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猫が無事に見つかったところで どういう成り行きか一緒に帰ることになった 「本当に良かったね〜カルピン君見つかって」 「ん、サンキュ」 隣を歩く越前の腕の中には先程の猫。 すっかり落ち着いたようで、可愛らしい顔で独特の鳴き声を出す。 はそれに、破顔する。 ちなみに、カルピンはオスらしい。 ので、は君付けで呼ぶことにした。 「ったく。勝手に外出るなって言ってんのに」 「猫は気まぐれって言うし。越前が心配だったんじゃないの?な、カルピン君」 「ほぁら〜」 カルピンを抱いている越前は年齢相応の若さだ。 捻くれているわけでもなく、どこか素直だ。 猫に対して怒っているようだが、空気はとてつもなく柔らかい。 もそれを知っているからこそ、笑顔で横からカルピンの頭を撫でていた。 猫もまんざらではなさそうに、鳴き声をあげる。 しばらく構っていると、目の端に見知った建物が見える。 次の角に差し掛かったところで、はピタリと止まった。 「俺のアパートこっちなんだ」 ピッと自分が住んでいるアパートを指差す。 ボロボロ、というわけもなく新築というわけでもないが、中々のもの。 越前がへぇ、と声を上げる中、は笑顔で猫の頭を撫でた。 「ん、じゃ、ここでお別れ。また明日な越前!」 このまま帰ってまた明日。 猫にもバイバイと手を振ってくるりと背を向ける。 二、三歩歩いたところで。 「ちょっと待って」 と、後ろから声がかかった。 越前の言葉に、はピタリと止まってクルリと振り返る。 首を傾げると、いつもの生意気な笑みが待っていた。 「どうせアンタ暇でしょ。ちょっと打ってかない」 「へ?」 と、いうわけで。 越前の家に寄ってカルピンを預けた後。 二人はその裏の寺にバッグを持ってやってきていた。 「うわ凄い!!お寺にテニスコート!!」 ただの寺だったら寺院と鐘ぐらいしかないもの。 だが、ここにはテニスコートが存在していた。 勿論、公式なものじゃないため緑色のコートではなく、土の上に線を引いてネットを張っただけのもの。 だが、距離や位置は本当のものと同じだ。 キラッキラッと輝きだすの顔。 越前はというと、そこらにすぐバッグを置いてラケットを取り出した。 「越前、凄いな〜!家にテニスコートあるとか!」 「知りあいのボーサンの」 「へぇ〜!良いお坊さんだね〜」 しかし、は感動中だ。 テニスコートをまじまじと見たり、ネットを調べたり。 地面の感触を確かめたり。 中々動きやすそうなコートだ。 「いいから。早く仕度してくんない?」 「あ、ごめん!ちょい待って!」 痺れを切らして、越前が声をかけてくる。 はそこでようやく我に帰った。 一度も家に帰ったため、着替えは済んでいる。 黒の短パンに、紫のラインの入ったシャツ。 自前のテニス用ジャージだ。 すぐに鞄からラケットを取り出しつつ、身体を伸ばす。 「はい、準備完了ー!越前、いいよ〜!」 「ん。こっちがサーブでいい?」 「勿論!」 お寺でのテニス。 どこか違和感があるが、二人にとってはどうでもいいこと。 目の前にコートがあって、相手がいて、ラケットとボールがあるのだから。 一方。 テニスの音につられて、寺にやってきた人物がいた。 「あ〜?リョーマと…誰だ、あの小っさい青少年は」 口にはタバコ。 手にはラケットとエロ本。 格好は家で寛ぐような甚平。 この寺を預かっている人物で、このコートを作った張本人。 越前リョーマの父親。 世界をテニスで震撼させた、サムライ。 越前南次郎だ。 彼の瞳には、コートで息子と打ち合う少年が見えていた。 背の小さいリョーマよりも小さく、高校生だというのに銀色に染めている髪。 全身全霊から出す、テニスが好きだと物語る笑み。 力がなくても、確かな技術と観察眼。 (へぇ〜、リョーマにあんなダチがねぇ…) 無愛想な性格であるため、友人というより仲間、とつるむ方が多い。 大体、テニスで出会った人々や先輩と会う方が多いのだ。 同年代は、ほとんどいない。 ここは大人が入っていくべきではないか。 そう考えて、鐘の方へと足を伸ばしたときだった。 「はいっ!」 良い音がコート内に響く。 スマッシュ特有の音。 しかし、見えたボールはラインの傍で直角に落ちる。 (…!今のは…) リョーマがその球を拾って、また始まる打ち合い。 しかし、南次郎はそのスマッシュに、ある人物を思い出す。 中学時代の、男子テニス部にいた。 テニスが嫌いで、だからこそそいつを完璧にしてみせると努力していた人物。 青学の黄金時代の、一人。 『ナン、お前はお前らしくやってくれゃいいや』 そう、アメリカに行く時に送り出してくれた。 年賀状も届くし、年賀状を出す。 友人。 「アンタの直角のスマッシュってさ。ポーチに出られたら通じなくない?」 「あ、分かる!?だからね〜開発中なんだ〜。