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『関係』が決まってからまた数日。 町へと寄って御飯を食べたりお酒を呑んだり。 また移動して、妖怪と戦ったり。 いつもと同じな日々だが、退屈しない日々が続く。 ここまで来ると、大体こういう行動を取るだろうとか簡単に予想すらできてくる。 大体パターンは一緒。 だが、それでも退屈しないというのは不思議なことだ。 今も青空の下。 心地よい風が吹いて、暖かい日のお昼。 ジープがエンジンを唸らせて、前へ前へと進む途中。 「…気持ちいーなぁ」 全くもって心地よい日だ。 空気も美味しい。 昼寝には持ってこいのお昼だというのに。 「あッちょいタンマ!!てめェ今カードすりかえただろ!?」 「てねェよ!目のサッカクでねーのー?」 「じゃあ今捨てたカード見せてみろよッ」 「ケッヤダね」 「〜このエロ河童ぁ!!」 両隣が五月蝿くて眠れるわけもなく。 また、自分も無理やりカードをやらされているために、涙すら出てきそうだ。 ちなみにのカードは勿論、役など出来ているわけがない。 「あーうっさいなぁもう。折角の昼寝日和なのにカードゲームをやらされるわ両隣はうるさいわ…」 「だってムカツクだろ!?カードすりかえたんだぞ今!!」 「すりかえようがすりかえなかろうが、俺はどうせ負けなんだからどーでもいー。寝させてくれー」 やる気はゼロ。 溜め息交じりに言葉を返すが、全く耳に届いていないよう。 怒りは増すばかりのようだ。 「だから、すり替えてねェっつってんだろ!耳も頭も大丈夫でちゅかーチビ猿!!」 「んだとコラ!!」 「つかカード如きで血気盛んになるなよ。俺に被害が及ぶから。面倒臭ぇから」 「は関係ねェんだろ〜?だったら黙ってろ、このおチビ!」 「おいエロ河童!!関係ねェんだからヤツアタリするんじゃねェよ!!」 喧嘩おっ始まる五秒前。 もうここまで来ると止まらないだろう。 ちなみに悟浄は頭に血が上ると、のことを『おチビ』と呼ぶようになった。 悟空より背が低いためだろうが、何とも妙なあだ名がついたものだ。 「ああっ!?やるかチビ猿!!」 「やらいでか!!」 両隣で取っ組み合いが始まってしまった。 被害が及ぶのはもっぱら間に座っているだ。 目の前で拳は飛ぶし、膝の上ではキックが飛ぶ。 「降りてやれ、降りて!!」 「今日もまたにぎやかですねぇ」 前の席から突っ込んで止めようとしてくれるのは三蔵のみ。 というのも、三蔵にとって五月蝿いからとかそういう意味だ。 暢気にコメントをする八戒はアテにはならない。 ハッキリ言って、目の前で取っ組み合いは勘弁してほしい。 言い合いですら五月蝿いのだ。 それでも怒らないのは、怒るエネルギーを出すだけ面倒なだけだから。 こういう喧嘩は日常茶飯事だということを、ここ数日でしっかり体験しているのだから。 「ちょっと、この二人、ほんとどうにかなんねぇの」 「どうにもなりませんねぇ」 怒鳴ってくれる三蔵を信じながら、は飛び交う拳と足を潜りぬけて八戒に問いかけた。 今度はの背中の上での取っ組み合いだ。 重みや軽い痛みを感じつつも訊いてみれば、全く止める気すらない八戒の声。 自分に被害はないから止める気が起きないのだろう。 全くもって素晴らしい男だ。 勿論、嫌味であるが。 「席交換してほしいんだけど、マジで」 「残念ながら、運転するのは僕の役目でして」 「三蔵は〜?」 「誰が行くか!」 三蔵にも一応訊いてみたが、勿論ダメ。 というのも後ろの取っ組み合いが五月蝿くて怒っているために反射的に言ったものだ。 だが、交換してくれるわけがない。 誰だって、この席は嫌なのだ。 「…あ〜あ、折角の昼寝日和なのに」 これじゃ絶対に眠れやしない。 未だに後ろの言い合い、取っ組み合いは消えない。 背中に重み、痛み、言葉が圧し掛かってくる。 フゥと大きく溜め息を吐く。 それが青空へと綺麗に消えていく。 途端、の頭の上を、何かが飛んだ。 そんな影が見えた瞬間、の身体は下へと沈んだ。 「うぎょうっ!!?」 「あッバカ危な……」 悟空がの上に圧し掛かり、運転席へも身体が飛んだらしい。 三蔵の焦った声が聞こえる。 大きなの叫びがジープの中へと消えた瞬間、それはズルリと傾いた。 「うお?」 「あら?」 傾く世界。 皆の戸惑いの声が聞こえる。 「!!どわあぁあ!!」 大きな叫び声。 傾いていた世界は一瞬にして。 水の世界へと変わった。 冷たい、透明な水が身体全てを包む。 ジープが白竜へと変わり、狭さが消えた。 突然のことだけに、口内の空気は少なめ。 だが、沈んでいく自分の荷物を瞬時に見つけて拾い上げる。 後に、水の世界から見える、輝くあの光へと泳ぎ始めた。 「ぷはあッ!」 「だああ冷てえッ」 「ぶふぁっ!」 悟空と悟浄が叫ぶ中、も浮上して息を吐き出す。 そして、新鮮な空気を吸い込んで息を整えた。 手にはびしょびしょになった荷物。 溜め息を吐きながらそれを思い切り岸へと投げる。 水をこれでもかというほど吸い込んだそれは重く、大きな音をたてて地面へと落ちた。 見渡してみれば、どうやら川に落ちても無事だったらしい白竜、八戒、三蔵の姿を見つける。 特に三蔵からは禍々しいオーラを感じられるのは、気のせいだろうか。 いや、気のせいではない。 「、大丈夫でしたか」 「おう、平気」 有り難うの意味で片手をあげる。 返事として微笑みが返ってくる。 はそのまま水に全身を浸からせ、もう一度潜り始めた。 水の上でまだ言い争っている声が聞こえる。 懲りない連中とはこのことだろう。 呆れながらも、平泳ぎで底へと泳ぐ。 心地よい冷たさを感じながら、は目的のものを見つけた。 三蔵一行の荷物。 ビールやら酒やら雑誌やら入っているだろうそれ。 それを掴み取って、浮上する。 「…ぷはっ!」 息継ぎをすれば目に入る太陽の輝き。 眩しさを感じながら、は銀色の髪をかきあげた。 近くの岸にその荷物と自分の黒い羽織りをしっかりと置いてまた水の中へ。 何せ久しぶりの水の中。 今のうちに遊んでおくのも手だ。 「おいッてめーのせいだぞ、このバカ猿!!」 「何でだよ!元はといえばお前が…」 「死ね!このまま死ね!!」 さすがにムカツいたらしい。 言い合いをまだ続けている悟浄と悟空を、三蔵は川の中へと沈めた。 これもまたいつものこと。 はのんびりとそこらを平泳ぎし始めた。 「…で、てめェは何優雅に泳いでやがる」 「どうせびしょぬれなんだし、綺麗な川の中に落ちたんだ。折角だから泳いでおこうと思って」 過ぎたことをあーだこーだ言ってても好転しない。 水泳は得意だし、面倒でもない。 ならば、この立場を楽しむべき。 スイスイと平泳ぎしていると、二人を沈めたままの三蔵から溜め息が零れた。 勿論、諦めと呆れのもの。 すると、どこからともなく、女性の笑う声が聞こえた。 |