いいことは




ずっと続くもんか


















下着を盗むときは、自分が犯罪者だという認識で


















快援隊のおかげで無事、朝に江戸へと帰ってこれた。
ターミナルに着くと、また商いに出ると陸奥に言われ、別れが決定。
またしばらく会えなくなると、別れ際にと辰馬はギュウギュウと抱き締めあい。
(もちろん、笑いながらだが)

最終的には「いい加減にしろ」と銀時と陸奥にそれぞれ引き剥がされて終わったのだった。
笑顔で手を振って、いつかまた会おうと約束を交わして。

その場で解散したのだった。







「あー…疲れた」



万事屋に戻ってきて第一声の低い声。
ボスン、という音と共にソファに倒れこむこの家の主人を見てから、は自分の小物入れへと辰馬から貰った手紙を仕舞った。
窓の向こうには、まだ昼も告げていない青空。
再びボスンと響く部屋の中では神楽が銀時の真似をして、もう一つのソファへと飛び込んでいた。
ちなみに新八は実家へと帰っている。

なんだかんだで宇宙船がハイジャックされたり、見知らぬ星に墜落したり。
暑さにやられて危うく逝きかけたり。
砂蟲に襲われたり何なりと大変だったために疲労感は拭えない。
勿論、快援隊で休ませてもらっていても、だ。



「うー…疲れたアル……」


「あははは、お疲れさん二人とも。定春もな」


「わん」



定春はのんびりとそこらに伏せて欠伸を一つ。
その頭をふわふわと撫でてから、は身体を思い切り伸ばした。
どうやら自分も少なからず疲れているらしい。
腕をくるくる回しながら今日やるべきことを考える。

朝御飯はご馳走になったし。
あとは昼御飯と晩御飯が家事としてある。
掃除と洗濯は明日でも出来るだろう。
そして晩にはバイトが入っているからそちらにも行かなくては。


とりあえず、近くにあったちらしを覗き込んで床に座って背中を定春に預ける。
どうやら宇宙旅行で定春を看ていたこともあって、定春もに少なからず懐いてくれたらしい。
大人しく背中を貸してくれている。
それを嬉しく思いながらも、大江戸スーパーの大きい文字を見つめた。
今日の特売品と財布の状況から、ご飯はどうしようか内容を考える。



「うーん、今日は豆腐が安いかな」



マーボー豆腐でもいいし、冷奴でもいい。
味噌汁にもなるからこそ有り難い。
二、三丁買っておいた方がいいだろう。

あとはそこそこ使える野菜を買うぐらいだろうか。
この間はいちご牛乳と酢昆布がないことで二人が拗ねていたので、それも買っておこう。



「あー、もう面倒くせー。昼はアレだ。外で食うぞ、外で」


「マジでかァァ!銀ちゃん、私も行くヨ!私、ごはんですよがたっぷりのったご飯がいいネ!」



ちらしを見ていたら、ソファに寝そべっていた銀時が面倒そうな声をあげる。
間髪いれずに神楽が賛同する中、はついていけずに、目をパチパチと瞬かせた。



「え、お金あんの?この間結構使ってた気がすんだけど」



この間、色々買ったためにお金はほとんどなかったはずだ。
のバイト代もまだ入らないし、万事屋の依頼も大金が入るものなんてあるわけもなく。
外食出来るお金なんてほとんどないと知っているからこそは首を傾げた。