ネットスレスレで直角に曲がるようにとか、スマッシュだけじゃなくてショットで出来ないかとか」 「フーン」 「他にもいろんな技を開発中!だから越前にいつか勝ってやるから!もっともっと強くなるかんな!」 「やってみれば」 「おうっ!」 テニスが大好きなのは越前も同じ。 顔には出さないが、その感情を瞳に宿す。 また、自分と互角とは言わないが、将来のライバルになるだろうに、闘志を燃やしている。 (……) その動きは確かに、南次郎の友人だった。 彼はまだ身長があって、むしろムッとしたような顔でプレイしていた。 顔もそんなに似ていない、が。 (あの野郎の倅か…) その子だと、自信がつくほど似ているプレイスタイル。 若干それよりも進化しているようにも見える。 それに 「にゃろうっ」 「ここで衛星ボレー!」 「…大石先輩みたいに月に届かないからってそれは無いと思うけど」 「アハハ、ダメかな〜」 「お返し。ドライブB!」 「ええええええ」 の笑顔につられて、越前の顔を心なしかウキウキしているように見える。 そういう特技があるのかもしれない。 また、ドライブBが決まっても、笑顔が崩れない。 今度は打ち返してみせると豪語するだけだ。 (…ほー) その二人はまるで。 過去の、二人のよう。 勿論、過去の相手は笑顔ではなく、悔しそうに顔を顰めていたが。 「6−2!あー、越前の勝ち!!」 「まだまだだね」 「アハハハ!楽しかった〜!今度は絶対勝つ!」 気がつけば試合終了だ。 大差で越前の勝ち。 しかし、二人は勝負よりもテニスを十分に楽しんだ、とばかりに笑っている。 「カルピン見つけてくれたお礼、これでいいよね」 「うん!すっごい楽しかった!」 このテニスはカルピンを見つけてくれたお礼のもの。 他にもやり方があるだろう、とも思えるが、本人が大満足しているのだからしょうがない。 また、越前らしい、とも言える。 「あ、また遊びに来ていい?カルピンにも会いたいし」 「勝手にすれば」 「うん!越前も俺の家遊びに来いよ!一人暮らしだから気軽にお泊りでもいいから!」 同じ一年同士だから、というのもあるがいつの間に仲良くなったのか。 どちらかというと、の空気の絆された、というのが近い。 汗をぬぐいながら、握手を交わす。 そうしてからお互い、ラケットを仕舞い始めた。 南次郎はそれを見てようやっとその場から動き出す。 「よーう、青少年」 「あ」 声をかけてみれば、リョーマが嫌な顔をする。 ニヤッと笑っているその人物に、は首を傾げながら笑顔で頭を下げた。 どこかで見たような人だなぁ、と思いながら。 「こんにちは!」 「おう、元気がいいねぇ」 「はい!テニスしてたんで、さらに元気が出ました!」 テニスをして疲れるならまだしも、元気が出たとは言ってくれる。 南次郎はの返答にケラケラと笑いだした。 「そうかぃ。ま、いつでもテニスしに来な」 「はいっ!」 バッグを持ったということは、帰る、ということ。 ヒラヒラと手を振れば、はまた頭を下げる。 そして寺の階段へと歩き出した。 「じゃーな、越前!また明日!!」 「…てか、アンタ帰れんの」 「あ」 そのまま爽やかに帰ろうと思ったら、越前にそう言われてはピタリと止まった。 方向音痴だということを、自分ですっかり忘れていた。 その反応で察したらしく、越前は溜息を吐きながら近くに寄る。 「この通りを真っ直ぐ。んで、三つめのブロックを右に曲がって真っ直ぐ行けば、アンタのアパートにつくだろ」 「…真っ直ぐで、三つめを右な!ごめん、ありがと」 見渡しのいい場所で、指をさしながら説明する。 はそれを聞いて、頭の中に叩き込んだ。 近くまでいけば、家までは帰れる。 改めて礼を言って、は階段を下り始めた。 「んじゃ、改めてまた明日!」 「変に迷わないでよね」 「おうっ!頑張る!!ばいばーい!!」 元気よく帰っていく。 その後ろ姿を、越前がしばらく見やってから寺へと戻っていく。 そこには、彼の父がラケットを持って待っていた。 「リョーマくぅん、良い友達持ったじゃねぇの〜。俺にもかまってぇ〜ん」 この笑顔はからかいモード突入だ。 声も気持ち悪さが増している。 リョーマはそれを無視して、仕舞ったばかりのラケットを手に取った。 先程まで使っていたため、熱がまだ篭っている。 「っていうか親父、いつからいたの」 「ん〜?ついさっき。にしても、あの青少年もやるでないの」 ゆっくりとコートに入る。 目の前にはここでいつも戦っている父親。 彼はどこか嬉しそうに、の去って行った場所を見つめていた。 「…さーて、やろうかね青少年!」 「…?(なんかいつも以上に親父機嫌いいな)」 何故かリョーマの前に立つ父は上機嫌。 いつもテンションが高いが、今はそれより上をいっている。 とにかくリョーマはまぁいいか、と頷き、二人テニスを始める。 そして、南次郎との父親が同期の友人だということは、後々知ることになるのであった。 |