女の子は可愛くも



逞しい














女の子のイイところは女の子のみぞ知る!














時間はすぐに過ぎていき、正午。
銀時と神楽、そしては一足早くファミレスの席に座っていた。
と、いうのもが方向音痴であり、あちこちに眼を奪われてどこかに行きかねないからである。
余裕を持って万事屋を出て、しっかり手を引いて寄り道しないように来たつもりだが、いつもより時間がかかっている。

何はともあれ、無事に着いたから何よりなのだが。



「すいませーん。チョコパフェ三つ〜」


「ごはんですよがのったご飯大盛り五杯よろしくヨ〜!」


「じゃあ俺はお茶を十杯と、この定食お願いしまーす」


「かしこまりましたー」



辰馬から貰ってやった(カツアゲをした)お金で好きなものを好きなだけ頼む。
糖分好きな銀時はまずデザート、ごはんですよ好きな神楽はそれを頼み、お茶好きなはお茶を頼む。
勿論、ご飯を食べに来ているので定食も頼んでいる。
店員はあまりの注文に少々口を引き攣らせた。



「てか銀時、パフェ三つって腹冷やすよ?ついでに糖分取り過ぎだし」


「ウルセー。お前だってカテキン取り過ぎだろ」


「カテキンは体にいいからイイんだよ。凄くね?カテキン凄くね?」


「別に凄くもねェよ!糖分も俺の心の栄養だからイイんですぅ〜。凄ェだろ。糖分マジ凄いから


「マジでか!」


「糖分よりもごはんですよが一番ヨ!この海苔の塩加減が私に夢と希望を与えるアル!凄くネ?


「マジでか!」



頼んだものが来た途端、戦争が始まる。

お互い好きな物を頼んでは食べていく。
そんな中でこんな会話だ。
食べては喋り、口は忙しい中での微妙な内容。

しかも銀時と神楽の言うことを素直に信じて、は一々驚いていた。
ここに新八がいればツッコミが通るのだが、新八はまだ来ていない。



「いや、そんなん知らなかったわ。凄ぇな、糖分とごはんですよって」


「ンなわけあるかァァァ!!」


「あれ?」



と、思ったら、突然ツッコミが降ってきた。
廊下側を見てみれば、まだ来ていないと思っていた少年が思い切り裏手を出している。
懸命に食べていた三人はそれを見上げ、ピタリと止まった。

主に、が。



「あ、新八きた〜」


「きた〜じゃないですよ!さんはデマも何もかも信じすぎです!


「え、デマだったの!?今、糖分とごはんですよに対して尊敬を覚えたところだったのに!


「尊敬すんなァァァ!!」


「あんだよ新八ィ。俺の糖分に文句つけようってのか?


「誰の糖分ですか誰の」


「私のごはんですよにケチつけるたァ、新八は死んだも同然ネ


「死んでねェェェ!!」



新八が入るとやはり、会話が進む。
いや騒がしくなった、だろうか。
というのも、ツッコミが足りなかったからだ。

さすがにうるさかったらしく、店員さんや他のお客さんから軽蔑の眼差しが降りかかる。
はそれを知りつつもケラケラと笑って、向かいの席を促した。



「まぁ、とりあえず座ったら?」


「あ、はいそれもそうですね。姉上どうぞ」



新八が後ろを振り向いて、促す。
すると、彼の後ろから綺麗な女性が現れた。

黒髪を後ろに纏め、整った顔立ちと穏やかな笑顔。
艶やかで明るい色の着物は彼女を一層美しく引き立てる。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
その言葉は彼女のためにあるような女性。
美しいその女性に、は目を見開いた。



「こんにちは。銀さん、神楽ちゃん」


「あ、姉御ヨ」


「あ?なんで志村姉がいんの?」


「いやいや、さっき電話で一緒に行くって話したでしょ」



嬉しそうに声をあげる神楽とは逆に銀時が面倒そうに声をあげる。
電話でその話をしていた新八にとっては何故知らないのかと不満声を零す。
しかしその間、はその女性を見つめたまま動かない。
女性はに気付き、ふんわりと優しく微笑んだ。



