今迄あった温もりが消える。
しかし、改めて強くなる想い。

彼らが消えた場所を、達はしばらく見やっていた。



「『お元気で』−って言われちゃったよ」


「ははっ!」



悟空と悟浄が笑いながら、そこを見つめる。
彼らの前には、の後ろ姿がある。
銀の髪を靡かせて。
また、両手をポケットに突っ込んで。



「やりづらい敵だぜ、まったく」


をも任されちゃいましたしね」



煙草に火をつける悟浄を見ながら、八戒が苦笑を零して言った。
彼の肩にとまっていた白竜が、の頭に乗る。
ポスン、という音と共に小さな頭が頬へと伸びる。
そして、ペロリと小さく舐めた。

ようやく、はそこから視線を逸らすことが出来た。
白竜を見上げ、小さく笑む。
表情は、いつものものに戻っていた。



「あー、別にの言ったことは気にしなくていいから」



宜しくするつもりはない。
任せられるつもりもない。

彼らを振り返り、苦笑を零して。
その後、はのんびりと空を見上げた。
巨体が蠢いていた、そこを。



、あのって…」


「ああ、俺に会いに来たんだって」



悟空の声に、のんびりと返す。
名前を聞いただけで、すぐに思い出せる顔。
思い出して、無意識に笑みを浮かべる。
それを見ながら、三蔵は口を小さく開いた。



「おそらく奴らでさえも、誰かの駒のひとつだろうな。あのってのも」



紅孩児達は、ただの駒。
計画を阻むものを除くための。
は科学者ではあるけども、これもただの駒だ。
目的を達成するための。



「牛魔王蘇生を目論み、この世界に混沌を呼んだ『どっかのバカ』は紅孩児の背後<うしろ>にいる」



誰も知らない、その黒幕。



「俺達が倒すべき真の敵だ」




それこそが、三蔵一行の真の敵。
の、倒すべき相手。


のんびりと、それらへんを聞いておけばよかったと思う。
そうでなくともせめての私生活とか。
彼女はを心配して来てくれたのだから、どうしてもの話になってしまったが。

慰めてくれているらしく、白竜はひっきりなしに頬を舐めてくれている。
はその小さい頭を人差し指で撫でて、また小さく笑った。



「お前とも、もうすぐお別れだな」


「え?」



の白竜へ零した言葉に、悟空が反応する。
金晴の瞳は驚きに見開かれる中、三蔵達も顔を顰めた。



「え?何?どゆこと!?」


「だって俺の目的、果たされたし」



当然、とばかりには言ってのけた。
彼らに話した目的は『大切な女性が行方不明だから探している』ということだけ。
その彼女に会えたのだ。
もう彼らと共にいる意味はない。

いや、離れる理由が出来たといった方が正しいだろう。
戸惑う悟空の傍ら、は未だのんびりと白竜の頭を撫でていた。



「今すぐにでもお別れできるんだけどな。何せ、怪しい式神がいたからな…」



それだけが、不安。
きっとアレはあの易者のものだろう。
紅孩児達は関係なかったのだから。

だとすれば、あの易者を倒さなければ。
放っておけば、また命が奪われるかもしれない。
彼は八戒に興味があるようだった。
そして、にも少なからずは。

今すぐに別れて、自分が危ない目に遭うよりはまだ三蔵達と一緒に行動した方がいい。
それが、結論だった。



「その問題がはっきりカタつくまで、一緒にいさせてもらうよ」



自分の防衛のために。
空から彼らに視線を戻し、は肩を竦めてみせた。

もう少しだけは共にいる。
それだけ分かった途端、誰かが口を開いた。
とにかく、この町を出た方がいいと。


狙われたのは三蔵一行か、か。
とにかくその五人が標的ならば、町から出たほうが被害を最小限に出来る。
それが分かっているから、誰も否定しない。
も彼らの方へと歩み寄る。

すぐさま隣に来たのは、悟空だった。



「…さぁ、本当に一緒に来ねェの?」


「言ったろ。俺の目的は果たされた。これ以上お前らといるメリットが、俺にはねぇんだよ」


「…そか」



どこか悲しげに揺れる瞳。
はそれを見ても、気付かないフリをして言い切った。

心は痛まない。
この別れこそが、彼らにとっても自分にとっても幸福だと信じてやまないから。



「ったく、大事な女に会えたからいいって。せめて連れ戻すとかねェのかよ」


「あいつは幸せって言ってたからな。そうなら別にいいし」



悟浄が紫煙を吐き出しながら呆れている。
それすらも、さっさとは片付けた。

勿論、これで旅を終わらせるつもりはない。
本当の目的は彼らと同じ、牛魔王蘇生実験の阻止なのだから。

これまでと同じく、一人で続けていく。

どれだけ、時間がかかっても。



「三蔵達がそれでも俺を拉致ってくってなら、勿論そのときは殺してでも、俺を貫く」



今から言っておく。
三蔵達が止める前に。

そして、自分に誓うために。


三蔵は鋭い眼光で見下ろすだけだ。
何も言わない。
隣では八戒が苦笑を零している。



「…ま、それはそれとして。さっさと町を出ようぜ、面倒くさくなる前に」



はそんな彼らを見回してから、さっさと歩きだした。
このままでまた式神が襲ってきたらたまったもんじゃない。
ポケットに手を突っ込んだまま、スタスタと。

三蔵達を通り越して少しして、はある物を見つけた。
地面に落ちている、ボロボロになった黒い羽織りの切れ端。
どうやら風に飛ばされていたらしい。


(…あーあ、また買わなきゃ)


もはや消耗品だ。
屈んでピラピラしたそれを拾い上げる。

その影には、一つの牌が落ちていた。


『魂』と書かれたそれ。



「…にゃろう」



どう考えてもワザとだ。
に対する嫌がらせの一種としか思えない。
それを拾い上げ、良く見てみると文字が掠れている。
興味本位で拭ってみたのを、はすぐに後悔した。


『魂』の文字は消え、新たな文字。
そこには正体を現す言霊。

『死神』、と書かれていた。




「−ッがっ、かはっ!」



後ろから聞こえたのは八戒の呻き。
はすぐに振り返った。

紫苑の瞳に映ったのは、跪く八戒の姿。
悟浄と悟空が駆け寄り、様子を見ている。



「?…八戒!!?」


「大丈…夫。−何でもありませんっ」



どう見ても顔は真っ青だ。
いつも堂々としている深緑の瞳はグラグラと揺れている。
はゆっくりと立ち上がり、その光景を見つめていた。





『アナタガ、悪イノヨ』




過去の声が聞こえる。
自分を戒める、声が。

多くの、声が。



「……」



は手にした牌を、ヤツアタリとばかりに遠くへ投げた。
遥か、遠くへ。










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