拝啓



お元気ですか













手紙の文頭と文末につく挨拶の言葉が色々混ざってサッパリ分からなくなります















〜?」


「ん〜?」



アルバイトを始めてからも家事はしっかりやる。
お日様が輝くお昼に洗濯物を干しているときに、後ろから声がかかった。
銀時と新八は出かけている。
この可愛らしい声は、神楽だ。



「手紙来てるネ」


「手紙?俺がここにいるって知ってる人いたかなァ」



パンパンと洗濯物を叩いて皺を伸ばす。
全部干し終わったところで部屋へと戻って神楽から手紙を受け取った。
宇宙からの手紙らしく、星の姿が描かれている。

がここにいるのを知っているのは万事屋メンバーと真選組の人達ぐらいのはずだ。
自分に手紙を書く人物がその中にいるなんて思えない。
会う方が早いから。
また、己が探している友人が知っているとも思えない。
不思議に思いながらも、は封筒を開けた。
そして文をちらりと見た途端。



「…………ええええ!?」


「誰からだったアル?」



知ってる人の名前に驚きの声を出してしまった。
神楽も驚いて覗き込む。
しかし、彼女にとっては知らない名前だ。


何でここに自分がいるか分かっているのだろう。
全く今までお互いに連絡を取らなかったのに。
そんなことが考えとして頭を占めていく。



「…友達」


が探してる友達アルカ?」


「ううん、別れてから全然連絡取れなかった友達…」



懐かしい。
とにかく驚きは置いておいて、はゆっくりと手紙の内容を読み始めた。
笑みをしっかりと浮かべながら。
字は相変わらず達筆だ、だとか思いながら。







拝啓、


元気にしてますか

がそこにいることを何で知ってるか疑問に思っていることでしょう

実はこの間居酒屋で働いてるところを偶然見つけて、帰り道をバレないようにつけてました

そのまま会うのも良かったんですが、手紙を出してみたかったので出しました

驚かせてゴメンネ


話は変わるんですが、遊びませんか

久しぶりに話したいです

チケットを封筒に入れときます

指定してる日にちと時間にターミナルに来てください

待ってます


P.S.特に追記することないけど、使ってみちゃった!P.S.!あ、そういえば髪灰色になっってたことに驚きました











「…つけてたの!?ウソ!話しかけてくれれば良かったのに!」



本来ならばもっと沢山のことにツッコミを入れるべきなのだろう。
P.S.の意味が分かってないのか、とか。
勝手に会う約束を決めやがって、とか。

だが、にとってはそれほど重要ではない。
つけられていた、そしてそれが分からなかったことが重要だ。
戦から幾分か時が経って、気配すら読み取れなくなったという意味なのだから。
しかも、大事な友のを。


神楽はもう興味がないらしく、定春にかまっている。
しかし、つけられていた、の言葉に引っかかったらしくゆっくりと顔をあげた。



「ストーカーアルカ?」


「いや、違う…と思うけど……えええええ」



さすがにストーカーではない、と思いたい。
それを否定しつつも手紙の内容に驚きすぎて、頭がついていかない。
封筒を覗いてみれば、手紙の内容どおりチケットがある。

宇宙旅行、と。



「折角バイト決まったのに、すぐに休み取れってか…会いたいからって、そんな強制的な…。変わってないというか何とうか…」



旅行のチケットに書かれた日にちを見れば、何と明日。
急な用件なので恐らく、この再会を断っても大丈夫だろう。
相手も相手だ。

だが。


(久しぶりに、会いたい)


この想いの方が強かった。

店長に無理を言うことになる。
また、折角住まわせてもらってるここにも迷惑がかかる。
明日から明後日にかけて、家事も何も出来なくなるのだから。

それでも。


(…会い、たい)




しばらく考えてから、手紙とチケットを綺麗に封筒に入れ直して、自分専用に買ってもらった簡易型のタンスへと入れた。
自分の服や何やら入ってるそこに、そっと大事に置いて。
覚悟を決めて神楽へと振り返った。



