妖怪騒ぎから一変。
玄奘三蔵一行の到来に騒ぎに騒ぐ町。
ようやっと宿に戻って、四人は息をついていた。



「あぁ〜腹いっぱい!」


「お前は食べすぎなんだっつの」



悟空が幸せそうにベッドに入り込む。
自分達とは違う、能天気な少年。
こっちは多くの人間に掴まって疲労しているというのに。

悟浄は隣のベッドに腰を下ろし、一息吐いてから煙草に火をつける。
扉からは同じように疲労を滲ませながらも笑顔の八戒、眉間に皺を寄せる三蔵が入ってくる。
眉間の皺が半端じゃない三蔵は、どう見たって不機嫌極まりない。

ドカッと大きな音をたてて窓際の椅子に座る。
窓を開ければようやく静まった騒ぎ。
静かな闇と、涼しい風。
三蔵も袂から煙草を取り出し、火を点けて紫煙を吐き出す。



「…大変でしたね」



不機嫌な三蔵を労うように声をかける八戒。
しかし、それで機嫌が直るわけじゃない。



「あの野郎……」



脳裏に浮かぶは銀の髪。
紫苑の瞳。
妖怪を己から出した鎌で次から次へと倒し、血を浴びに浴びていく。
自分の問いにふざけた答えで返したあの笑顔。




忘れはしない、憎らしい名前。




「あれはお見事、としか言えないぐらいの逃げようだったよなぁ」



悟浄が感心したかのように言うと、紫暗の眼光がギラリと光る。
今にも自分を殺しそうな殺気に、彼は両手をあげて降参。
まぁとやらのせいでこんなにも不機嫌なのだ、無理もない。



あれは『何者』なのか。
何故こうも『見張らなければ』という義務感が沸くのか。
心は警鐘のように必死に何かを叫んでいる。

が、それは言葉にならないモノで。


(…あぁ、ムカつく)


ただでさえ人に揉まれて苛ついているというのに、この何ともいえないモヤモヤ感。
それが一層苛つきを増やさせる増加剤。
三蔵は無言で煙草を吸い続ける。



「でもアイツ、絶対イイ奴だ!俺が保障するっ!!」


「な〜にを根拠に言ってんだお前は」


「だって俺のこと褒めてくれたしっ!強ぇし!」


「アハハ、余程嬉しかったんですね」


「あぁ〜あ、単純バカ猿ちゃんは暢気でイイねぇ」



悟空の言葉に八戒と悟浄が絡む。
単純バカ猿、の言葉に普段は反応する悟空だったが、今回は違う。
褒めてくれたことが本当に嬉しかったのか、ニコニコしているだけだ。



「また会えないかな」


「さぁ、どうでしょうかねぇ。どうやらここの人ではないようでしたから、旅をしている間にまたバッタリと会うかもしれませんね」



仄々とした八戒の言葉。
三蔵は悟空と違う意味で少しだけ口の端をあげた。


(…今度遭ったときは…捕まえてやる)


交通事故に遭ったような、あの出遭い。
それがまたあったときには、今度こそ必ず。

今日の復讐と、この心の警鐘を綺麗にしてみせる。


一本の煙草を吸い終え、それを灰皿へと押し付ける。
そして三蔵はまた一本、煙草を取り出して口に銜えた。
火をつけようとライターを取り出したときだった。

今まで笑っていた悟空が、神妙な顔をして首を傾げた。



「…そういえばさぁ、俺、さっきからなんか変なんだよな」


「変?お前はいつも変だろーが。何を今更」



悟空の言葉に悟浄がサラリと悪口を言う。
プゥっと膨れっ面になりながら彼は口を開く。



「そうじゃなくて!……なんか、アイツがいないとこう…上手く言えないけど、心がモヤッとしてるような」



そう。
どこか物足りない。

何故だか分からないが、初めて会った気がしない。
むしろ、アイツがいて当たり前だったような感覚。


悟空の言葉に驚いたのは三蔵。
顔に出さないまでも、煙草を口に銜えたまま、ライターの手はピタリと止まった。
しかし、彼だけが驚いたのではない。



「え、悟空もなんですか?」


「あ?マジで?…ってことは俺合わせて三人?」


「えっ悟浄も!?」



三人が三人とも、同じ感覚に陥っていたらしい。
多種多様に考え込む三人。
それを見やりながら、三蔵はやっと煙草に火をつけることができた。

四人が同じように、に対して何かを感じているのだとしたら。

それはまさしく。



(…気持ち悪ぃ)



という結果に終わるのだった。