|
まぁ、僕のこの仮定があっていたらの話ですけれどね。 そう八戒の苦笑が零れて。 静かに三蔵が歩いて。 頭を悟浄にグシャグシャに撫でられて。 そんな朝。 結局、三蔵曰く。 まだ一緒に旅をするらしい。 の正体は、まだ分からないからと。 本当に酷く拘っている。 …でもそれは、見せかけかもしれない。 だって三蔵はあのとき 笑っていたんだ 感情を露にした、に 「…ちょっと?お宅らうるさいんだけど。俺の部屋で騒がないでくれる?」 悟空がの部屋で起きるのを待っていたら。 悟浄がからかいにやってきて。 それを止めに八戒が現れて。 結局三蔵が五月蝿い面々を怒鳴りに来た。 としては迷惑極まりない。 折角、眠っていたのというに。 「コイツらが五月蝿いからだ。そっちに言え」 「主に、悟浄と悟空ですよね」 「このエロ河童がごちゃごちゃ横から言ったんだろ!」 「ああ!?猿がショボくれてっから元気つけてあげたんじゃねェか!」 「んだとこの下ネタゴキブリ頭!」 「チビバカ猿!!」 「ホラホラ、二人とも。そろそろやめておかないと三蔵が」 「お前らうっせェっつってんだよ!死ぬか!?」 「ああ、うん、分かった。お前ら四人共出てけ」 は目の前でギャンギャンと騒ぎ出す四人を前に、ビシリと扉を指さした。 朝の、あの出来事を感じさせない彼らにいささか溜め息が出る。 ハッキリ言って、うざったい。 「すみませんね、五月蝿くしちゃって」 「うん、そう思うなら出てってくれ」 まだ眠りたかったのに。 頭をガシガシと掻いて欠伸をする。 周りを見て、半眼でぼんやりとし始める。 まだ騒いでいる彼らをよそに、窓へと視線を移した。 まだ、あの朝から数時間しか経っていない。 が、確実に昼になっている。 お腹は空いていないし、今はただ眠い。 だが、五月蝿くて眠れない。 「…まだここで言い合い続けんの?つか、なんでこの部屋?俺に何か用?それとも嫌がらせ?」 そうとしか考えられない。 いっそのこと殺しに来たのだろうか。 だが、それにしては空気がそういうものではない。 ではやはり嫌がらせなのだろうか。 それはそれで、面倒臭い。 ジト目で見ると、気付いたのは八戒だけだった。 「ええ。まぁ、報告をちょっと」 報告。 一体何の。 首を傾げて先を促すと、八戒は微笑んで口を開いた。 「とはこれからも、一緒に旅をするということを」 置いていってくれてもいい。 殺そうとしてくれてもいい。 その二つの選択肢を無視して。 三つ目を作る。 「……で、その理由はまた『正体』?」 紫苑の瞳は真っ直ぐに彼を見上げていた。 銃を突きつけた、彼へと。 勿論、眠いため半開きだが。 彼らは少ししか眠っていないためにハイテンション。 その隣で、三蔵は紫暗の瞳を細めた。 「…確かに『正体』だが、事情は変わった」 「事情?」 事情なんてあったろうか。 結局は『正体』が理由で在ろうことには変わりないのに。 三蔵はいつの間にか煙草をふかしていた。 ここは人の部屋だというのに、だ。 煙草の苦い香りが、辺り一帯に広がる。 はその香りと、彼の意味深な言葉に顔を顰めた。 「てめェの『正体』は誰の『敵』にも『味方』にもならない。そうだな?」 「…そうだけど」 むしろ、誰とも『関係』は築かないと言ったんだが。 『正体』は関係なく。 精神の安定のために。 自分を守るために。 「ならもう、てめェの正体はどうでもいい」 「……………ハイ?」 三蔵の口から紡がれる言葉。 アッサリと言うそれに、は目を瞬かせた。 口もポカリと開いた。 ついでに思考も止まった。 悟空と悟浄はもう争い終わり。 八戒も笑顔で。 を見ていた。 「は?え?」 「面倒臭ェんだよ。誰かと同じでな」 フンと鼻で笑って紫煙を吐き出す。 未だに思考がついていかないは、目を瞬かせるばかり。 もう『正体』はどうでもいい。 と云うことは、今迄のは一体何だったのか。 と云うことは、朝のアレは意味がないのではないか。 