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真っ暗な闇。 漆黒の闇。 そこが自分の領域だった。 魂の解放 沢山の魂を解放してきた 見知らぬ魂から 町の人たちの魂も 両親の、魂も 自分を育ててくれた大事なお兄ちゃん…青明<セイメイ>の魂も 両親は、自分が産まれたとき、心から喜んでくれていた。 しかし身分の差から無理やり離されて。 母はそのことと、『死神』の重圧に耐え切れなくなってを閉じ込めた。 鉄格子という冷たい部屋の中に。 『、お菓子を買ってきたわ。一緒に食べましょう』 『ふふ、また大きくなったわね。きっと美人になるわ…あの人のように』 それでもおもちゃやお菓子を買ってきて。 を抱きしめて。 精神的に壊れながらも、それでも自分を精一杯に愛してくれていた。 その命尽きるまで。 『アナタガ、悪イノヨ』 それは、死んだ母親を見守ってきていた誰かが言っていた。 鉄格子の向こう側で、泣き叫んで。 多くの人が、自分を非難した。 幼いながらも。 ああ、母親は自分のせいで死んだのだと分かった。 『死神』である自分が精神を蝕んで。 殺したのだ、と。 父は、母と離された後、色々旅をしていたようだ。 そして、一人の女性と会って結婚。 子供も生まれて、幸せそうに暮らしていた。 それでも。 を忘れたことなどなくて、生まれてきた子供にまで話をしていた。 嬉しそうに、悲しそうに。 『お前には、お母さんは違うけどお姉ちゃんがいるんだ。お前そっくりの』 『今は離れ離れだけど、いつかまた会えるってお父さんは信じてる。あっちのお母さんにも。…こんなに、愛してるんだから』 『あ、勿論、お前も、今のお母さんも愛してるぞ?』 そしての母である女性の死亡を聞いた後、を捜して回った。 自分の娘であり、愛した女性の娘。 妻にも了解を得て、ひたすら捜してくれていた。 命尽きるまで。 それを知ったのは今から五年ほど前。 自分が幸せに暮らしていたとき。 だからこそ、素直に涙が出た。 自分のせいで、また死んでしまったのだと。 母が死んだ後、七歳のは孤児院へと預けられた。 勿論、『死神』だということは隠されつつも、知っていた孤児院の院長によって隔離される形で。 冷たい鉄格子は変わらない。 でも、母親の温もりはそこにはない。 そこは酷く冷たい世界で、闇は酷く暗かった。 お父さんもお母さんもいない 暗くて冷たい この部屋 鉄格子の向こうから来る人々は 冷たい視線でご飯を置いていくだけ 遠くからは、同じ位の子供達の楽しそうな声が聞こえる 笑いあう 誰かの声が聞こえるのに 俺はこの世界で 一人きり 光がない世界に ある日光は注がれた 『そこってさ、つまんないだろう?』 誰も来ないここに、その人はやってきた。 自分より十年ほど年上の男の人。 びしょ濡れで、涙を流しながらも明るい声をかけてきたその人。 孤児院の人たちの反対を押し切って、温かい手をへと伸ばした。 『俺と一緒に、行こう』 琥珀の短い髪と、青空の綺麗な瞳。 伸ばしても触れられないその青空が近くにあった。 真っ黒な世界が色とりどりに輝いていく。 それでも自分の正体が彼の不幸せになるんじゃないか、という考えは消えなくて。 一度、俺は『死神』だから不幸せになって死ぬかも、と言えば、彼はケラケラと笑い飛ばした。 『何、そんなこと気にしてるんだ?俺人間だけど、まぁ、これでも結構罪とか持ってるし。不幸せだとか死ぬだとかはいつかは絶対訪れるもんだし』 魂の解放のときに知った。 青明は過去、ある人のために人を殺してしまったことを。 それが戒めのように纏わりついて、それから逃れるために誰かを助けようと思って。 を見つけたことを。 『死神とか、そんなの関係ないよ』 優しい、大きな、温かい手。 求めていた青空がそこに在った。 『魂の解放』のときも。 本当の娘のように、妹のように。 全てを教えてくれた。 『、今日のご飯何がいい?』 『〜、一緒に遊ぼう!』 『ちゃん、セーターを作ってみたんだけどいるかい?』 『おう!今日はキュウリが安いぜ!買ってきな!!』 幸せな時間。 『死神でもいい』と言ってくれた、という親友も出来て。 彼女とも一緒に住んで。 町の人たちも皆優しくしてくれて。 幸せな 幸せな 時間 しかし、それは崩れる。 今から三年前。 ある冬の日。 母親を殺したとして、恨みを持ったあの女性が町に現れた。 あなたが悪いと言っていた彼女が。 『アノ子は自分の父親と母親を殺したのよ!』 『死神っていうのはね、全てを滅ぼしていくの!自分の大切な人たちを!町を!世界を!!』 『ウソだと思って動かないのならそれでいいわ!次の日にはこの町は滅びているんだから!!』 『死神』という存在に、町の空気は一瞬にして変わった。 また、その彼女はあることないことを泣き叫びながら言い続けて。 迫力のあるそれに、皆が騙された。 そして町の人々は恐怖に打ち勝つことが出来なくなってしまった。 