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部活が終わる時間 それは必ずやってくる 一日目はこれにて終了。 挨拶も終わり、一年によるコート整備も終わった。 着替えもすんで、後は帰るだけ。 「あ、!急いで帰るのか?」 「ん!俺、スーパーの特売行かなくちゃいけないから」 「そっか、じゃあまた明日ね!」 「うん!ばいばい、カチロー、カツオ、堀尾!」 「「「ばいばい!(じゃーな)」」」 仲良くなった一年トリオに別れを告げる。 走っていくには、特売に間に合うためという理由もある。 だが、他にも体力をつけるトレーニングにもつながる。 重いテニスバッグを背負って、は忙しなく校門を抜けた。 勿論、後ろの一年トリオが「おばさんくさくね?」とか言ってたのは聞こえてない。 ひたすら、前へと走るのみだ。 (…部長から跡部さんの言伝を聞いたけど…連絡はまた今度でいいよな、きっと) そんなことを考えながら、スーパーまでの道のりを走る。 今は生活に慣れることが大事だ。 ただでさえ、一人暮らしは難しい。 (どうにか今は東京に慣れなきゃ…大都会だもんな…) 川沿いの土手。 町中よりも開けた空間、風の通りも良い。 緑もあって、気持ちよいスポットだ。 ここを通り抜ければ、安いスーパーに辿りつける。 ただ行くだけならどこでもいいのだが、出来ることなら気分良く行きたい。 (今日の御飯はどうしよっかな…) 特売のチラシによると、今日はキャベツと卵が安い。 どちらも色々と使い様があるから助かる。 それにここは。 テニスコートがある。 プレイをちらりとでも見れるのなら嬉しいこと。 が。 「…あれ?」 今日は何かテニスコートの雰囲気が違う。 いつもは和気藹々と誰彼構わず、楽しそうにしているコート。 それが好きで、このコースを決めたというのに。 今はどこか、険悪な雰囲気だ。 自然と足は止まってしまう。 ここから見える人だかりはいつものメンバーだ。 だが。 「ホレホレ、年上の言うことは聞くもんだぜぇ?」 「帰った帰った!!」 コートの上にいるのは知らない人物だ。 いつも見ていた人達よりも幾分か年上の人物が二人。 しかも偉そうに、年下の人々を見下している感がある。 それに。 「…くそっ」 「大丈夫か…?!」 怪我人がいる。 転んだとか、そういうことならしょうがない。 だが、顔のありえないところにボールの形がくっきりと赤くついている。 「はやくどけよ。もっと喰らいたいのか?」 わざとテニスボールを脅すように打つ。 力強いそのサーブで、相手の顔面を目がけて。 当たらない。 だが、恐怖させるには十分。 テニスを、トラウマにさせるくらいに。 「オラオラ、さっさと弱いガキは失せな!」 「この場所は俺達がお前らより有意義に使ってやるからよ」 マナーの悪い年上がいたもんだ。 良くみればオジサンのような顔をしている。 社会に出てストレスが溜まっているのだろうが、年下にアたるのはいただけない。 ずっとここで練習していた小学生や中学生が怯えて彼らを見上げる。 今すぐにでも譲ってしまいそうな勢い。 「……公共のテニスコートは、年上や上手だとか下手だとか、そんなの関係ないじゃないですか?」 「ああ?」 自分は新参者。 ただ遠くから散歩コースとして眺めていた人間だ。 そんな自分が言える立場ではない、が。 「テニスが好きな人が、好きな人同士順々にやるってのがマナーでしょう!」 テニス好きとしては黙っていられない。 特に、自分の立場でモノ言わせる人達は、気に喰わない。 テニスの暴力で脅すなど、もっての他だ。 怒りを覚えてそう吐き出せば、コートの人物達は目を見開かせていた。 脅されていた小学生達もだ。 いきなり第三者が現れたからこそ、驚いたのだろう。 しかし、はそれに気付かないぐらい、怒りに満ちていた。 「…なんだぁお前?小学生か?」 「っ!高校生です!!青学の制服着てるでしょ!!」 そして、小学生に間違われてしまった。 制服着てるのだから、せめて中学生ぐらいには見えるはずだ。 だというのに、ワザと小学生と間違ったのか。 怒りが増していく。 噛みついてくるに、大人二人組はニヤリと嫌みたらしい笑みを作った。 「ハッ!チビな高校生がいたもんだな!生意気な口聞きやがって!お前も痛めつけてやろうか?」 「生意気なのはそっちでしょう!もう大人なんですからマナーを守ってください!!」 「ああ!?