「…神楽ちゃん、俺明日から明後日にかけてちょっと朝から出てくるわ」



いきなりの申し出に、神楽は目を真ん丸くする。
そしてをじぃっと見つめて口を開いた。



「?何でネ?」


「この友達、普段きっと忙しくて会う機会ないからさ…ちょっと会ってきたいんだ。で、それが明日と明後日しかなくて」



素直に、は心の内を話した。


きっとこの機会を逃したら、会えない。
そんな気がする。
彼のことだ。
江戸にいるのも、きっと短期間だろうから。

バイトも休むし、家事も休み。
迷惑かかることこの上ないけれど。



「だから二日間、家事出来なくなるけど…ゴメンな」



そうしてでも、会いたい友達。
ずっと前に別れて、会えなかった人。


申し訳無さそうに謝るを、神楽は青い瞳でじっと見つめていた。
いつも笑っていて、こんな表情を滅多に出さないからこそ。
別に思いつめる必要なんてないのに、と思いながら。
何とも無さげに神楽は口を開いた。



「…私が許すアル」


「え?」



他の言葉が出ることを考えていたの目が見開く。
しかし、その心をよそに、彼女は簡単に声をかけた。



「別に大丈夫ヨ。銀ちゃんや新八には文句言わせないアル!だからうんと楽しんでくるがヨロシ!」



羽を飛ばすことも必要ネ、と言い切って神楽は胸を張った。
しかもその後に今後もしっかり働いてもらうためには、と付け足すから末恐ろしい。
普通の人なら有り難さ半減だろう。

しかし、辛辣な言葉の裏に隠されている優しさ。
きっと銀時達が何を言っても、言い返してくれるのだろう。
それをしっかりと感じるからこそ、は嬉しくなって頭を撫でた。



「…うん、ありがと、神楽ちゃん」



素直にお礼を言う人は、周りには少ない。
しかし、は別だ。
当たり前のように感謝し、言葉に出す。

だからこそ照れくさくなり、神楽は時計に視線をそむけた。
そして、その針が示す時間に、思い出す。



「…そいえば、今日仕込みあるから早く行くって言ってなかったアルカ?」



時計はまだ三時。
出勤にはまだ早いが、銀時や新八が出かける際、そんなことを言っていた気がする。
戻ってくる頃にはいないかも、と。

家事や手紙にすっかり気を取られていたは目を瞬かせて時計を見る。
思い出すこと数秒。
は悲鳴をあげながら、仕度をし始めた。



「………あああああ!!そうだ!行かなきゃ!ば、晩御飯も作ってないのにィィ!買い物も!」



予定では全部終わらせるはずだったのに、時間は待ってくれない。
有言実行のはずが!あれ、幽霊実験だっけ、とお決まりのボケをしつつバタバタと財布を取り出したりしている。
神楽はそれをぼんやり見ながら、口を開いた。