「こんにちは。あなたが、さんね?」


「は、はい!」



予想以上の綺麗な声に、ビシッと反射的に立ち上がる。
途端お茶が隣に座っていた銀時のパフェにかかったが、は気にしていない
勿論被害を被った銀時は「ギャアアアアア俺のライフボトルがァァァァ!!」と悲鳴をあげた。

素直に言うなら、その悲鳴はかなり煩い。
近所迷惑どころか遠所迷惑にもなりかねない…というのも、銀時が一番好きなパフェがお茶まみれになったのだから当然といえば当然なのだが。

と、大きな悲鳴はドカンという大きな音と衝撃で一瞬にして静かになった。



「志村新八の姉の妙よ。貴方のことは新ちゃんから聞いてるわ」


「あ、です!新八にはいつもお世話になってます!」



大きな音と沈黙した銀時を余所に、二人は紹介の言葉を口にする。
規則正しく頭を下げるに、彼女はクスクスと笑う。
その笑顔さえ美しい花が咲いたよう。
もその表情につられて、嬉しそうに微笑んだ。



「事情は聞いてるわ。銀さんのところに居候してるんですって?」


「あ、はい。依頼ってことで世話になってます!」


「丁寧語はいらないわ。同じ歳なんだし、仲良くしましょ?何か手伝えることがあったら、何でも言ってね」


「あ、ありがとう!!少しの間だと思うけど、よろしくな」



白い手が差し出される。
女性として細く、美しいその手を手に取る。
柔らかくすべすべとした肌、優しい体温が心地いい。
自分とは大違いだと思いつつも、はしっかりと握手を交わした。



「フフ、聞いてた通り本当に良い人ね、新ちゃん」


「本当に思ったとおり美人さんなお姉さんだな、新八!うらやましい!!」


「あ、ありがとうございます。ところで銀さんを助けてやってください



二人が笑顔で握手を交わす、感動的なシーン。
そしてお互い新八に微笑みかけている素敵なシチュエーションである。
というのに、当の本人である新八は顔をあおざめさせていた。
お茶の色に染まったチョコレートパフェと一緒に机と撃沈している銀時をしっかり見ているからである。
ちなみに、それは彼の姉、お妙によって沈められたのだが。



「あれ?なんで沈んでんの銀時」


「さぁ。好きなチョコレートパフェの世界の入口にでもたどり着こうとしてたんじゃないかしら


「(哀れ銀さん…!)」



はその瞬間を見ていなかった。

そして、お妙は自分のせいではないと全く関係ないことを言い切った。
美しいほどの笑顔で。
姉の行動に慣れてる新八は心の中で合掌。
そして一人微笑み、一人涙を堪えて姉弟で三人の目の前に座った。



「あ、お姉さんのことは何て呼んだらいい?」


「お妙でいいわよ。貴方のことは、さんでいいかしら」


「勿論!」



すっかり和やかな空気。
特には凄く嬉しそうにニコニコと微笑んでいる。
そこに神楽も便乗した。



「あ!それじゃあ私だけハミになるネ!私だけちゃん付けはおかしいアル!」


「あれ、そんなつもりなかったんだけどなぁ。じゃあ神楽でいいの?」


「勿論ネ!」



今更ながら呼び方を変える。
そういえば神楽以外は全員呼び捨てだ(勿論近藤さんは別として)。
変えれば満足げに笑う彼女を見て、はケラケラと笑った。



「やっぱ江戸は凄いな!美人さんの宝庫なんじゃね?」


、凄い嬉しそうネ」


「そらそうだよ!美女とまた仲良くなれたんだ。すっげー幸せ!」



神楽の言葉に、心の底から嬉しそうに声をあげる。
御向かいでは未だにクスクスと笑うお妙の姿がある。
そんな彼女にメニューを渡しつつ、は傍にあった布巾を取って隣に沈む青年に声をかけた。