年下なら年下らしく、敬ったらどうなんだ!?」 「年下に怪我を負わせる年上なんて、敬えません!」 お互いギャンギャン言い合う。 その間に、はコートまで下りていく。 ギャラリーの視線を浴びながら、とりあえず、怪我をしている小学生のところまで移動した。 相手は怯えから身体を震わせたまま。 ラケットも持てないでいる。 「…大丈夫か?」 「あ、は、はい……だい、じょうぶ、で」 口も回ってない。 目もあちこちうろたえている。 触ってみても、震えが止まらない。 彼の友達も気遣っているものの、同じ位震えている。 テニスを好きで、テニスをプレイしているというのに、何故こんなに恐怖しているのか。 見てるだけで、悲しくなってくる。 「無理して喋らないでいいよ。とりあえず、そこの階段で休んでな?俺、消毒液は持ってるから…友達君、手当て出来る?」 「は、はい!ありがとうございます…」 どうにか、友達は動ける。 だったら手当ては彼に任せる。 自分は、マナーのない大人達をどうにか追い出さなくてはいけない。 彼らの安住のテニスコートを、取り戻すために。 ギラリと見上げ、睨みつける。 あっちも嫌な笑みを見せて睨んできている。 すると、怪我人がのワイシャツの裾を震えながら掴んだ。 「あ、あの、あの、人達本、当に強、いんです。だか、ら…」 「…ん、気をつける。ありがと」 こうなってまで、忠告してくれる。 恐らく逃げた方がいいと言おうとしてくれたんだろう。 だが、引くわけにはいかない。 友達に彼を移動させることを促せてから、は立ち上がった。 立ち上がっても、身長差は変わらない。 威圧感も、あっちの方が上。 だが、テニスが好きな気持ちは、絶対に負けていない。 「…なんだぁ?その目は」 「いっちょまえに銀髪に染めやがって…高校生がよぉ」 こんな、プレイヤーは認めない。 テニス好きが楽しくテニスを出来る場所が、ここなのだから。 「……さっさと帰ってくれませんか。ここは、マナーの悪い大人が来る場所じゃありません」 「んだとぉ!?」 「テニスが好きで、テニスを皆で楽しくプレイする場所です」 こんな彼らなんかに、負けない。 気持ちの上でも。 テニス、でも。 「てめぇも痛い目にあいたいようだなぁ…ああ!?」 一人がテニスボールを思いきり空へと上げる。 サーブするつもりだろうか。 を、目がけて。 咄嗟にバッグを開ける。 ボールに注意しながら、紫色のラケットを無意識に取り出す。 先程握っていた感覚を忘れるわけがない。 見ないでも取れる、黒のテープを貼ったグリップ。 「くらえっ!!」 音と共に確実に飛んでくる黄色いボール。 輝かしいはずのそれが、今は凶器にも見える。 顔面目がけてきたそれを、は思いきり右手を振り上げた。 パァン 紫のラケットが、ボールを受け止めて転がす。 どうにか開けることが出来、ラケットが取り出せたのだ。 「へっ危機一髪でどうにか助かったようだな」 やはり、テニスで人を傷つけてきたのか。 目の前で見れば、そして自分が受ける立場であれば、尚更怒りが増す。 紫苑の瞳が、ギラリと鈍く光る。 「…こんなことする人になんか、屈しません」 これは、テニスじゃない。 暴力だ。 それをする人になんか、負けはしない。 「高校生がナマ言いやがって…何ならテニスでボコボコにしてやろうか?ああ?」 「ただの暴力だったら、下手すりゃ警察呼ばれちまうからなぁ」 人のことを考えず、勝手なことを言う。 が、ある意味、にとっては願ったりだ。 暴力に出られたら確実に負ける。 それをテニスで晴らすというのなら、ある意味フェアだ。 「…それで気がすむなら、構いません。その代わり、俺が勝ったら二度とここに来ないでください!!」 「へっ!言いやがるぜ…二度とコートの上に立てないようにしてやる。俺達の力でな!!」 しかし、よくよく考えれば相手は二人。 あっちはダブルス。 一人のにとってはかなり不利だ。 守るべく範囲が広くなる上、攻める範囲が狭くなる。 だからといって、怯えている人達に相方を頼むことは出来ない。 むしろ、彼らが狙われる可能性だってある。 それならば、一人ででも戦った方がマシというものだ。 二人がさっさとコートに入っていく。 はそれを歩いて追いかけた。 しっかりと、筋肉を伸ばしながら。 「ダブルス対シングルスでもいいのかよ?」 あちらもそれを分かってて挑発してくる。 しかし、は屈しない。 冷たい視線で、相手二人を睨みつけるのみ。 手にあるラケットをギュッと握りしめた。 |