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強制的に拉致されて、過ごすこと数日。 彼等と共にいることで分かることがある。 「しょッ」 孫悟空と呼ばれた少年はチョキ。 それ以外はグー。 ジャンケンで決められたのは、ジープに載っていた荷物を運ぶ係。 負けた悟空は大きく文句を言いながらそれを引き摺り始めた。 四人分の荷物があるのだ、重いに決まっている。 はそんな様子を遠目から見ていた。 「おいっどこまで歩くんだよッ!」 彼等に遠慮とか配慮とか、そういう言葉は存在しない。 殴るときは思い切り殴るし、相手への心遣いは皆無に等しい。 だからこそ、八連敗でずっと荷物を持っている悟空を助ける気は全くないのだ。 これが彼等の『関係』らしい。 そして意外と四人とも子供っぽいところがある。 というのがの見解だ。 「こんな岩場じゃジープ通れませんからねェ…」 八戒が辺りを見回す。 そこは山も道もない、岩ばかりある道。 さすがにジープは走るのは無理だ。 八戒はほのぼのしながらも笑顔を絶やさない青年。 天然なような、腹黒のような、それが見え隠れする人物だ。 いや、腹黒なのかもしれない。 実際彼は、自分に被害がないように笑顔でのらりくらりと色々かわせる人物なのだから。 「お前さぁーっジープ以外には変身できねーのかよ白竜!!」 の頭の上にひょっこりと座っている白竜に文句をつけているのは悟空。 メンバーの中で一番子供っぽい人物。 純粋、単純、食べて寝て遊んで、とこれらの言葉で簡単に括れそうだ。 ある意味、一番扱いやすいと言っていい。 「先生ー動物が動物虐待してまーす」 煙草を銜えながら適当に返したのは悟浄。 女好きで、エロ発言がよく飛び出す。 彼も何かを言われれば返す、という子供っぽいところを持っている。 だが、なんだかんだで面倒見がいい兄さん役だ。 「…このままだと山越える前に日が暮れちまうな」 冷静な判断を口にしたのは三蔵。 見た目は綺麗でクールな青年なのだが、かなりの短気でモノグサだ。 そしてかなりの自己中。 ある意味一番の子供である。 とまぁ、これがここ数日で判明した彼等の人物のナリなわけだが。 そんな彼等だからこそかもしれないが、話題が途切れることは全くない。 悟空が騒ぎ、悟浄が便乗し、八戒が軽くボケて、三蔵がツッコむという輪廻。 退屈しない四人組。 (…んでもって、どこか悲しい瞳を持つ四人組っと) はぼんやりと思い返しながら岩場を登った。 自分に荷物であるワンショルダーのバッグが軽く揺れる。 後ろでズルズルという重たそうな音を聞きながら、は辺りを見回した。 「いやーさっきから思ってたけど、立派な岩場だな。明日あたり筋肉が沢山つきそう」 「え、マジで!?俺にもつくかな!?」 独り言の予定が、予定外の干渉。 返事をしてきた悟空を見ると、心なしか目が輝いているように見える。 うーわ眩しい、と思いながらは適当に言葉を返すことにした。 「悟空はあの大人三人より体力使ってるからムッキムキになんじゃね?三蔵の銃弾弾き返すぐらいに」 「マジで!!?よっしゃ俄然やる気が湧いてきた!」 適当に嘘をついただけなのに、悟空はそれを真剣に受け取って荷物を運ぶ手に力を入れた。 何とも単純である。 ああしまったなーと軽く思いながら、は足を進ませた。 実際反省は全くしていない。 「も猿の扱い慣れてきたんじゃねェの」 「本当に」 前では悟浄がニヤリと笑いながらに声をかけ、八戒も乗じて柔らかく微笑む。 そのまた前からは伺うような紫暗の視線が届く。 「皆さんには敵いませんよ〜」 無表情のままは適当にそれを流して、明後日の方向へと視線を向けた。 少々疲れているために、表情に使う力も最小限。 紫苑の瞳には夕日が岩場に沈んでいこうとする姿が見えた。 