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四つの鎌は綺麗に旋回する。 悟空の存在と隠すように。 紅孩児の術が放たれるまで。 が集中する中、は背中を支えて。 全く別のことを考えていた。 三蔵一行と旅する。 どうやら白竜にだけは心を許している。 他の四人とは、一緒にいるも深く関わろうとはしていないのだろう。 それでも、何度か命を助けたのかもしれない。 は、喪うことだけは阻止しようとするから。 生の、大切さを、知っているから。 は、きっと三蔵達と別れようとするだろう。 そして、彼らもそれを止めるまい。 拉致しただとか、そういう事情は置いておいても。 ちらり、と紺色の瞳は三蔵達を映す。 皆が皆、悟空と紅孩児の戦いの行方を見守っているようだ。 しっかりと、の鎌の様子も見て。 (…もしも、もしもの正体を彼らが知ったら) 玄奘三蔵は 猪八戒は 沙悟浄は 孫悟空は 受け入れて、くれるだろうか (受け入れて、ほしいわ) 出来ることなら。 自分とあの人以外の、彼らに。 他の人たちとはどこか違う、彼らに。 太陽を背負う、彼らに。 闇を照らして欲しいと。 願ってしまう。 (…) の肩に力をこめる。 それに応えるように、鎌の旋回は速くなる。 (貴女も、受け入れて欲しいんでしょ?) 言葉はないけれど。 彼女はいつも願っていた。 絶望に抱かれながらも。 信じて欲しいと。 受け入れて欲しいと。 いつも、闇を照らす光を 求めていた しかし、それには恐怖が付き纏う。 正体が正体である。 それ以上に。 命を賭けなければいけない。 それでも、願わずにはいられない。 太陽の、光に。 「っ!!」 「おうっ」 悟空の声がかかる。 準備が出来たのだろう、はすぐに四つの鎌を消した。 途端に飛び出す、身体。 「如意棒ォ!!」 大きな巨体を飛び越えて、後ろから伸びた如意棒で突き刺す。 そうすることで、その巨体の動きを封じた。 しかし、それは一瞬だ。 はその瞬間を逃すまいと、また四つの鎌を出して手足を封じた。 「…ッ紅孩児!」 「紅孩児、行け!!」 「−避けろよ悟空!!」 紅の瞳は開かれる。 褐色の大きな手の中には、炎が燃える。 爆発的に膨れ上がる妖力。 それが熱風となり、皆の髪を揺らした。 「炎獄鬼!!」 炎を纏う召喚魔。 全てを焼き尽くすように真っ直ぐに向かっていく。 それを見た瞬間、悟空はすぐに巨体から離れ、も四つの鎌を消す。 次の瞬間には、巨体は爆発に包まれた。 砂煙がもうもうと上がる。 地響きが消えたあたり、もう巨体は倒せたのだろう。 ただ目を細めて、風に髪を靡かせる。 も、も。 また訪れる、別れを感じて。 「………また、帰るんだろ」 「…ええ」 お互いに、そのまま。 瞳も合わさず、身体も動かさず。 口だけを、開く。 「終わって、ないもの」 の目的は。 終わっていない。 だから戻る。 「…絶対、迎えにいくから。止めるから」 だから、は迎えにいく。 それが目的なのだから。 砂埃が消えれば夢の終わり。 はに支えられながら立ち上がった。 しっかりと、手を握り締めて。 「ーやったか?」 「みたいだな」 悟空と悟浄が声をあげると同時に見える。 視界に入った途端、の表情は元へと戻った。 のいないときの、それに。 紅孩児達の後ろ姿も見える。 もう行く気は満々のようだ。 「紅孩児…」 「今日のところは退かせてもらう。とんだ邪魔が入ったしな」 八百鼡も意識を取り戻していた。 四人は集まって、視線を三蔵一行達へと向けている。 そこに、とも手を繋ぎながらも入っていった。 「…」 「お疲れ」 声をかけたのは誰だったか分からない。 しかし、そんなことを気にするわけはない。 悟空と紅孩児。 共にあの巨体を倒した彼らに労いの言葉。 面倒そうに言って手をひらひらと揺らしてみせる。 勿論、まだ手を繋いだまま。 「…ひとつ、詫びておこう」 紅孩児がまた口を開く。 詫び、の言葉に皆が顔をあげた。 「俺は自分の歩んでいる道に疑問を抱いていた。迷いをもって闘いに挑んだことは貴様らに対して無礼だったと思う」 はそこで、小さく笑んだ。 全く、真面目な男だ。 も横で、優しく笑んでいる。 