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(…本当に賑やかな町だ) 身体を動かしながらはそのことを再認識していた。 今は飲食店にて、アルバイトをこなしている。 雇ってくださいと頼み込んだのはつい三時間前。 心配する間もなくすぐに採用され、仕組みを覚えさせられたのはそれから三十分後。 次から次へと客が止むことがないため、はすぐに接客に回されていた。 頭で理解せず、身体で覚えろとはこのことだ。 三十分だけで、もはや接客の仕方等は身体が覚えていた。 今のは黒い羽織りを腰に巻いて、この店仕様のオレンジ色のエプロンをつけていた。 お客さんを席に案内する。 注文を受けて厨房へと大声で伝える。 出来上がった料理をお客さんのもとへと運ぶ。 一見楽そうに見えるこの仕事は意外にもキツいものであるが、にとってはこれぐらい慣れっこだった。 何せ一年前から旅をしているのだ。 この飲食店のように一日だけの雇ってくれるところは少なく、一ヶ月、二ヶ月は当たり前のように働かされる場合もある。 経験を生かすとは、まさにこのことだ。 お陰で仕事はスムーズに進んでいる。 「三番さん入りまーす!!」 「あ、すみませーん!注文お願いしたいんですけど〜」 「はい!少々お待ちください!」 三番テーブルにお客を促した後すぐに、違うテーブルから声がかかる。 大繁盛ともいうべきこの飲食店には接客係が数名しかいない。 忙しなく動き回る他の店員を見る余裕もなく、自分が行くことになってしまうほどだ。 呼ばれたテーブルへと行くと、色気を漂わせる女性が数名座っていた。 「お待たせいたしました!ご注文を承ります」 「この春巻と、このスープ…あとサラダね」 「はい、春巻きとスープ、サラダですね」 淡々と注文された品を書いていく。 全員が言い終わったところでメニューの確認を行う。 は言い終わったところで、その席にいた女性全員に微笑みかけた。 「以上でよろしかったでしょうか?」 「ええ………あとは君をオーダーしたいわねぇ」 「あはは、残念ながら俺はメニュー対象外ですので。では失礼します」 (こんなときにナンパかよ) そう心の中で思いながらも、は営業スマイルを欠かさずにペコリと一礼した。 ナンパを軽くあしらって厨房へと足を向ける。 前々からこういうことはよくあった。 女性から声がかかることも、危ない視線を投げかける男性に会うことも、嫉妬の目で見られることも。 ある意味慣れてしまいながらも、やはり微妙だ。 (いや、別に嬉しいんだけど……どうもなぁ……俺格好良くもなんともねぇのに…微妙) 厨房に戻ると、忙しいにも関わらず自分をからかう店員がいる。 それを軽く流しながら、品を持ってまたテーブルへと運ぶ。 たった三十分。 それだけの間にこのやりとりは何回行われたであろう。 やれやれと思い返しつつも笑顔を忘れないのは、もうクセになっているからだ。 またどこからかで自分を呼んでいる。 視界の端で、どこかの少年が手をあげている。 これは注文だな、と右手にペンを握り締めて駆け寄った。 「お待たせしました〜………」 すぐ傍に寄ってから、は今気がついたかのように目を丸くした。 辿り着いてみれば美青年集団、とも呼べるような格好良い男性四人組。 元気よく手を挙げていた少年はと同じぐらいの年頃だろう。 茶色の髪を揺らし、きらきらと金晴の瞳を輝かせてメニューを覗き込む姿はまるで子犬のようだ。 耳と尻尾が生えていても不思議はない。 その少年の隣に座る青年は、紅い長い髪とをれと同じ色を持つ瞳の持ち主。 触覚のような前髪がなんとなく気になる。 彼は少年の横からメニューを覗き込んで何やらちょっかいをかけている。 向かいに座っている青年は穏やかに少年達を見て優しく微笑んでいる。 黒髪に深緑の瞳、片目には眼鏡をしているということは、その目は少し視力が悪いのだろうか。 それにしてもこの雰囲気…今にもお茶を啜りそうだ。 そしてこの四人の中で、一番機嫌が悪そうに眉間に皺を寄せている青年。 金色の髪と紫暗の瞳…美人、とはこのことだ。 法衣を纏っている、ということは仏に仕える身なのかもしれない。 (…はぁ、なんともまぁ、綺麗な男たちが集まったもんだ) 一人感心していると、同時に多くの視線が集まっているのに気付く。 特に、女性のものだ。 (こりゃあ視線が集まるよなぁ…こんな美青年の集団がいるんじゃ…) 静かに苦笑を漏らす。 それに気付いたのか、金晴の瞳を持った少年は首を傾げた。 「どうかしたのか?」 「あ?…あぁいえ、すみません。注文どうぞ」 つい呆けていたことに気付いたはすぐに接客モードに入った。 営業スマイルで注文を促すと、少年はまた瞳を輝かせてメニューを見つめ始めた。 「えっと…春巻きと、餃子と、肉まんと〜…」 「はい、春巻きと餃子と肉まん……」 「あとサラダとスープとラーメンと……」 「サラダ、スープ、ラーメン…」 「これを十人前!」 「十人前……………………」 …十人前? は首をつい傾げてしまう。 それはそうだ。 先程から言っているのは全部この少年なわけで…他の三人の注文をも合わせても多すぎる。 「えっと…本当に十人前で?」 「おう!!」 念のため一度確認をとると、やはり本当のようで。 マジか、と顔が引き攣る。 それをまるで気付かないように、紅の髪の青年が口を開いた。 「あ、あと酒ね、酒。生ビール!」 「生二つだ」 その後すぐに金色の髪の青年が付け足す。 引き攣る顔をすぐに営業スマイルへと変えて注文を聞き返した。 「あ、はい、生二つですね」 「はいはい!俺オレンジジュースがいいっ!!」 「オレンジジュースが一つ、ですね。…あの、貴方は」 元気よく飲み物を頼む少年。 はメモをすぐに取ってから、まだ何も頼んでいない眼鏡の青年に尋ねる。 自分に尋ねるとは思ってなかったのか、一度目を大きく開いてから彼は優しく微笑んだ。 「ありがとうございます。じゃあ、ウーロン茶をもらえますか?」 「はい、ウーロン茶ですね。ご注文は以上でよろしいですか?」 「ええ、お願いします」 笑顔には笑顔が零れる。 は分かりました、失礼しますと笑顔で答えながら席を離れる。 まだ何かを頼みたそうにしていた少年を横目に、玄関の横を通る。 外から、の耳に微かな叫び声が聞こえた。 |