頭の上の白竜がどんどん重たく感じてきたは頭の上へと声をかけた。 「あー…白竜?首疲れたから肩に移動してくれるか?ついでに足で揉んでもらえると嬉しいな」 「白竜の足で揉んだら喰い込むぜ〜、爪が」 「あ、やっぱいいや。肩に移動だけで」 悟浄の指摘にはすぐさま言葉を訂正した。 お陰で白竜の爪は肩に喰い込むことはなくなった。 そこに小さく安堵。 首を軽く回しながら、片手をあげて悟浄に有り難うの意を示す。 そんな姿を見て笑みを増したのは、悟浄だ。 「お前、変に礼儀正しいよな」 「はぁ?」 一体どこからその話題が出てきたのか。 はわけが分からず顔を顰めると、悟浄がクツクツと喉の奥で笑い始めた。 「お前、一々挨拶とかすっだろ。かかってきた妖怪とかにもさ」 ここ数日で分かったこと。 それはが彼等に対して分かっただけではなく、逆も然り。 はどんな状況でも、のんびりと構えている。 朝でも昼でも夜でも敵の前でも、だ。 何を行うにも面倒臭そうに動くが、挨拶だけは忘れない。 味方然り、敵然りだ。 それに、自分のことだけはしっかりやっている。 生理整頓、調理、その他諸々。 これらは他のメンバーの分もやったほうが効率がいい場合、行うことがある。 面倒臭いか、面倒臭くないか。 効率良いか、悪いか。 これを基本に動いていながらも、礼儀は弁えている。 それがだ。 「あー…挨拶はアレかな。教育の賜物かな」 ぼんやりと今までを思い返しながら、はそう口に出した。 敵だろうと味方だろうと何だろうと挨拶をするのは、バイト生活だったせいもある。 が、ほとんどは自分を育ててくれた人の癖だったせいだ。 もしかしたら、こののんびりした感じも、その人から受け継いだものかもしれない。 「それは、本当に良い人に教えてもらったんですねェ」 八戒が柔らかく笑んで、振り返る。 悟浄と一緒に歩き出したに向かっての言葉だ。 ちなみに彼等の後ろでは「ふんぬ!」と気合を入れて荷物を持ち上げた悟空の姿があった。 それを気にしながらも、はコクンと首を傾げた。 「そう?」 「ええ、ここにいる人達は礼儀が全くなっちゃいませんから」 特に誰、とは言いませんが。 と言いながら深緑の瞳はちらりと前へ進む三蔵へと向けられていた。 彼もそれを察知したらしく、ギロリと此方を睨んでいる。 アハハと笑っている八戒を見てから、はそっぽを向いた。 (…あの人、を、褒めてもらっちゃった) 自分が褒められたならば、それは心を抉るものになるが。 大切な人を褒めて貰えたのならばそれは。 「八戒」 「はい?」 名前を呼べばすぐに振り返る。 優しい眼差しの持ち主に、は言葉をどうしようかと小さく悩んだ後。 素直に。 「…ありがと」 「え?」 そうとだけ、言葉に出した。 聞こえたのか、それとも聞こえてないのか。 どちらか分からないが首を傾げて問い返す八戒に、は苦笑と「なんでもない」と返した。 ちなみにしっかりと聞こえていた悟浄は不満顔だ。 「オイオイ、なんでそこで八戒なの。俺だろフツー?」 「いや、別に悟浄には何も言われてねぇから」 「言ったろうが」 文句をつける悟浄に、は面倒臭そうに顔を顰めて歩を速めた。 疲れているはずの足を動かし、軽やかに岩場を歩いていく。 ジーンズのポケットに手を入れたまま、八戒の横をさっさと通り過ぎて前へと進む。 結局三蔵をも通り過ぎてタカタカと早足で行ってしまった。 「八戒、実は聞こえてたろ」 「あ、バレました?」 悟浄はというと八戒へと追いついて二人揃って歩き出した。 後ろではまだ荷物に奮闘している悟空の姿がある。 「反応が新鮮なんで、つい」 「あー、凄ェ分かる」 について分かったこと。 この四人の中にはいない、性格の持ち主だということ。 故に反応が新鮮だ。 言葉も行動も。 だからこそからかいがある、というもの。 双方の壁は未だ崩れてはいない。 だが確実に。 薄く、なってきているのだった。 |