「…だが、俺には善悪では計れないほど大事なものがある」 善悪では計れないものは沢山ある。 想いとて、同じ。 目的など、そんなものだ。 とは、お互い握り締めている手の力を強めた。 「だから次は、全てをかけて、貴様らを倒す!」 言葉に力が篭る。 二人の手も、また強さを増す。 くるりと振り返った紅孩児の顔に、二人は同じような笑みをお互いに向けた。 「自分<オレ>のために」 そう、自分のために。 お互い止めない。 悟空も同じように紅孩児に笑ってみせる。 「『倍返し』!まだ足りてないぜぇ?」 「ツケとけよ。すぐに払ってやる」 紅孩児は彼の金晴の瞳を見ながら、キッパリと言い切る。 とはまた顔を見合わせて、クスクスと笑った。 「ほんと、紅孩児はイイ男だな」 「フフ。独角児さんもイイ男でしょう?」 「あ、あの人独角児ってんだ。うんうん、イイ男って感じ」 彼らには聞こえないように好き勝手に言う。 心意気がいい。 クツクツと笑う二人に、紅孩児が気付いたようにポケットを漁った。 「」 「うん?」 見た瞬間投げられたもの。 白い何かと独特の形がに飛んでくる。 反射的に掴んだそれを見れば、包帯と消毒液。 しかも、新品だ。 「…何コレ」 「包帯と消毒液だ」 「いや、そら見れば分かるけど」 怪我をしているわけでもないのに、一体何事だ。 キョトンとするに、紅孩児は分からないのか、という表情を浮かべた。 「借りた包帯と消毒液だ。返す」 「は、はぁ?え、借りはさっきに会ったことで返してもらったんだけど…」 「甘いな。それが予想外だったんだ。それで借りが返せるとは思ってもいなかったんだよ、紅は」 「は?」 独角児も補助するが、ますます分かっていない。 頭を抱えるに、皆が呆れる。 はまた笑って、口を開いた。 「難しく考えなくていいんじゃない?また借りを作ったと思えばいいのよ」 「…あ、そうか」 それでようやく話がまとまる。 が納得する横で、誰もが溜め息を吐く。 しかし、そんな空気を吹き飛ばすように、李厘が紅孩児の頭に飛びついた。 「〜!今度遊ぼうね!!」 何故遊ぶことになるのか。 彼女の重みに小さく呻く紅孩児を見てから、はオレンジ色の瞳を見上げた。 「あー、死なない程度に」 「言ったじゃん、殺さないって!!」 「あー、じゃあ遊ぼうか」 ヘラリとは力なく笑うと、嬉しそうに笑んでくる。 可愛い子供だ。 ある意味、悟空よりも子供。 彼女はその笑顔のまま、三蔵へと視線を逸らした。 「さ・ん・ぞーッ!!今日は楽しかったよー。また来るからねー、一緒に遊ぼーね!」 「誰が遊ぶか、このクソガキッ二度と来んなッ」 どうやら三蔵に懐いた様子。 彼は青筋を浮かべているあたり、どうやら気に入らなかったようだが。 しかも右手は中指を立てている。 悟浄はそれを見てから、独角児に笑いかけた。 「次は土産ぐらい持ってこいよなぁ?」 「そっちこそ、茶ァぐらい出せや」 負けてはいない、独角児。 この言い合いはどこか、お互い似ている気がする。 笑い方とか、特に。 八戒と八百鼡はお互い、優しく微笑みあった。 「お怪我の方、お大事に」 「はい、皆さんもお元気で」 その言葉に別れを意識する。 ここでまた、とはお互いを見つめた。 紫苑の瞳に紺色の瞳が映る。 紺色の瞳に、紫苑の瞳が映る。 繋がれた手は、ゆっくりと離れていく。 熱を、残して。 笑みを、心に残して。 「…会えて嬉しかった。元気でな、」 「も」 言葉はもういらない。 はそのまま、紅孩児達にも視線を向けた。 「を、宜しく頼む」 深く、頭を下げて。 もで、三蔵一行へと視線を向けて頭を下げた。 「少しの間かもしれませんが、を宜しくお願いします」 そして、二人揃って顔をあげて。 イタズラを思いついた子供のように、笑んだ。 「「ついでに、コイツ(この子)泣かせたら、許さないから」」 ここしばらくの別れ。 お互い共鳴するかのように同じ言葉を吐いて。 三蔵一行、紅孩児達全員が目を見開く中、とは笑い合った。 そして、昔から変わらぬ別れの挨拶。 お互いに手をあげて、思い切り叩いた。 ハイタッチの音が、青空を包む。 「じゃな」 「またね」 過去から変わらない、言の葉。 紅孩児達はそれを別れと受けとり、と共に地を蹴り上げた。 消える、ように。 |