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「坊主、おら、町に着いたぜ」 「んあ?」 聞き慣れない低い声に、坊主と呼ばれたは目をこすりながら開けた。 青い空が一面に広がって、優しい日差しが自分を照らす。 風が緩やかに肌を撫でた。 「おお……眩しいぜ……うーんっ!!」 気持ち良さに、思い切り伸びをする。 自分の下にある干し草が乾いた音をたてる。 荷台の滑車と馬の蹄が軽快にテンポよく鳴る。 寝転がっていた自分の身体を起き上がらせると、景色が遠ざかっていくのが分かる。 細い道と地平線すら見えそうな草原。 後ろを振り返ると、走る馬を操る中年の男性が見えた。 この男性は昨夜、会ったばかりだ。 西にある小さな町へと行く途中だと言うので、便乗して乗せてもらっていた。 その男性の向こうには、賑やかそうな小さな町がある。 「おっ!本当だ!町だ!!」 「おう。あれだよ。俺はもう少し行ったところに用があるんだが…ここらでいいかい?」 「勿論だとも!ありがとうおっちゃん!ここまで乗せてくれて!!」 「ハハッいいよ。どうせこの干し草を届ける用事のついでだ」 が嬉しそうに笑うと、男性も穏やかに微笑み返した。 彼はどうどう、と馬を止める。 止まったのを確認すると、は身軽にひょいと荷台から飛び降りた。 一見ショートヘアのように見える銀の髪。 さりげなく後ろの一部分だけ肩にかかるぐらいに伸びている髪が降りるときにちらりと見える。 紫苑の瞳が青い空を映す。 白いラインが入っている黒の羽織りが、白い肌と背中の白菊の紋を強調させるように揺れた。 地面にブーツを履いた足をしっかりつけてから、くるりと振り向いて男性に片手をあげた。 もう片手はジーンズのポケットに突っ込んだ。 「じゃあおっさん、マジでありがとな!俺行くわ」 「おお、一人旅は危ないからな、気ぃつけてな」 「おうさ!おっさんも気ぃつけて!」 馬が再び動き始める。 去っていく男性にじゃあなと元気一杯に手を振る。 彼も軽く片手をあげて去っていく。 男性が見えなくなるのを確認してから、は足を町へと進ませた。 「さぁて、金もねぇし短期バイトでも探すか!!」 少年の容姿の、生物上女である。 彼女は大声で独り言をぼやいてから、まるで空気のように町へと溶け込んでいった。 町へと一歩踏み出せば、それは今の時代稀に見る、騒がしさ。 人々からは笑みが零れ、店は繁盛をするばかりのよう。 旅人も多く、多くの者、物が交流していた。 「……いい町だ」 は笑顔のまま、通りを歩いていた。 頭には前に訪れた寂れた町を思い出す。 こことは違う、人も店もほとんどない、悲しい町。 何が違って、ここまで違うのか。 よくは分からないが、ここはいい町だと心が認識する。 「おう、兄ちゃん!!笑顔でどうした!?いいことあったのかい!?」 通りすがりに見た八百屋を営む男性が声をかけてきた。 どうやら本当に笑顔で通っていたようだ。 ハハッと笑ってから八百屋に寄る。 「いやぁ、いい町だなぁとか思ってね」 「あぁそうだろう!近頃は物騒だが……ここはまだ妖怪が襲ってきてないし、人もいいやつばかりだしな」 妖怪が襲ってきていない、というのも安心の材料なのだろう。 人の良さそうな男性の笑顔に、は苦笑を漏らした。 妖怪。 人間とは違う、けれど人間と同じ知能や感情を持つ生き物。 この世界にはそれらが存在していた。 過去から二種間の間で小さないざこざはあったものの、今は異常に争いは大きくなっていた。 特に妖怪は、最近人を襲い、喰らうようになっている。 それが恐怖となり、人は妖怪を益々受け付けなくなっていた。 「ハハッ…本当にいい町だ」 笑顔が多いということはいいこと。 妖怪のことは置いといても、だ。 は両手をジーンズのポケットに突っ込んで辺りを見回した。 「…あぁ、ところで八百屋のおっさんさぁ、ここらで短期バイト雇ってるとことか知らねぇ?」 「短期バイト…かい?」 「そうそう。旅人には金がないってね」 旅人が行き交う町だ。 短期バイトがあってもいいはず、とは八百屋の男性に尋ねる。 彼はしばらくうーんと考えてから、ある一点を指差した。 「あそこに飲食店があるだろ?」 「おう、あるね」 「あそこは確か…短期バイトを募集してたぞ。一日でも大丈夫だとか言っていたなぁ」 「マジで?!」 一日でも大丈夫、というのは魅力的だ。 飲食店のバイトはこの町ではかなり大変そうだが、そうとも言ってられない。 ちなみに、にとっては接客はまぁ、苦手な方ではない。 「ありがとおっさん!早速行ってみるわ」 「おう!いいってことよ。稼いだ金で野菜一つでも買ってってくれりゃあな」 「アハハッ!オッケー」 明日に林檎でも買っていくよ、と約束を交わす。 男性は待ってるからな〜と軽く手を振る。 本当に商売上手だ、とは笑いながら教えてくれた飲食店へと足を進めた。 青かった空が少し赤みがかる。 その通りを軽快に歩く。 目の端に、遠くから来るジープを小さく捉えながら、何も意識せずに飲食店の扉を開けた。 |