やる気ない紅の瞳が細められる。
そして、銀時はニヤリと得意げに笑ってみせた。



「辰馬から有り余る金を貰っといたんだよ。親切心で」



それを人はカツアゲという。

別れ際に辰馬が笑って銀時…金時金返せと叫んでいたのはそれが理由なのだろう。
ここに新八がいれば、ここにツッコミが入る。
が。



「へぇ〜、そりゃラッキーだな〜」


「ナイス親切心ヨ、銀ちゃん!」



残念ながらここにはまともなツッコミがいなかった。
ニコニコと流し、よくやったと褒める二人。
銀時も満更ではないようだ。

昼までまだ時間があるために、のんびりとテレビを見ながら過ごす。
朝特有のニュースが流れていく。


こんな穏やかな時間が幸せ。
窓からは涼しい風が入り込んでくる。


そんな中響く電話の音。
長閑な空気にそれはない、とばかりに三人とも顔が変わる。
銀時は面倒そうに溜息を吐いて受話器を手に取った。




「はい、もしもし。こちら万事屋……って何だ、新八か」



どうやら仕事ではなく、新八からの電話だったらしい。
神楽は安堵の息を吐いて改めてテレビに集中した。
逆に、は電話で話をし続ける銀時をじっと見つめていた。

新八は先程別れたばかり。
だからこそ、電話が来るために不思議に思ったからだ。



「…あ?ステファン人形?何だそれ。ミカちゃん人形とか着せ替えのヤツか何か?お前そんな趣味があったの」


「………」


「は?下着?オイオイオイオイ、ミカちゃんの下着取ってそのまんま服着せるとかねーよ何その遊び方。子供はわけわかんなくてびっくりだよ。大人の遊び方は一人でやってくれる?


「新八キモイアル。銀ちゃん、しばらく私に近寄らないように言っといて」


「俺ァ、新八がそんな痛い子だと思ってなかったよ…。神楽ももう会いたくないって



混沌としている会話の中に神楽も入って、もっと混沌となっていく。
ハッキリ言ってグダグダである。
受話器からは新八の痛々しいほどのツッコミが聞こえているというのに。
このままでは新八が疲れて死んでしまうかもしれない。



「銀時、ちょっと貸して」


「あ?」



は一つ溜息を吐いて、受話器を銀時から奪い取る形で手に入れた。
もちろん、承諾なしに。



「もしもし、新八?」


だから違うっつってんだろうがァァァァ!!……ってあれ、さん!?』


「うわお、元気〜。うん、俺だよ〜」



受話器に耳をあてると、耳をつんざくようなツッコミが響いた。
耳鳴りをするそれを押さえていると、頭の上からガンガン視線が飛んでくる。
どうやら受話器を取られたことが嫌だったらしく、睨みに近い眼差しだ。
銀時の視線をさらりと流しながらも、は笑顔を浮かべながら、宥めるように彼の行き場のない手で遊び始めた。



『ああ良かった。ようやく話が分かる人が出てくれて…』


「だろうともさ。大丈夫だよ新八。例えミカちゃん人形が下着はいてなくても俺は気にしないから。あれ?チカちゃんだっけ?


『お前もかァァァァ!!!!』


「あれ、違うのか?」



だから違うって言ってっつーに!!
と受話器の向こう側が騒がしくなる中、は耳鳴りを覚えながらもケラケラと笑い飛ばした。

朝だというのに、このツッコミぶり。
疲れの顔で別れた人物とは思えないなぁ、とのんびり微笑む。


大きな手を小さな手でポンポンと上げては重力に従って落ちるそれを叩く。
頭の上から溜息が零れてはいるが、どうやらそのまま遊ばせてくれるらしい。
というのも、きっと新八の会話の内容が気になるのだろう。
ミカちゃんの下着が違うとなれば、本当のことが聞きたいのだろうから。



「ん、じゃあどうした?最初から話してみて」


『あ、はい。じゃあちゃんと聞いてくださいよ!銀さんみたいな間違いはやめてくださいね!』


「あはは、あいよ〜」



はケラケラと笑って、新八の話をのんびりと聞き始めた。
隣では銀時が聞き耳を立てている。
遠くからはテレビが暢気に奥様向けの番組を始めていた。
新八のことなんざスッカリ忘れてガン見している神楽がソファに横たわっている。

落ち着いた新八の声はどこか戦々恐々としている。
何かに怯えているようだ。
は、真剣にその言葉を一つ一つ聞いていた。












その間、銀時はのんびりと、手を遊ばさせていた。
自分の大きな手をポンポンと上に上げては、下で止めるだけの、小さな遊び。
そんな中、は真剣に話を聞き取っている。
時折頷いて、相槌を打つ。


(…何だかなァ)


