。バッチコイ!」 「受けたからには、取り消さねーから」 「へ」 「クーリングオフ期間はねーからな」 と、あっさりと。 正式に許可した、というような言葉をしっかりと紡ぐことはなかったが、それはちゃんと伝わったらしい。 視線を合わさずに髭を剃り続ける銀時に、穴が開くほどの視線が届く。 どうやら、断られると思っていたらしい。 一瞬呆けたは、すぐに笑顔で「ありがとう!」と思い切り抱きついた。 そのとき、危うく眉毛まで剃りそうだったのは記憶に新しい。 そして、神楽も「私も入れるネ!」と意味なく突撃して銀髪が少し吹っ飛んだのも記憶に新しい。 和室の向こうのベランダに再び目を向ければ、神楽が定春と一緒に話しかけているのが見える。 どうやら「まだか」と声をかけているらしい。 それに受け答えするはやっぱり笑顔で。 「…こう見ると、本当に親子に見えちゃいますね」 好奇心旺盛で、純粋な神楽と。 笑みを絶やさずに聞いているは。 血はつながらず、歳が近くても昨日会ったばかりでも親子に見える。 微笑ましい光景に新八が微笑むと、銀時は逆に「ハッ」と鼻で笑った。 「なーにが親子だよ。全然似てねぇだろうが」 「いや、確かにそうですけど」 「あんな親子がいたら迷惑だっつの。むしろ世界崩壊だよ、崩壊。分かる?いちご牛乳が飲めなくなっちまう世界になるってことだ」 「なんでよりによっていちご牛乳!?」 「いちご牛乳は世界の平和より大事なんだー、覚えとけ」 「どんな平和!?」 そんな会話が続く中、がベランダから戻ってきた。 どうやら洗濯物を干し終わったらしい。 時計はまだ十時を回っていない。 普段ならまだボケっとする時間だというのに、家事のほとんどが終わっている気がする。 一人、労働力が増えると、こうも簡単になってしまうものだろうか。 感心すら覚えてしまう。 「!終わったアルカ?」 「ん、終わった終わった。他に何かあるかなー」 「ないと思えばないアル!さっさとかぶき町に繰り出すヨ!」 神楽はもう飛び出しそうな勢いだ。 これを断ったら、膨れて面倒臭いことになり兼ねない。 はそんなこと露知らず、クツクツと笑いながら銀時へと視線を向けた。 「銀時、何か他にありそう?」 「あー?ねーよ」 「そっか。じゃあ、行ってきていい?」 「当たり前アル!私が許してるんだから間違いないヨ!」 「神楽ァ、お前に決定権はねぇぞ〜。どこをどう間違っても決定権は銀さんにあるから。銀さんのステージだからね、この話は」 「そうだよ神楽ちゃん。銀時のスティーブだもん、ここは」 「スティーブって誰?!」 話がどんどん混沌と化していく中、一人新八がツッコミに回る。 そこに誰もつっかからず、混沌の元凶である勘違いを犯したもヘラヘラと「あれ?ストーブだっけ?」ととぼけている。 これが素だから手に負えない。 新八がしっかりと「ステージです、ステージ!」と教える中、銀時は重い腰を上げた。 ジャンプを閉まって、財布を取り出す。 それを懐へと入れ、さっさと玄関へと歩き出した。 「おらー、行くぞお前ら」 「へ?」 の疑問の声にも止まらない足。 ポカンとする彼女の横から、神楽と定春が嬉しそうに追いかける。 「…銀時は仕事でどこか行くとか?」 「いやいやいや、違うでしょ。明らかに一緒に行く発言だったじゃないですか今」 行く、と促した手前、仕事かと思いきや新八が思い切り違う、と言い切る。 そこには思い切り驚いて、自分より少し背の高い新八を見上げた。 「へ?だって仕事は?いいの?」 万事屋の仕事はない、と言っていたが、これから依頼人が来るかもしれない。 だからこそ、銀時や新八が留守番しなければいけないというのに。 新八は心配するに、アハハと軽く笑い飛ばした。 「イイんじゃないですか?僕らいつもこんな感じですし」 「でも…」 「それに、これからここに住むんだったら大家さんへの挨拶周りもありますし、要る物もあるでしょ?」 その物持ちにも人員は必要ですしね、と続ける新八に、は申し訳無さそうに頷いた。 一人が住むには色々な物が必要になることは知っていたが、ここまで巻き込んでしまうとは。 決定してしまったことはしょうがない。 ならば、恩返しは違う形でするしかない。 新八に促されながら、今度は決意を秘めた目で見上げた。 「新八君」 「新八、でいいですよ。同じ歳ぐらいですし。で、何ですか?」 微笑みで返してくれる彼に。 も微笑みで返す。 「俺、頑張るから。こんな面倒な依頼受けてくれた恩は絶対、返すから」 これは約束。 誓い。 そうすることで、借りを返す。 真剣な言葉に、新八は真剣に聞く。 はそのままニッコリと笑った。 「それを、とりあえず新八に誓っとくから」 「ええエエエエ!?とりあえず僕!?しかも誓っちゃうんですか!?」 先程までの真剣な空気がすぐに駄目になる。 新八のツッコミの向こうからは神楽が急かす声が響く。 「〜!新八ィ〜!早くしないと定春が噛みつくアルよ〜!!そして世界が血の色に染まるヨ〜!」 「アハハ!今行くよ〜」 待ってくれているだろうそこに、はケラケラ笑いながら新八と歩く。 行く間際に、しっかりとガス栓を閉めたり戸締りを確認しながら。 ブーツを履いて、後ろを振り返ると部屋の中には太陽の光が入り込んでいる。 ここがしばらくの間の家。 帰ってくる場所。 「…いってきます」 小さく、誰にも聞こえないように呟く。 久しぶりに言うその言葉は、まるで新しい意味を持つかのよう。 輝く部屋に、はふわりと微笑んで扉を閉めた。 |