毎日の生活に慣れてきたら



突然の朗報














「合宿、ですか?」


「そう、合宿だ」



の言葉に、目の前にいる副部長が笑顔で応えた。

今日も青空の下でテニスが行われているコート。
隣のそれでは、二年生が打ち合いの練習をしていて、音が響いている。
そんな中、レギュラーと準レギュラー(といってもだけだが)は、部室に集まっていた。
いわゆる、ミーティングのために。



「三連休を利用して、合宿を行う」



集まった中で、部長と副部長が前へ出てそんなことを言い始めた。
寝耳に水の話に、他のメンバーはそれぞれ反応を示す。
その中で、が皆を代表して言葉を出すところが冒頭である。



「もうすぐ地区予選があるだろ?今回も強豪揃いだ。それに向けて、強化合宿を行おうって話になった」


「うおぉぉ、気合入ってるっスね」



桃城が感嘆の声を上げる。
確かに、地区予選を前に、というのは最初から気合が入っているように思える。
勿論、青学は最初から全力で行くということが特徴。
気合は元から、なのだが。

大石は彼の言葉に、ニッコリと笑った。



「タカさんはいないけど、またこのメンバーが集まったんだ。気合が入るってものさ」


「ニャハハ、なるほど〜」



三年前とほぼ同じメンバー。
を外し、タカさん、もとい河村隆と呼ばれる人物が集まれば完璧なメンバー。
彼らは全国制覇を成した。

だからこそ、期待があり、気合が入るのだろう。
また、全国を成し遂げられるのではないか、と。

いや、成し遂げてみせると。


(なるほど〜…)


菊丸と同じ感想を心の中で言いながら、手帳にペンを走らせる。
予定表はほとんど、テニスで埋まっていた。



「………ってアレ?この合宿は部員全員参加ではないんですか?」



ハタ、と気付いては顔を上げた。
呼び出されたのはレギュラーとのみ。
ということは、他の部員達はどうなるのだろう。



「今回は地区予選に向けての合宿だ。他の部員は学校で練習を行ってもらう」


「ああ、なるほどー」



手塚の言葉には納得。
うんうんと頷いて、笑顔で周りを見る。



「じゃ、皆さん頑張ってきてくださいねっ俺学校で頑張りますから!」



きっと自分は他の部員と一緒に練習するのだろう。
そう結論づけて、は日程だけを手帳に書いてその場を去ろうとする。
サクサクと歩き出したその肩を、大石が止めた。



「コラコラ、どこに行くんだ


「はえ?いや、後は合宿のミーティングじゃないですか。行くレギュラーだけ残ってれば…」


も行くから、呼んだんだぞ?」


「は」



大石の言葉に、の思考回路と身体は一時停止。
予想と反していたために、状況と言葉に追いついていない。
その間に、この反応に慣れていた桃城が固まっているを座らせた。

座らされたの前で、手塚がいつもの顔のままで頷く。
そこで、ようやく頭がグルグルと回転し始めた。



「で、え、ふぇ、ふぇぇぇぇええぇぇ!?ななな何でですか!?俺、地区予選に出ないじゃないですか!絶対出ないじゃないですか!」


「絶対ってお前…」



その後は勿論、がいつもと同じようにテンパって悲鳴をあげる。
さすがの言葉に桃城がツッコむが、聞こえているわけがない。
竜崎先生が溜息を吐きながら、口を開く。



「落ちつきな。この間も説明したじゃろうが。このメンバーだと遅刻が多いから、準レギュラーを配置したんだ。アンタが行かなくてどうするんだい」


「その理由なんですか!?」



準レギュラーの制度を配置したときに聞いた理由だ。
聞いたことのあるそれに、声をあげる。
手塚は黙ったままだ。
異論はないらしい。



「しょうがないだろう?誰かさんは寝坊したときの理由が『妊婦さん助けるから遅れる』じゃったし」


「…………」


「どこぞの仲悪いダブルスは、何やってたか知らんがギリギリに来るし」


「「…………」」


「まぁ、持ち前の優しさで本当に妊婦さんを助けて手を怪我して出られなかったという例もある」


「アハハ…そのときは申し訳ありませんでした」



最初の言葉で、越前がそっぽを向く。
次の言葉で海堂と桃城が俯く。
そして最後の言葉で、大石が苦笑を零して頭を下げた。

成程、例の遅刻者や欠席者は彼らだったか。
頭の端で理解しつつ、はそのまま先生を見上げた。



「で、ですけど、もう誰も遅刻なんてしませんよ!絶対!」


「例えそうであっても、事故が起こるとも限らん。そのための準レギュラーだろう」


「は、はぁ…そうですけど…」



そう言われたら、頷くしかない。
テニスが出来るのは嬉しいが、三日間もお泊りとなると色々必要なものが出てくる。
それに、なんだか他の部員達にも申し訳ない。
本来ならば、一番無関係な人間なのだから。