「それぐらい私に任せるネ!」



まさかの提案に、の動きはピタリと止まる。
彼女はまた、偉そうにふんぞり返っていた。



「…え、本当に!?」


「私も女ヨ。一人で出来るアル!だからはもうバイト行ってきていいアル」


「ほ、本当に!?有り難う神楽ちゃん!帰ったらお礼に酢昆布買うから!絶対だから!」



今のにとっては天の助けだ。
酢昆布、と頭にしっかり叩きいれながらは玄関へと走った。
その後を、神楽が同じように送り出す。



「買い物は何かいるアルカ?」


「ええと晩御飯は新八にお願いするとして…あ、トイレットペーパー安売り今日までだ!お願いします!」


「了解ヨ〜」


「行ってきます!また深夜に帰って明日は朝早く出るから会えないかもだけど、朝御飯はちゃんと作っておくからな!」



慌てたまま、はドアを思いっきり開いて走り出した。
まだ陽が高い夜の町を駆ける。
その姿を神楽は上から見送った。

ときどき転びそうになりながら全力疾走する背中。

今まで見たことない表情が沢山見れた気がする。
それだけで、何となく満足していた。
明日明後日会えなくなるとしても。



「…さて、今日からの代わりに、この万事屋の天下を取ってやるネ」



買い物では酢昆布を少し大量に買おう。
後は新八の言ってくるであろう料理の材料さえ買えればいい。
とにかく彼ら二人が帰るのを待つか。

神楽はそう結論づけて、万事屋の中へと入っていった。
そして、彼らが戻るまで定春の背中でぐっすりと昼寝を楽しむのであった。

















そして時間は待ってくれることなどしてくれない。
はゆっくりと静かに扉に手をかけた。
カラカラと小さな音が鳴る。



「…ただいま〜」



深夜。
しんと寝静まった万事屋の扉をくぐって戸締りをしてから中へと足を踏み入れた。
バイトをするようになってから、この状況はほとんど毎日、小声で挨拶をしている。
まだやっているスナックお登勢に顔を出してから戻ってくるのだ。

電気をつけずに、壁を伝っていつも寝ている部屋へと入る。
初日と変わらない事務所のソファへ。


ソファに布団、というのもおかしい話だが、いつもそうやって寝ているのでもはや違和感はない。
しかもが戻ってくる頃には神楽も銀時も寝ているために、前もって布団を敷いてくれている。
(時々銀時は帰ってこない日があるが)
(きっとそれは大人の事情だと思って放っておいている)
(この間それを言ったら頭を叩かれた)
(今日はちゃんといるらしい。ブーツが玄関に転がっていた)
この優しさが嬉しい。
窓の外から零れるネオンの光に照らされたそこに、は人知れず微笑みを零した。



「…ん?」



テーブルをフと見ると置手紙が置いてある。
チラシの裏を使ってるあたりが経済状況を物語っている。
そこに小さく笑いを零してから、マジックで書かれた内容を暗がりの中どうにか読み取った。







明日と明後日に私達三人は旅行に行ってきます

朝ごはんは軽めでいいです

よろしくおねがいします


P.S.トイレットペーパー買うの忘れちゃいました。ゴメンネ
あと、ちゃんと銀ちゃん達に言っておいたネ。許しがちゃんと出たからゆっくり友達と会ってくるがヨロシ!


工場長より






「……くくっ……こ、工場長…っ!



何で工場長なのかは分からないが、この字は明らかに神楽のもの。
一生懸命に書いたらしく、ところどころ漢字を修正した跡が残っている。
しかもトイレットペーパー買い忘れたことを追記にするあたりが面白い。
深夜だからこそ大声で笑えないことが苦しい。
は腹を抱えながら、小さくクツクツと笑った。



「ハァ…面白いなほんと」



朝御飯軽めね、と冷蔵庫を開けて中身を確認する。
御飯と味噌汁、そして漬物と卵焼きぐらいしか出来ないだろうか。
これまたタイミングがいい。
神楽の軽く、はあまり当てにならないのだから。

炊飯器をセットしてから風呂へと入り。
寝る前の色んなことを終わらせてからソファへと戻る。

神楽からの手紙をもう一度見てから、はいらないチラシとマジックを取り出した。




拝啓、工場長、銀時、新八


お手紙拝見しました



旅行、気をつけて行ってきてください

楽しんでな


P.S.洗い物はお願いします。出来なかったらせめて水につけておいてください
あと、外出許してくれて有り難う!


敬具、





「…敬具でよかったっけ?」



手紙の挨拶は久しぶりなため、分からない。
他に沢山あったはずだがこれしか思いつかない。
敬語?いやそれは違った意味だった。
まぁいいか、とそのままは放っておいた。

布団に入って、明日に想いを馳せる。
久々に会える、友人に。















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