昔よりも大きくなった手だが、今でも、自分よりも小さな手。
新八の声が受話器から聞こえながら、頭は違うことを思い返し始めた。
先程の辰馬との別れ際の、ことを。















『金時』



土産コーナーへと全員が走っていく中、後ろから声をかけてきたのが辰馬だった。
ちなみに土産を買うお金なんざない。
新八は持ってるかもしれないが、銀時は持ってないため先程神楽に半殺しにされそうになったところだった。



『銀時っつってんだろうがァァ!何だよ、いい加減にしろよオメー。頭悪いだけにしとけコノヤロー』


『別に良かなかか〜金時。それよかのことじゃ〜』


『それよかって何だァァ!良くねェェ!金の魂だったら引っかかるんだよ世の中ァァ!………で、アイツが何』



いつもと同じような会話。
いつもと同じような笑い顔。
いつもと同じ名前の間違いにツッコミ。

それが一瞬にして消えるのは、真面目な辰馬の瞳があったから。
だからこそ自分もツッコミを抑えて耳を傾けた。
彼の目は、遠くで新八や神楽と笑顔で話しているへと向けられていた。

ケラケラと笑いながら、人形を手に取っている。
その白い物体はどこかで見たような気もする。
何の変哲もない、いつもの表情のがいる。



が江戸に戻って来た理由を、おまんは知っちょぉか?』



何故そんな話がいきなり出るのか、とんと分からない。
目の前の人物の思考回路に疑問を感じながら、銀時は後ろ首をボリボリと掻き毟った。



『あー?アレじゃねェの。ダチを探すとかどうとか』


『そうじゃ。…が江戸に来たんはヅラァ探しちゅーためじゃ』


『ヅラァ?』



そういえば、がここに来たのは友達を探すためと、いつか言っていた。
銀時がそう言えば、具体的な名前と一緒に返事が返ってきた。
彼女の言っていた友達というのは、同じ攘夷志士だった桂小太郎、通称ヅラ。
銀時やの幼馴染とも呼べる相手だった。

探してる人物が彼だとは。
銀時は面倒そうにため息を吐いた。



『何。アイツ、あんなん探すためだけに来たの?相変わらず趣味悪ィな』


『そういう事情があるきに、そう言うもんじゃなかよ』


『で?俺にどうしろってんだよ。ヅラに会わせろって言いてェのか?ンなことしなくてもよォ、そこらにいるんじゃね?ゴロゴロ石ころみてェに転がってるだろアイツァよ



事実、桂小太郎は江戸にいる。
攘夷の心を未だに持ち、テロを起こしている人物。
幕府や警察にとっては要注意人物に認定されているほどだ。
しっかり指名手配犯の紙も貼られている。

が、彼は事あるごとに銀時に会っている。
時々何食わぬ顔で万事屋に訪れて茶を勝手に啜っていたときだってある。
追われている身だというのに、お気楽に団子を食っていたりもする。
探せばそこらにいそうな人物、ナンバーワンだ。


石ころ、とは言いすぎかもしれないが、すぐに会えるような気もする。
面倒そうに答える銀時に、辰馬の眉が八の字を作った。



『それがのォー、当のヅラが会いとうないんじゃと』


『はぁ?アイツがか?』



辰馬の言葉に銀時が疑問の声をあげる。
簡単に会えるんじゃないかと思っていたら意外な言葉が来たからだ。


昔、の兄である紅人と同じくらいを可愛がっていたのが桂。
その可愛がり具合は紅人と同様熱いもので、見てるこっちは気持ち悪いほどだった。
真面目な顔してボケるからこそやってけない。
三人寄れば文殊の知恵、という言葉は一体何なのだろうと思うぐらい、三人が寄れば気持ち悪い世界が広がっていた。

