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苛立つのは テニスを馬鹿にしてるように思えたから 「へっいいんだぜぇ?そこの小学生達に頼んでも」 「お兄さん達が可愛がってやろうじゃないの」 「ちょっと、怯えさせるのやめてください、おじさん達!!」 恐がっているのを承知で脅すとは、酷いものだ。 ただでさえ、彼らの大きな声でビビらせているのだから。 が制して、此方に気を向けさせなければいけない。 だからこそ、暴言も吐いてみせた。 「んだとこのやろう!」 「ギタギタにしてやる!!」 これで上手くツれた。 そう、これで注意が此方に向く。 彼らの凄みは確かに恐いが、小学生達に向くよりはマシ。 思い通りに注意が引けて、から笑みが零れる。 「ハハッ言うじゃねーか!な、オッサン達」 「「んだと!?」」 と、思ったら、注意がから違う方向へ向いた。 しかも、第三者の声だ。 テニスコートの川沿いの道の上。 背の高い、学ランを来た人物が見える。 「背の小せぇ高校生一人にダブルスして苛めるたぁ、いけねーなぁ、いけねーよ」 見たことのある黒ツンツン頭。 同じ制服。 堀尾が教えてくれた、レギュラーメンバーの一人。 力が強く、ダンクスマッシュやジャックナイフを得意とする選手。 彼の、名前は確か 「桃城、先輩?」 「よぉ、入学初日から問題起こしてんのかぁ?」 桃城武先輩だ。 後輩の面倒見もよく、レギュラーの中で一番よくしてくれてると話していたっけ。 どこに寄ってたのかは知らないが、学ランのまま。 ニヤリと笑って楽しそうに話しかけてくる。 このシリアスな空気が見えていないのだろうか。 は苦笑を零すしかなかった。 「あー…いえ、起こすつもりはないんですけれど…」 「とか何とか言ってよぉ、お前さっき凄ぇ啖呵切ってたじゃねぇか」 「成り行きです、成り行き。空気読んでください」 これは本気でワザと空気を読み違えてる。 顔がそう語ってる。 呆れで怒りの感情が吹っ飛んでしまいそうになる。 溜息すら零れた。 「あんだぁ?お前も俺達に用か?」 すかさずと対峙していた人物が噛みついていく。 この空気をブチ壊し、尚且つオッサン呼ばわりしたからだろう。 桃城はその噛みつき具合に笑みを濃くした。 「いんやぁ?いいオッサン二人が小っさい高校生一人に息巻いてんの見てただけ」 「「てめっ」」 しかも完全に喧嘩を売ってる。 学ランを脱いでワイシャツのボタンを少し開けてるうちにコレだ。 相手の意識がから桃城に流れそうになっている。 「…桃城先輩、挑発すんのやめてくださいよ」 「いやぁ、面白そうだったもんでつい」 止めてもこの調子。 ということは、完全にこの試合に入ろうとしているのは明らかだ。 それを遮ろうとするのも無理だろう。 何故なら。 「いい度胸だオラァァ!俺達が大人のテニスを教えてやる!てめぇもコートに入れ!!」 大人達がやる気だからだ。 彼のふざけた空気に怒りを燃やすのは至極当然。 下りてこなければ、むしろ他の人達にアたり散らしそうになっている。 この空気を壊すには。 「へへっ上等だ」 彼の登場は不可欠。 笑顔で何とも無さ気に此方に下りてくる。 学ランを脱ぎ、ワイシャツも脱いで中の黄色のTシャツを晒す。 そして自分のバッグの中から、愛用のラケットを出した。 軽く筋肉を伸ばす。 身体を捻ったりして調整をしている。 勿論、と一緒のコートの上で。 「…桃城先輩、ワザとですね?」 「成っり行っき成っり行っき」 「にしては、声が弾んでますね」 「いいだろー?別に。こんな面白ぇことに首を出さずにいられるかぁ?いられねーよ」 やはりワザとか。 近くに行って声をかければ、こんな返事が返ってきた。 ウキウキしてることが丸見えだ。 紐を結びながら、鼻歌まで歌ってしまいそう。 また溜息を零してしまいそうだ。 途端に、彼はすっくとそこに立ちあがった。 よりも、大きな身長。 ラケットを背負って、彼はゆっくりと振り返って。 「それに、何があったかは知らねーけど。一応苛められてる後輩がいたら助けるのが先輩の役目だろ?」 次の真剣な言葉に、は目を見開いた。 彼の目は、真っ直ぐに自分を見つめている。 その奥には、小さな怒りも見える。 口は、笑っているというのに。 彼らを挑発しただけじゃない。 先輩の役目を、果たそうとしていたのか。 怒りという感情が、どこかへ吹っ飛んでいく。 目の前の大きな先輩の心が、すんなりとの中へと入っていく。 彼は頭をかきながら、サクサクとコートの上に立った。 「…桃城先輩」 「あー?」 「ありがとう、ございます」 ここは。 心からの感謝を述べる。 はペコリと頭を下げた、気持ちを、込めて。 「……」 桃城は何も言わない。 ただ、頭を下げる一年を見つめている。 そして。 パシッ 「あいたっ」 軽く手で叩いた。 顔を上げれば、苦笑を零している姿が目に入る。 何故苦笑なのだろうか。 分からずに首を傾げていると、桃城は軽く笑った。 「ったく、調子狂うぜ。越前と違って素直過ぎだしよ」 「…はぁ」 どうやら一年レギュラーの越前と比べていたらしい。 だが、どう言っていいものだか分からない。 越前の話も聞いたが、聞いただけで全く知らないのだから。 再び首を傾げていると、もう一度パシリと頭を手で軽く叩かれた。 「とにかくダブルスだ、ダブルス!」 「あ!はい!」 言われた途端、思い出す、 確かにそうだった。 今は、大人達を倒すのが先。 二人でコートの上に立って、相手方を見る。 睨みつけるわけではなく、ただ見て、様子を見るために。 「ってかよぉ、お前のシングルスプレイは今日見せてもらったけど、ダブルス出来んのかぁ?」 背中を見せたまま、目を合わせずに口を開く。 彼らに牽制したままだ。 確かに桃城はのシングルスのプレイしか見ていない。 勢いで喧嘩を買ったとはいえ、これは不安要素の一つ。 ダブルスは二人の息が合ってからこそ成り立つ。 また、それ以上にダブルスの経験がないと話にならない。 「出来ますよ、一応」 とりあえずは、経験があるという報告。 すると、前にいた先輩はニッと笑った顔で振り返った。 「おし、じゃあいけるな」 どういけるか、は分からない。 お互いのフォーメーションがどうとも言っていない。 性格も動きも、お互いよく分かっていないのに、だ。 それでも どこか、このダブルスは大丈夫な予感がする 「…はい」 「よし!じゃ、いっちょ行くか!!」 「よろしくお願いします、桃城先輩」 「おうよ」 フォーメーションなんかは関係ない。 ただ、普通のダブルスでいい。 高校が一緒、部活が一緒。 先輩と後輩だけの関係だというのに、どこか安心している。 信頼、している。 「ワンセットマッチ。俺達からのサーブ権でいくぜぇ?ガキ共」 相手は自信満々。 意気揚々と構えてテニスボールをバウンドさせている。 それを見て、桃城はコート前で、はコート後ろで構えた。 (大丈夫) 久しぶりのダブルス。 しかも相方は今日会ったばかりの先輩。 テニスボールが放たれる 夕方の陽に溶けるように |