「ほら、いつまで沈んでんだ銀時。お妙の前でみっともないぞ」


「……お前はアレだ。長所見るのはいいが短所もちゃんと見ろ、マジで。頼むから


「は?何の話?」



ようやっと此方に意識が戻ってきたらしい。
銀色の頭はもはや今はチョコレートソースと生クリームまみれ。
紅の瞳はある意味面倒そう。
しかしは全くその言葉の意味を理解していない。
首を傾げるだけだ。

これもいつものこと。
銀時は大きくため息を吐いて、テーブルにめり込んでいた頭をようやくあげた。



「あー痛ェ。頭割れると思っ…いや、割れてね?コレ、頭割れてね?脳みそ出てね?


「え、これ脳みそか!?ただの生クリームかと思った!ちょっ、脳みそ詰めろ早く!あれ、蟹みそだっけ!?とにかく大切なモノが出ちゃう!!


「マジでか!俺の大事なモン出ちゃう!空気に触れて脳ミソが生クリームになってるゥゥ!」


「銀時、割れ目どこ割れ目!そこにいれるからァァ!!」



「銀さんさん落ち着いてください。頭割れてないし、それもただの生クリームですから。ってか蟹みそなわけないでしょ



この馬鹿さも普段通り。
わたわたとする二人に新八も普段通りに冷静に突っ込んだ。
ちなみに神楽は平然とご飯を食べ続けている。

落ち着けば、何てことはない生クリーム。
慌てた自分たちがバカみたいだ。

二人は静かになってクリームを拭く。
そんな彼らを前に、お妙はクスクスと笑った。



「フフフ、本当に聞いた通りねさんは」


「へ?」



どうやらの行動を見ていたらしい。
まさか自分のことを言われるとは思ってなかったため、変な声で聞き返してしまった。
そこにまた笑い声が彼女の口から零れる。



「いつも笑っていて、言い間違い聞き間違いは多々で方向音痴で。カテキン中毒で水曜日はチョコレート中毒で…頭がバカなヒト


「…えええええ」


「そ、そこまで言ってませんよ姉上!」


「凄ェな。完璧コイツのこと理解してんじゃねーか



新八から姉の妙にどう伝わったのかが明らかになる。
しかも笑顔で言うものだから効果は絶大。
間違ってはいないが、もう少し言葉を選んでくれても、とも思う。
は驚愕し、新八は慌て、銀時は驚きつつも的を得ている紹介に納得している。
ちなみに神楽は全て食べ終わり、の頭を撫で始めた。



「新八の心の奥なんてそんなもんヨいつもダメガネ気取って私たちを見下してるネ


「全く酷いダメガネだよ。俺ァこんな子に育っちまって……銀さんは心が痛いよ。パフェが粉々になっちまったぐらいに」


「そんなんしてませんよォォ!しかもパフェ単位!?」



「新ちゃん、そういうことは正直に言っちゃいなさい。勿論、私のことそんな風に言ったなら次の瞬間から命はないけれど


「姉上ェェ!!この状況を勝手に作ったのは姉上でしょォォ!!!あ、いや、何でもありません!その拳仕舞って姉上ェェ!!」



辛辣な言葉を吐いて同情する振りをする神楽と銀時。
お妙は拳を握りしめ振りかざす。
どちらかというと被害者は新八だ。
彼は既に涙目。

乱闘が始まりそうな空気だ。
主に、一方方向で。



も何か言ってやるがヨロシ」


「え、俺?」


「最初に言われたのアルヨ」


「あ〜、うんそうだけど…」



しかし、先程まで貶されていたは蚊帳の外。
というか反応が第三者的だ。
いきなり振られて一瞬だけ口を開けたが、うんうん唸る。
貶すわけでもなくじっくり考えてから紫苑の瞳はゆっくりと開かれる。
真っ直ぐなそれで、新八を見つめた。



