が気を失って数十秒後。 彼女の意識が飛び立ってしまったことに気がついたのは、運転席にて唐揚げを食べながら運転していた眼鏡をかけた青年だった。 「イジメすぎちゃいましたかね」 微笑みを絶やさずに彼が言うと、他の三人がようやくが気絶していることに気がついた。 まるで死んだかのように頭は後ろに倒れていて、見た目は気持ち悪い。 ここで白目が剥いてないだけマシだろうか。 「あ〜……まぁ、こんなモンでイイんでないの三蔵」 「え、何?何の話?」 苦笑する悟浄に対し、何も分かっていない悟空。 未だに御飯を頬張っているあたり聞く気もないのかあるのか。 そこは甚だ疑問だが、八戒は声のトーンを変えることなく、微笑みながら口を開いた。 「悟空、覚えてますか?彼に会った日、追いかけた後人々に揉みくちゃにされて逃げられたこと」 玄奘三蔵一行がいらっしゃったと喜びに震えた住民。 ましてや妖怪退治をしていただなんて。 嬉しがる人々に囲まれて見えたのは、遠くに消えていく銀の髪と、憎らしいほどの笑顔。 そして思い出すのは苛々しっぱなしの三蔵。 お陰でいつも以上のスリリングな雰囲気を楽しめた、というのは皮肉気に言った悟浄の台詞だが。 「あれの復讐、だったんですよ。ね、三蔵?」 隣を見やればフン、と無表情ながらもどこか満足している三蔵。 ちなみに彼の手にはナポリタンがあって、何か見た目上微妙である。 誰もツッコまないのは自分達も同じ状況だからだ。 「うわ、それかなり辛い拷問じゃん!三蔵最低〜」 「無意識に拷問してるようなお前に言われたくねェよ」 悟空の言葉に三蔵はすぐさまツッコみをいれた。 何せ、少年以外の三人は分かっててやっていたからであって、彼のように無意識にやっていたわけではないからである。 まぁ、悟空の食べ物に関する意識は、止められるものではないと知っているが。 う、と核心をつかれた悟空は隣をちらっと申し訳なさそうに見つめた。 銀の髪は今、日差しを反射して輝き、閉じた瞳は開けられることはない。 「…悪いことしちゃったなぁ」 「悟空は優しいですね」 ショボン、と項垂れる少年に、八戒は苦笑を漏らした。 初めて会ったときから悟空は今気絶している彼を良く捉えていた。 妖怪とも、人間とも違う強さ。 それを見せつけられながらもただ、受け入れて。 疑いの眼で彼を見る三人とは違い、一人純粋に、好意的に会いたいと願ってやまなかった悟空。 「だって、俺、あんなに嬉しいこと一杯言ってもらったのに」 自分に強いな、と褒めてくれたこと。 それに今回だって。 『…正直で良い言葉だ』 本当は妖怪が嫌いだとか言われる度に恐かった。 痛かったし、辛かった。 それでも何か言わなきゃ、と思ったときに心から出たあの言葉。 飯がうまかった、というどうでもいいような台詞に、彼はそう言ってくれた。 正直、そんな言葉が返ってくるとは思わなかったから驚いた。 同時に込み上げた、嬉しさ。 それを彼が知る由も無い。 けれど、あんなに嬉しかったのは久しぶりで。 う〜ん、と考え始める悟空に、他の三人もそれぞれ反応を示した。 溜息を吐いたり、呆れたり、苦笑を漏らしたり。 「…とりあえず、起きたら謝ればイイんじゃねェの」 の向こうに座る悟浄が笑みを零しながら声を出した。 中々普通の案だが、良い案だと言える。 悟空はしばらくしてから「うん!そうする」と納得して、ようやく彼らしい微笑を見せた。 「ところで三蔵。復讐は終わりましたけど、これから彼をどうするんですか?」 町を出てから数十分。 やっとその話題に触れたのは八戒だ。 ちなみに後ろでは「そういえばそうだ」との声が二つあがった。 三蔵は袂から煙草を出し、火を点ける。 決まった一連の動作をしてから、ゆっくりと紫煙を吐き出した。 「こいつは妖怪でもなく人間でも、まして神でもない。そんな存在をそこらに野放しにするわけにいかねェだろうが」 それは自分の何かが叫ぶもの。 妖怪でも人間でも、神でもない存在だと何かが告げる。 面倒な、存在。 本当ならそのまま野放しにしてもいい。 だが。 駄目だ 共にいなければいけない 何故か生まれる義務感。 手放したら生まれる焦燥感。 一体何がその感情を生み出すのか分からない。 だから 「どうやら観世音菩薩の命の『変なヤツ』ってのがコイツらしいからな」 神様のせいにする。 だからこそ皆が納得する。 彼らの頷く姿を見てから、彼はまた紫煙を吐き出した。 「ちなみに命は『変なヤツがいたら連れていけ』だ。野放しは危険、て意味でな」 野放しの部分は自分の考え。 ちょっとした嘘。 そう言えば、皆が皆、彼の行動に目を光らせる。 彼がここから逃げられる、ということは決してないだろう。 「…成る程、分かりました」 「じゃあ一緒に旅するんだな!?よっしゃあ!!」 「あ〜…了〜解。後部座席が狭くなるな」 笑顔で納得する八戒。 喜ぶ悟空。 渋々ながらも満更ではない悟浄。 全く疑いのない彼らの反応に内心ホッとする。 三蔵はそれを表情に出さずに、もう一度煙草を吸った。 独特な苦味が口の中を支配していく。 (…余計な荷物が増えたな) 前を向き、流れる景色を追う。 しかし頭の中は今気を失っているであろうの姿。 そして何故か満たされる心。 素直にそれを受け入れることはない。 まぁ、今は。 今は美味しいお弁当の時間を。 |