だからこそ彼が会いたくない、と言ったことへの疑問に、銀時は眉を顰めた。
辰馬はそれを知って言葉を続けた。



『会うのが、恐いゆーちょった。…の、攘夷戦争の後起こったことを…辛いことを知っちゅーきに。そんとき手紙や何やらでアドバイスしちょったから尚更…罪悪感感じちょる』


『……』



一体、別れてからに何があったのか。
辛いこととは、何なのか。
会うのが恐いと思うほど桂は何をアドバイスをして、そして何故辰馬がそれを知っているのか。

それを、銀時は知らない。
知ろうとも、思わない。


知ったところでどう対応したら分からなくなるし、面倒臭い。
それにどう足掻いたところで、過去は変わらない。



もう元には、戻れない。

時間は、戻らない。



それを知っているからこそ、頭に入れるのは桂がと会いたがらないことだけでいい。
逆に、が会いたがっていることぐらいで。



『じゃから、中々会わんじゃろ…。んでもってはヅラに会うまで帰らんじゃろし』


『へぇー。それで?』



それがどうした、とどうでも良さそうに鼻の穴に小指を入れる。
頭に入れた情報を持ったところで、自分は何も出来はしない。
依頼を受けているわけでもないし何をしたところで、解決しないことは分かっている。
ならば、辰馬は何を期待しているのだろうか。
中のものを追っていると、辰馬の真剣な瞳が、紅のやる気ない瞳を捉えた。


逃げることは許さない


言い聞かせるように彼は

口を、ゆっくりと開いた





『まぁ、とヅラの問題じゃき、ワシらがどうのとは思わん。ただ、どうなりゆゥか分からんが』




その言葉はまるで


死ぬ間際の


アイツの兄の、紅人の言葉のようで



その場から一瞬

動けなかった












のことを、頼むぜよ銀時』


のことを、頼んだぜ銀時


















「あーじゃあ、昼にファミレスな〜。うんうん、正午ごろに。あれ?総悟?


それ沖田さんの名前ですさん』


「あはは〜まぁまぁ。じゃあ、ファミレスでな〜」



いつの間にか、話は纏まったらしい。
ガチャリと受話器を置いたところで、銀時が今更ながら現実へと意識を取り戻した。
大きな手から小さな手は離れ、温もりはとうに消えている。
は銀時を振りかえり、ニッコリと微笑んだ。



「ってわけで、お昼はファミレスで決定だからな銀時」


「あ?どういうわけ?」


「あれ、聞いてなかったのか?相談したいことがあるからファミレスに集合だってよ」


「へぇ、そんなことになってたの」


「傍で聞き耳立ててると思ってたのに全然聞いてなかったんだな
〜」



近くにいたというのに、全く何をしていたのやら。
手を遊ばせていただけなのだろうか。

彼の気持ちなど、知る由もない。



「しょうがねぇなー、ホレ」



しかしそれを気にするわけでもなくはケラケラと笑って、取っていたメモ用紙を破って銀時へと渡した。
紅の瞳は面倒そうに綺麗とも汚いとも言えないような文字を読み始める。


『ステファン人形が壊れた。
下着の相談。
正午にファミレス。
新八とお姉さん。
恐らく美人さんなんだろうな〜お姉さん


・・・・・・・・。



「………何?このメモだけじゃサッパリ話が見えねェよ。何の焦らしプレイ?


「楽しみだな〜新八のお姉さん」


「聞けェェェェ」



結局メモで分かったのは、新八とその姉が来るということ。
そして、ファミレスで正午に集合とだけ。

下着相談とは何だ。
ステファン人形が壊れたとな何だ。
何勝手に人の姉が美人だと予想しているんだ。
というか、目的がサッパリ見えない。



「えー分かるだろ。お姉さんが美人だろうという俺の考え」


「ンなの聞いてねェェェ!」


「いたァァ!!」



辰馬の話を思い返して少しばかり真剣に考えてた自分が嫌になる。
どんなに考えたところで、は、やはりだ。
バシッと思い切り頭を叩くと「何で叩かれるの?」と疑問混じりに見上げられる。


(これだからコイツは…)


しかし、こんなことを言っても変わるわけでもない。
に追及しても「いや、お姉さんが美人だということが重要だ」とかわけわからないことを言うわけで。
とにかく真実を知るにはファミレスに行くしかないようだった。

















>>第2話