と云うことは、もう自分を解放してくれてもいいのではないか。 沢山の考えが頭の中を交差する。 「だが、何せ、どっかの神から『連れてけ』という命を受けてるんでな」 面倒臭そうに、だから連れていかざるをえないという三蔵。 溜め息のように紫煙を吐き出す金色の髪は、太陽の陽を反射させた。 「…その神はなんて?」 「お前の『正体』が何らかで暴走したときに、止める輩が必要だろう、とかそういう意味だろうよ」 集中力がないと、攻撃の自制はきかない。 四つの鎌の話をしたときにそういう話をしたから出る結論。 暴走しないとは、言い切れない。 しかも、それを抑えることが出来るかどうかすら危うい。 『正体』が言えないは、何も言えなかった。 だが、実際はこの理由。 三蔵が考えただけだ。 神が言ったのは『面白いから変なヤツに会ったら連れて行け』とそれだけだった。 しかし、それだけでは信憑性がない。 だからこそ、悟空達を信じさせるために作った理由。 「しょうがねェよ。命だからな」 これが結論。 今は、『正体』など、どうでもいい。 ただ。 一緒に旅をすること。 暴走するときは、殺してでも止める。 これは、変わらない。 だが。 彼にとっては、素晴らしい譲歩。 「良かったな!!!」 「……嬉しいような、悲しいような」 「そこは喜んどけ、おチビ」 素直に喜ぶ悟空の傍ら、はどう反応したら良いのか戸惑うことで終わった。 いっそのこと、放っておいてくれた方が良かったのだ。 しかし暴走のことを言われると、何とも言えない。 そして。 どこか嬉しいと感じる自分がそこにいた。 「…まぁイイヤ。了解。じゃ、俺寝るわ」 は掛け布団を引っ張りだした。 黒い羽織りをベッドに軽くかけ、ブーツも脱いで。 布団を頭までかぶれば、また寝られるだろう。 そう思ってモソモソと入っている中、痛みと衝撃が走った。 「イタッ!」 「あ、悪ィ。ってかまた寝るのかよ!昼飯だろ!?」 「いらねー」 どうやら悟空が起こそうと、思い切り乗り出したら意外と力が入ってしまったらしい。 しかも昼飯がどうの、と言っている。 彼は眠気より食い気だが、は逆。 断りながら、ピラピラと手を振った。 放っておいて、あっち行け、という意味だ。 「俺は眠い。寝る。おやすみ」 「〜!!」 「俺の分まで食ってこい」 悟空の声をよそに、布団を頭までかぶる。 息苦しいが、五月蝿さに耐えるぐらいならこれでいい。 闇へと陥ろうとする、の瞼の裏。 が、布団がすぐに取られ、光の中へと戻された。 「喰わねェと胸デカくなんねェぜ?」 「身長も止まってしまいますよ?」 「何?お前ら、俺の親か何か?勘弁してくれよ……うぜぇー…」 クハァと大きく出る欠伸。 悟浄と八戒の言葉は心配する親のようだ。 いや、一人はエロ親父だったが。 とにかく眠い。 「…ったくしょーがねェな。晩飯は喰えよ」 「ちゃんと迎えにきますからね?」 「ハイハイ」 頬を膨らませている悟空を、ズルズルと悟浄が引っ張っていく。 八戒も、三蔵もそれに続いて部屋を出て行く。 はそっちを見ないで、ピラピラと適当に手を振っておいた。 小さく、扉が閉まる音。 訪れる静寂の中、は窓辺から入り込む光へと目をやった。 部屋の中の、影を消していくそれ。 「……いいのかな、これで」 これからの旅について。 自分に対して。 彼らに対して。 これで、いいのか。 「知るかよ」 「うえっ!?」 誰もいないと思ったその部屋に。 まだ人がいた。 金色の髪の持ち主。 驚くをよそに、三蔵は振り向かずに。 ただ口を動かした。 「どの選択がイイのか。そんなん、分かったら誰も苦労はしねェよ」 パタリともう一度扉が閉ざされる。 今度こそ、静寂に包まれる部屋。 紫煙の香りがまだ漂うこの空間。 光が差し込むこの場所。 目を閉じても、眩しいその陽。 「…そうだな。だから、『生』はいいんだよな」 の呟きは。 光に溶けたか、闇に溶けたか。 それは、誰にも分からなかった。 |