会話に一区切りついたところで、宿屋のドアが開いた。 そこに立っているのは朋茗。 妖怪が嫌いだと叫んだ彼女は今、腕に大きな包みを抱えて歩いてきた。 「朋茗」 悟空が名を呼ぶ。 彼女は俯いたまま、持っていた包みを前へと差し出した。 「−お弁当…つくったんです。あの…良かったら皆さんで…」 「おうさんきゅ!!」 雰囲気もへったくれもなく、悟空は素直に受け取った。 あまりにさらりと受け取る彼に、朋茗が顔をあげる。 見たのは満面の笑顔。 「…あ…」 「それじゃこれで」 何かを言いかけた朋茗に優しい声の青年の言葉がかぶる。 同時に彼女の言葉が消える。 はそれを見てから、苦笑を漏らした。 眼鏡の青年の言葉はきっと、わざとかぶせたのだろうから。 「気を付けてな」 「はい」 「ご主人、朋茗も元気で」 「ああ、君もな。…あぁ、そういえばこれも持っていきなよ。君が貰ってきただろうからね」 車が動き出す直前に渡されるお酒数本。 が酒屋でずっと話を聞いていた成果だ。 受け取ったのはの隣に座っていた紅髪の青年。 嬉しそうにお礼を言い、有難く頂戴した。 車が動き出す。 は手を振ることは出来ずにいたが、満面の笑みでそれを表した。 走り去って、小さくなっていく姿。 朋茗は、我慢していた涙を地面へと落した。 「…私…あやまらなくちゃいけなかったのに…あんなにヒドイこといっぱい言って…!!」 「朋茗」 妖怪なんて嫌いだとか。 死んでしまえだとか。 彼らを妖怪だと知らずに言ってしまった。 何度も、何度も。 傷つけてしまった。 そして、ここ二日間手伝ってくれたすら疑って。 悲しい顔をさせて。 それを謝ることすら、できずに。 助けてもらったことにお礼すら、できずに。 「『ありがとう』も『ごめんなさい』もあの弁当につめ込んだんだろ?」 出来たのはお弁当を作ることだけ。 美味しかった、といってくれた彼らへのお弁当。 主人は優しく朋茗の頭を撫でた。 「大丈夫。ちゃんと伝わってるさ」 今、できることはただ一つ。 願うだけ。 ー願わくば彼らの旅路の果てに光あらんことをー… 朋茗は涙を拭いながら、父の言葉に頷く。 はて、とそこで彼女は疑問をポロリと口にした。 「…ところで、さんって彼らに何をしたんだろう?」 「…………さてなぁ」 縄でグルグルに巻きつけられ、半ば涙目になっていた。 捕まってから目は遠くを見つめていた。 彼らを見ればただ「仕留めたり」的な笑み。 「さん、大丈夫かな」 「…大丈夫だろう、きっと」 朋茗たちに最大の疑問と一抹の不安を残しながら、彼らは旅立ってしまったのだった。 一方、三蔵一行。 前に座る眼鏡の青年と法師は真剣な話をしている。 が、そんなことは後部座席には関係なかった。 「だからそれは俺のロールキャベツっつって」 「てめ肉ばっかり食ってんじゃねー!」 「てめぇこそおかかむすびばっか食ってんじゃねーよ!」 の膝の上にはお弁当。 それを我先にとばかりにガッつくの両隣。 そうなると自然と。 そう、自然との周りには食べかすやら何やらが落っこちたりするわけで。 彼らの喧嘩の間にいるのだから五月蝿いことこの上ないわけで。 しかも自分も食べたいけれど両手両足縛られて身動きが出来ないわけで。 「…何が嬉しくてこんな…」 拷問である。 もうは本気で涙を流していた。 しかしそんなこと誰も気付くはずがない。 気付いたところで、何かをしてくれるわけでもない。 そこに前の席に座っていた二人も参戦。 運転している青年も器用に口に食べ物を運ぶ。 今度は四人で弁当争奪戦開始。 ギャーギャーと五月蝿いことこの上ないこのジープの上で願うことは一つだけ。 「誰か助けてください…!!!」 大声で叫んだところで彼らの声にかき消されるだけ。 もう涙は止まらない。 そういえば夜中まで試飲といってかなりの酒を飲んだ。 後に妖怪との戦いになって動き、酔いはそれによって今更回りだした気がする。 ついでに徹夜だ。 もうヘロヘロである。 の心はどん底へと沈んでいき、意識を失った。 ところ変わって天界では。 「アハハハハハハっ!!死ぬっ!!死ぬ〜っ!!!」 観世音菩薩が大爆笑して死にそうになっていたのは言うこともなし。 |