だが、それを乗り越えてやると決めた。
ならば、どう言われようと答えは一つだ。



「…分かりました。合宿頑張ります!!」


「ウム、その意気だよ」



気合を入れて叫べば、先生は笑顔で頷いた。
ホッと一息つく大石も見える。
手塚はそのまま、合宿の予定の書いた紙を配った。

日程、場所、用意するもの、その他。
それが全部紙に凝縮されている。



「…手塚、この別荘は聞いたことないんだけど…?」



不二がその紙を見て声をあげる。
他の人達もそれに気付いた。

大体合宿といえば、今までお世話になっていたところに行くものだが、今回は知らない名前らしい。



「ああ、俺達のOBの方が別荘を貸してくれた。コート付きで、温泉も湧いてるそうだ」


「マジでっ!?やったにゃ〜!!」


「…今回は先生の別荘じゃないんスね」


「先生の知り合いが持ってる軽井沢の別荘はまだ寒いからな。あそこは夏に使わせてもらう予定だ」



温泉、の言葉にも反応する。
菊丸が代わりに思いきり喜んだ。

ちなみにいつも合宿を行っている場所が、先生の知り合いの別荘らしい。
確かに春とはいえ、軽井沢ではまだ寒い時期なのだろう。
避暑地として有名なのだから、尚更だ。



「詳細はその紙に書いてある。それと、明日には予定を書いたしおりを配るから、それに目を通しておいてくれ」


「「「「「はい!」」」」」


「分からないことがあったら、先生か俺に聞いてくれ。以上だ。では練習に入る」


「「「「「はい!」」」」」



全員が返事をして、各々部室の外へと出る。
練習メニューを大石が言いながら、全員を促しているとも言える。
はこっそりと、部室に残る手塚と先生の元へと走り寄った。



「ぶ、部長。俺も温泉入っていいんですか?」



男として入った以上、男女関係なく参加しなくてはいけない合宿。
だが、一緒に風呂に入るとなった場合、さすがに問題だ。
個室に風呂があればいいのだが、何せホテルでなくて別荘の話。
風呂は一つしかなさそうだ。

だが、風呂に入らずに三日間はさすがにキツイ。
不安に思いながら尋ねると、手塚は当たり前だと言うが如く頷いた。



「勿論だ」


「ほ、本当ですか!」


「安心しな。アンタの風呂の時間は怪我を理由に皆と分けてある」



先生も隣から助言を出す。
そこは考えてくれていたらしい。
が安堵の意味を零すと、先生は苦笑を逆に零した。



「ただ、今回の別荘は三人一室が当たっていてね…。まだ部屋の割り当てを決めていないが…アンタを一人部屋には出来ん。そこんところは勘弁しておくれよ」


「はい、それは勿論!良かったです…さすがに風呂入らないで三日間はキツイんで」



不安要素はお風呂だけ。
寝床はどこだって構わない。
後はどうだってなるだろう(お泊り用の石鹸を買うなど金銭問題があるが)。

安心したところで、手帳にメモをするところだけ書いていく。
そしてそれを閉じ、鞄の中に詰め込んだ。



「じゃ、お先に練習に行ってます!」


「ああ」



サクサクとが部屋を出ていく。
物静かに閉められたドアが静寂を作っていく。
と、同時に、先生は苦笑を零した。



「…扱いやすいったらないねぇ」


「ある意味不安です。下手をすれば男子と二人だけの部屋に成りかねないというのに」


「ハハッ確かにね」



素直、というよりも意識が足りないような気もする。
本来ならば一緒に寝ることすら意見を言ってもいいぐらいだ。
例え、自分で男として過ごすことを決意したとて、こう簡単に納得出来るものだろうか。
ある意味、女としての意識が欠如してて不安だ。

手塚が小さく溜息を吐く。
彼も大分苦労性だ。



「ま、なんとかなるだろ。さ、今日もはりきっていくよ、手塚」


「…はい」



今は目の前の練習に力を入れる。
二人は頷き合いながら、青空の下へと出て行った。















>>第2話