各々武器を取って、自分達が生きるための戦いに赴いた。 扉が大きな音を立てて崩れ落ちる。 冷たい風と雪が世界を覆った。 食事を待っていたと、食事を作っていた青明が目を見開かせるのは一瞬。 土足で家の中は荒らされていく。 明るかった家の中が、真っ暗になっていく。 すぐに壁際へと追い詰められて、どこにも行けなくなってしまう。 目の前には武器を手に取り、恐ろしい顔で自分を見下ろす、大好きな人々。 青明は町の人々によって、取り押さえられていた。 『、逃げろ!!』 そんな声が聞こえる中。『死神』を背負うは、動けなかった。 大好きな町の人たちを前に、彼らに武器を向けるなど出来なかった。 『死神ナンカ、コノ世ニイラナインダヨ!!』 『人殺シィィィ!!!』 死んでもいい。 この町に至るまでの旅で、人を妖怪を、殺してきていたから。 信じて欲しくて。 受け入れて欲しくて。 何度その正体をバラして、相手を壊してきただろう。 精神的にも、身体的にも。 『死ネェェェェェェェ!!!!!!!』 その報いなのだろうと、受け入れていた。 最期まで、自分を愛してくれた青空が。 自分が愛した、青空がそれを遮るまでは。 彼のくれた黒い羽織りが、鮮血を吸っていく。 白い小袖は、その色の染まっていく。 温かいそれが冷たくなって、黒くなっていく。 (おに…ちゃ……) 自分を庇った青明は笑顔で、貫かれた身体を見つめて。 を愛おしく見ていた。 彼の体に刺さったのは数多の武器。 槍やら、斧やら、多くのそれが彼の体を切り裂いて、貫いていた。 あちこちから血、という紅の液体が溢れているのに。 彼は笑っていた。 抜け出してきたのだ。 町の人々が何人で押さえていたというのに。 自分を助ける、ために。 『生きろよ、。お前が死んだら、俺がイヤだからさぁ』 いつもと変わらない、暢気な声で。 面倒臭そうに。 笑って いたんだ (いやだ……いやだお兄ちゃん、死なないで!!) 手を伸ばせば抱きしめてくれた。 最期まで。 力が残る限りに、抱きしめてくれていた。 愛していると、囁いてくれた。 抱きしめてくれていた手が、音をたてて床を叩く。 無情にも似たそれに、思考は止まった。 (……おに……ちゃ………) 青空はどこにもない。 真っ白い雪が降り積もる夜。 ストーブの火が消えると同時に訪れる闇。 『死神』のせいで 自分のせいで 大切な人が消えていく 『うああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!!!!』 が事件を聞きつけて戻ったとき、もうそこは血の海だった。 いつも温かかった部屋は真っ白いものから、ドス黒く染まっていて。 乾いた液体と死体が雪に埋もれながら山となっている中に、はいた。 青明の遺体を抱いて。 狂ったように泣き叫んでいた。 無情にもその日は満月の夜。 死体の中、魂が解放されてしまう。 その中に、その死体の魂全てが存在していた。 町の人達も、自分を愛してくれていたこと。 恐怖に打ち勝てなくなって、武力に走ってしまったこと。 心の中で謝罪の言葉を述べながら、泣いていたこと。 知らなかった事実が浮き彫りになっていく。 青明の、大きな、大きな愛情までも。 大切に思ってくれたことも。 心から愛してくれていたことも。 そんなこと伝えられて逝ってしまっても ここにはもう、亡骸しかないのに 『ごめんなさい…ごめんなさい…っ!!』 自分のせいで数多の命が消えていく。 それに謝罪をしても届かない。 は青明を抱いたまま泣き叫ぶを、同じく泣きながら抱きしめていた。 朝が来るまで。 ずっと ずっと 朝。 落ち込んで未だ涙枯れないまでも、二人はゆっくりと動き出していた。 血塗られた町から人々の遺体を引き摺って。 町の人々を埋葬し、何日もかけてお墓をたてて。 そんな中。 は誓っていた。 と別れることを。 もう誰も巻き込みたくない。 『死神』の、自分のせいで誰かが死ぬところなど見たくはない。 出来るだけ、そういうことはもう。 特に大切な人は。 孤独のまま、放浪する。 『死神』だとバレないように。 適度な距離感を保って。 真っ暗な闇の中を。 自分が死なないように。 死んだお兄ちゃん…青明の言葉を守るために。 繰り返す闇の記憶。 目の前に現れたのは、青明。 変わらない笑顔で迎え入れてくれた彼。 琥珀の町の、優しい人々。 そして繰り返す。 『死神』の存在に恐怖し、自分を殺しに来る。 愛していると言ってくれた青明までもが。 『なんで…?ハッお前は忘れたのか?町の人を…お前が全て殺したんだろうが!!!ここにいるのは彼らの親戚だよ…お前に怨みを持った!!』 ああ、そうだ。 自分は殺したのだ。 町の人々を。 全員。 大好きなお兄ちゃんまでも。 何度も、幾度も繰り返す殺戮。 遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。 知らない、誰かの声が。 |