「新八は、そんなヤツじゃないなァ」


「へ?」



そうケロリと言い放つ。
今まで驚いていた人物が、だ。

そんな言葉が出ると思わなかった全員が目を見開かせる。
お妙の拳も空に浮いたまま止まった。
ピタリと動きすら止まらせることに気を止めず、は新八を見つめながらゆっくりとお茶を啜った。



「いや、だから。新八は蔑むとか、そんなんしないなぁと。例え悪口であっても、それは思ったまま反射的に言っただけであって心底から蔑んではいないだろうなぁと」



紫苑の瞳に新八は映る。
しかし、はその姿だけを見つめていたわけではない。
見つめていたのは、瞳の奥の奥。
綺麗な、真っ直ぐな光。


(…いいなぁ、綺麗)


はヘラリと笑う。
そしてまた湯呑を口へと運んだ。



「……………さん…」


「それに、銀時が言った通り、的を得てたし。悪口を言われた気はしないかも〜アハハ」



ケラケラと笑ってお茶の十杯目を飲み干す。
湯呑ばかり置かれたそれを、そそくさと廊下側へと移動させる。
その間もまだ全員が止まっている。
がまた座って定食に手をつけ始めたところで、ようやく銀時が溜息を吐いた。



「…ホント、馬鹿だよなオメーは」


「アハハハ馬鹿も長所だ、長所。あ、スミマセーン。またお茶十杯くださーい」



銀時の言葉もにとってはのれんに腕押し。
今はただなくなったお茶のお代わりを貰うのに必死だ。
気付いてくれた店員さんは顔を青ざめさせて空っぽになった湯呑を下げていく。

これならすぐにまたお茶が運ばれてくるだろう。
満足してまた定食に手をつけ始める。
お妙が未だに新八の胸倉を掴んで殴りかかろうとするポーズで一時停止。
その瞳はじっとを見つめているが、彼女は気付かない。



、これ以上飲んだら血液が茶になるヨ


「それ凄い嬉しくね?喉乾いたら血飲めばいいじゃん


さん、それ死んじゃいますからね。やめてくださいよホント」


「マジでか」


「って何びっくりした顔してんですかァァァ!!こっちがビックリですよ!!」




胸倉掴まれたまま新八がしっかりとツッコミの役割を果たす。
飲んだお茶がそのまま血液になると、神楽の言葉をすっかり受け入れていたは目をまん丸くして驚いた。
じっと手首を見てるあたり、本気だということが分かる。
新八が叫ぶ中、銀時からは頭をはたかれる。



「イタッ!何だよ銀時」


「一々バカだから叩いて頭良くしてやろーとしてんだよ」


「え、叩いたら頭良くなるかな


「銀ちゃん、もう手遅れヨ。はもう無理アル


言ってやるなァ神楽。コイツ馬鹿だから気付いてないから」


「アレ?どしたの二人して同情するような目で俺を見て


「…気づきましょうよ、本当」



いつもの会話になり始める。
ここでようやく、お妙は新八の胸倉をパッと離した。
そして静かに椅子へと座る。
新八もそんな姉の様子を不思議に思いつつ己も座って会話に混ざり始めた。


彼女は何も言わず、マジマジとを見つめて。



「……本当に不思議な人」



誰の耳に聞こえるわけでもなく、静かにそう呟いた。


こんなにも素直に人のことを褒める。
長所を見つけ出して、すぐに受け入れていく。
また、万事屋や周りの人々とは違って、捻くれたような不器用な言い方をしない。
言葉も瞳も、真っ直ぐだ。

短所を見つけても、見ない振りをしているのだろうか。
それとも馬鹿だからこそ見えないのだろうか。
言葉を淡々と簡単に吐くのも、言い方を知らないだけなのだろうか。

どちらにせよ。
ここらでは、見ないだろう人物像だ。




彼女の考えは、彼女のみ知る。
目の前のが視線に気づいて首を傾げると、お妙はふんわりと優しく微笑んだ。















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