半おばさんのお見送りを受けて、ジープは発進した。
沢山の食料と水も頂いて。

これでこれからの旅は少しは安心。
旬麗の救助に意外と時間がかかったためか、昨日と同じ青い空は夕焼けへと染まっていく。
それに向かって、走っていく。

どこかの青春映画みたいだ。
そう思いながらは耳を塞いでいた。


ただ今四人の話題は悟浄の目的とか何かの話だ。
悟空が知ってしまってからというもの、その話題に入るのは唐突だった。
いきなり悟浄、結局違ったのか?から始まってしまった。

瞬間、そっちの話になるだろうと判断したは耳を塞いで足元にかがんだ。
出来るだけ聞かないように、だ。

だからと言って目まで閉じたら眠って、知らず知らずのうちに耳に入ってしまうかもしれない。
そのため、目だけはしっかりと前へと向けられている。


とりあえず、これのお陰で言葉は聞こえない。



「……イ。オーイ!終わったからもうイイって!」


「本当に聞こえてねェみたいだな。耳遠いんじゃねェの」


「難聴ですかね」


「ったく律儀バカだねェ…オラ!おチビ!!」


「イタッ!」



バシッと頭に衝撃。
後ろからということは悟浄か悟空だろう。
目だけ追えば、すぐに耳にあてていた手は悟浄によって払われた。



「あ、終わった?」


「終わった終わった。だからもう耳塞がんでイイ」


「そりゃ良かった」



よいしょ、とが席へと戻る。
悟空と悟浄の間。
戻ってきたを見てから、悟浄はのんびりと声を出した。



「しっかしアレだな。フリーのイイ女はなかなかいねェよ」


「いるじゃないですか、隣に」


「ああ?女じゃねェだろコイツは」


「俺を女って言うあたり、もう病院入った方がいいと思う」



八戒の言葉に、悟浄だけではなくもダメ出し。
裏を言えば、彼に病院に行けと言っているように聞こえるが、そんな事は思ってはいない。
どんだけ卑屈!?と悟空が声を出したが、それは無視だ。



「くだらんな」



ケッと言いながら言葉を出したのは三蔵だ。
悟浄の女好きに嫌気がさしているらしい。
後ろから、悟浄は身を乗り出した。



「お前ねー。女に興味ないなんて病気だぜビョーキ!それともホモ?ヤダァコワーイ」


「…撃ってもいいか」


「一発じゃ死にませんよ」


「ホモソーセージ?」



また始まった。
はのんびりと、普段通りの会話を始めた四人を見た。
そして、前の大きな夕焼け。

ああ、また眠くなってきたと思ったときだった。



「うわ」



グイと身体が前に引かれる。
肩にはいつの間にか回ってきた腕。



もそう思うよなァ?」


「は?」



一体何の話でそう訊かれているのか。
話しかけてきたのは腕の持ち主、悟浄。
全く興味がなかったので聞いてなかった、ということが分かったのか、彼はニヤリと笑ってみせた。



「三蔵がホモで、恐いって話」


「誰もんなこと言ってねェだろーが!死ぬか?」



三蔵が銃をチラつかせる。
何故そこにが巻き込まれるのか。
よく分からないまでも、はのんびりと口を開いた。



「別に良いんじゃん、ホモとかノーマルとか」


「オイオイ〜ホモだったら俺達の危機だっつの」


「俺関係ねーもん」


「おーチービー!そこはノっとけ!」


「イタタタタタ!?」



悟浄は不服らしく、頭を拳骨でグリグリとしている。
痛がるをよそに三蔵は少しザマァという顔で笑んだ。
運転席では八戒が笑い、悟空は悟浄と同じように反対側から腕を回した。



「ホモソーセージが何だって?」


「イタタタ!いやいやソーセージ関係ないって。何嬉しそうなのお前?イタタタ!」


「おチビがやられてるのが嬉しいってよー。猿ってば意外とサドかもな」


「猿って言うな!サドって何!?」


「あ、悟空は知らなくていいことですからね」



何故この四人の中に巻き込まれてるのだろうか。
とりあえず、頭が痛い。
いい加減に離してほしい。

悟空は何が嬉しいのか軽く笑った後、ピタリと止まった。
金晴の色は、座席下へと向けられている。

そこには、一枚のカード。



「ああッ昨日のトランプ!てめェやっぱし札スリかえてたな、イカサマ河童!!」


「イタァ!?」



悟空はの背中の上で悟浄に掴みかかった。
沈む身体。
悟浄は煙草をふかしながら、ニヤリと笑った。



「っせーな。過去のことにこだわんなよ。モテねェぞ、猿吉!!」


「終わったことで俺の背中の上でウダウダやらないでくれる?」


は関係ねェだろ!?」


「あれ、デジャブ?」



痛みを堪えながら嫌な予感がする。
確か川に落ちたのも、こんなやり取りがあったからではなかったか。
はとりあえず、近くにあった自分の荷物を抱えた。

グラリと傾く車。

嫌な予感的中。



「ああッ!?」


「オイまさか」



確か隣はまだ川が流れていたはずだ。
あーあ、と溜め息が出る。
また川へと逆戻り。

だが。
ヒトは学ぶもの。



「てい」



皆が焦る中、だけは抱えていた自分の荷物を空へと投げた。
自分は悟浄や悟空が乗っているために動くことは出来ないが、荷物だけなら動ける。
ワンショルダーバッグが、紅の空へと放たれる。

ドボンという音と。
大きな叫び声。

紅に染まる水の中を見ながら、は小さく笑った。


(これで、俺の着替えの心配はゼロ、と)


自分を褒めてやりたい。
三蔵の撃つ発言を聞きながら、水中から顔を出す。

両手をあげて三蔵に降参している二人の子供を見ながら、はまたのんびりと泳ぎ始めた。
岸に黒い羽織りを置いて。
彼等がそこから出るのを、ただただ泳いで。



「とにかく上がるか…あーほんと、面倒くせェ」


「ってあれ!?なんでの荷物だけ助かってんの!?ズリィ!!」


「アハハ、良かったですねぇ。さ、野宿の準備でもしますか」


「泳いでねェで、行くぞおチビ!!」



そう促されるまで。
紅の水の中を、ゆっくりゆっくりと。

楽しみながら。





まだ『領域』は侵していないし、侵されてはいないけれど。

楽しみ方は、分かってきたのだった。













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