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満月の夜は数日前に終了した。 野宿をしたときに、こっそりと抜け出して、一夜を誰も来ない森の中で過ごした。 今回の魂を導く、アレは、酷くキツかった気がする。 多くの魂だったということもある。 だが。 今回は酷く死に方が悲惨だった。 印象的だったのは、ある妖怪達の。 どこかの坊さんが札を貼り付けた途端。 妖力をいっきに吸い取られて、力を失って。 一瞬で殺されるように感じながらも。 まるでジワジワとその札に全てを吸い取られるような。 思い出も。 感情も。 何もかも。 そして 死んでいく 意識のある中で、消えていく 悲しかった。 悔しかった。 苦しくて、死んでも死にきれない。 こんなに魂がはっきりとした形で印象に残ったのは、彼らの朽ちた場所の距離が、魂を解放した場所から近かったから。 朝起きて戻ってみれば、どこに行っていたとか散々に言われたが、怒られることはなかった。 そして今は数日後。 ジープがゆっくりと、道の上を走っていた。 「…あーあ。ひと雨来るな、こりゃあ」 「宿か何かに着くまで間に合うかな」 雨が降りそうな暗雲。 それは大きな音を鳴らしている。 雷様はキレて涙を流す直前のようだ。 「賭けるか?無理な方に千円」 「俺も」 「オレもっは?」 「賭け事弱いからやめとく」 「どっちにしろ…賭けになってませんって…」 ジープには屋根がない。 雨が降れば、確実に濡れる。 こんな賭けにならない賭けをして、のんびりとジープは走っていく。 濡れることなど、どうでもいいのだ。 何せこの間は、川へと落ちてびしょ濡れになった身なのだから。 「あ、ゴロゴロ鳴った」 「雷様はご立腹だぜェ?誰か降らない方に賭けろよ」 「雨雨降れ降れ、オレが勝ち〜!」 「オンチ猿」 そこまで、雨は重要なことじゃない。 湿っぽい風を受けながら、後ろの三人はぼんやりと上を見上げていた。 音を響かせる、真っ黒な雲。 どう考えても雨は降ることになりそうだ。 「さあ、雨、好き?」 「ん、好きだよ」 に話しかけたのは、悟空。 当たり前のように返答して、はのんびりと空を見上げる。 「なんで?」 「雨は、命を育む源、だからな」 雨は命を育む。 土を、植物を育て、それは動物を育てる源。 川となって、それは海へと流れていく。 全ての命の、母と言っていい。 「真面目な答えさんきゅーおチビ」 「どーいたしまして。まぁ、他に理由あるけどな」 勿論、それだけではない。 のんびりと悟浄の言葉に返しながら、ニヤリと笑ってみせた。 雨に打たれるのが好きだ。 頭上から降り注ぐ、天然の水滴を浴びるのが。 冷たい、その水滴が身体を滑り落ちる瞬間が好きだ。 穢れた身体が、洗われるようで。 この、血を浴びるだけではない、この身体が。 「俺は、雨に濡れるのが意味もなく好きなんだよ。だから、雨は好き」 「マゾか」 「なんでそうなるかな三蔵の頭は」 前方からとんでもないつっこみ。 しかもこの発言が違う方向へと影響するから困ったものだ。 そう、悟浄へと。 「そーか。おチビなだけじゃなくマゾだったかァ、マ・ゾ・チ・ビ・ちゃん」 「何そのあだ名。センス悪いし、ダメダメじゃん」 の肩に堂々と肘をのせて、体重をかける。 あだ名といい、この行動といい、馴れ馴れしいったらありゃしない。 面倒そうに溜め息を吐いて、ケチをつける。 「なぁ、マゾって何?」 「ハイ、悟空は知らなくていいことですからね」 「前から思ってたけど、その台詞多くねっ!?」 大人の会話はお子様には不要。 八戒が笑顔で止めることで、その事態は終了。 教えてもらえないことに、悟空は頬を膨らませた。 しかし、その表情が一変する。 辺りを伺い、見回す。 その姿に、と悟浄が気付いた。 「−どうした悟空?ハラでも減ったか」 「ん。いや…なんかさっきから変なニオイがする」 クンと鼻を動かして、辺りを見回す。 そこで、全員が同じように行動し始めた。 匂いをかいで。 目でどこかを追う。 「そう言えば…」 微かに漂う、少し嫌な匂いに三蔵が顔を顰める。 どこからとは分からない。 ただただ、匂いを頼りにあちこちを見回すぐらいしかできない。 しかし、どんどん気持ち悪くなる。 この香り。 「……コレ、どこかで……」 吐き気。 眩暈。 寒気。 気持ち、悪い。 どこかで感じたことがある。 しかも、最近。 は紫苑の瞳を鋭くして、辺りを警戒し始めた。 「!?ちょっと…皆、あれを…!!」 八戒の声が、皆の表情を強張らせる。 足で思い切りブレーキをかけて、のんびりと走っていたジープが急停車をする。 前のめりになりそうな身体を、バランスを取って崩れないように動かす。 しっかりと止まった車から見える何か。 そこに、全員が釘付けになった。 「−おい、何だよコレ……」 思考が止まる。 息が、急に荒くなる。 我が目を疑う。 ジープの中にいた彼らは、各々顔を引き攣らせた。 無残な大量の、妖怪の死体が転がっていた。 酷い表情で、苦痛に満ちたそれ。 身体中には大量の札が貼られている。 「………あ………」 理性に負けて動いていれば、目の前に、坊さんが現れる。 まるで何かに取り付かれたような目は、自分達をも感じさせた。 狂気に囚われた彼の瞳は、悲しみに揺れながら、憎悪に満ちて。 「………ああ………っ」 札を取り出し、貼り付けられただけで。 妖力が吸い取られていく。 生気すら、失われていく。 ミイラの如く、全てを吸い取られて。 「……ああああ…っ!」 「…!?」 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい 痛い痛い痛い痛い痛い 助けて助けて助けて助けて助けて 吐き気 頭痛 眩暈 苦痛の時間が酷く長く 身体を蝕んでいく そして自分は 腐敗していくのだ |