六道を撃った銃を片手に。
ジャリジャリと音をたてて。
森を抜ける。

傷は痛むが、それほど痛むことはない。
それを痛むというのなら、この心は一体何なのか。
死んで逝った彼の苦痛は何なのか。
彼の笑みは、何なのか。

それこそ失礼だ。
これを、痛みと呼ぶなどと。



後悔はない。
彼は、笑ってくれたから。

撃てと、向けてくれたから。



それでも疲労は溜まる。
精神的にも、肉体的にも。



『鳥が自由だなんて、誰が決めたんでしょうね』



飛んでいく鳥達を見て。
過去の師は言う。



『たとえ思うがままに空を飛べたとて、辿り着く地も…羽を休める枝もなければ、翼を持ったことさえ悔やむかもしれない』



彼が言っていたことを、本当に理解出来ているわけではない。
ただあの頃は、言葉を受け止めていただけだ。

彼は一体、何が言いたかったのか。



『本当の自由は還るべき場所のあることかもしれませんね…』



朝陽に溶けて消えていく、過去の残像。
優しい声色。

鬱蒼としていた影から、光の下へと出る。
木に寄りかかりながら、紫暗の瞳を前へと向けて、見開いた。




森を抜けて目に入ったのは、朝陽に輝く、ジープ。


その上に在る、四人。
笑いながら、助手席に座る誰かを待つ彼ら。


その光景は悔しくも。


師の言った『自由』を意味している気がして。







「お客さん何処までー?」


「初乗り、いちまんえんだよン」


「うわ高っ。とりあえず、おかえり」



後部座席の三人が次々と声をかける。

一人はニヤリと笑いながら。
一人は嬉しそうに笑いながら。
一人は面倒そうに片手をあげて。

彼らを見たときの、あの感情が。
馬鹿馬鹿しいというか、恥ずかしいというか。
それに駆られて、三蔵は頭をガシガシと掻いて銃を悟空へと放った。

大切なヒトを撃った、それを。
預けて。



「西に決まってンだろ」



しっかりとキャッチする彼を見ながら、空いていた助手席へと身体を滑り込ませた。
自分の、席へ。

帰る、場所へ。



「−俺は寝る!起こした奴は殺すぞ」


「−はいはい」



戻ってきた君に『おかえりなさい』を。
そして、眠る君に。



「おやすみなさい」を。



ジープは走りだす。

八戒の運転で。
助手席に三蔵を乗せて。
後部座席に悟浄と悟空を乗せて。
そして。


三蔵一行ではないハズの、を乗せて。


遥か西へと。












「−ああやって何度でも走り出すんだ、あのポンコツは」



クツクツと小さく笑う観世音菩薩。
水面に浮かぶ、彼ら。
風を切って走るジープ。



「五百年前からちっとも変わっちゃいないよ」



脳裏に浮かぶのは、違う人物像。
だが、同じモノ。



「誰かの手の上で踊らされるくらいなら、舌噛んで死ぬ様な連中さ」



五百年前の天界。
そこに在った、また別の物語。


金色の長い髪と紫暗の瞳を持ち、いつも仏頂面の者。
茶色の長い髪と金晴の瞳を持ち、異端と呼ばれながらも純粋な少年。
黒い、肩までの長さの髪と瞳を持つ、文献と地上が好きな軍人。
黒い短髪と深紅の瞳を持つ、暴れん坊の軍人。

そして。



咲き誇り、そして潔く散る地上の桜に憧れた。
銀の長い髪を持ち、紫苑の瞳を輝かせて。
いつも紅や薄桃、白の花びらを眺めていた。

何事にも囚われたくはないと。
気ままにここにいた。

ここで『自由人』と呼ばれた、者。



「そう、お前もだよ。だからこそ、お前は今回手ェ貸しちまったんだ」



『領域』だとか、『壁』とか。
ぶっちゃけ面倒なそれらを無視して。
黒い羽織りを差し出して、魂と身体を結びつけて。
六道にくだらない、説教までして。

自分を貫いた。



何度死のうが、何度生まれ変わろうが。
本質は変わらない。
だからこそ。


無意識にも。
手を貸してしまったのだ。



は気付いているだろうか。
これによって『三蔵一行』に手を貸してしまったことに。

三蔵一行は気付いているだろうか。
今回のことで自分達は借りを作ってしまったことに。


そして、お互いに気付いているだろうか。

お互いがお互いに、『領域』を侵してきていることに。




「ま、これでポンコツらしくなってくるんじゃねェの?」



あの頃のように。
あの頃の五人のように。

歩み寄り始めている。
お互いに、お互いを呼ぶように。
『壁』や『領域』や『正体』を、通り越して。


まだポンコツは未完成。
だが、いずれ完成する。


それはいつになるのか。
分からないけれど。


だが、必ず。

その時はやってくる。







蓮の花の香りが鼻を擽る。
観世音菩薩はくるりと振り返った。



「…お前もよく知ってるだろ?」



蓮が浮く泉を見るのは、観世音菩薩だけではない。
もう一人。
椅子に座って、瞬き一つしないままの。

少年。



「…ま、今のお前には何も見えちゃいないんだろうね」



身体だけここに在る。
人形のような君。

虚ろな瞳は。



「那咤」



水面に映る彼らではなく。
過去を、映したままなのだろうか。














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