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合宿には それなりに準備が必要だ 「すごい…修学旅行のしおりみたいだ」 次の日の放課後練習後にメンバーに手渡されたのは、冊子。 部長の達筆な筆文字で「青春学園高等部男子テニス部合宿のしおり」と書かれている。 …真面目すぎるそれに若干引き気味の人がちらほら見受けられる。 はただ普通に感心し、パラパラと捲っていく。 中には三日間だけだというのに、事細かくタイムテーブルが決められている。 また、メンバーそれぞれの達するべき目標まで書かれていた。 「フム…俺には咄嗟の対応、桃城にはより正確なコントロール……さすが手塚だ。俺達の事を良く見ているな」 「乾のデータとほぼ同じなの?」 「ああ、完璧なぐらいにな」 乾と不二がその達するべく目標を見て感想を零す。 どうやら手塚が勝手に決めたそれは、ほぼ完璧らしい。 皆から意見がないあたり、さすが部長というべきか。 勿論、の欄には「筋力体力の増強」と書いてあった。 「ん?お、部屋は越前とと一緒かー」 「…部長、桃先輩の鼾がウルサイんでチェンジしてもらってイイっスか」 「オイコラ越前〜!、お前何か言ってやれ!」 「え、ええとー…?あ、大丈夫だよ越前。一日我慢すれば部屋の割り当て変わるっぽい」 「…じゃあ一日我慢すればいっか」 「お前らぁぁぁぁ!!」 「「アタタタタタタタッ」」 そして、注目の部屋の割り当て。 三人一部屋というのは決まっていたのだが、どうやら日ごとにメンバーが変わるという仕組みになっているらしい。 フォローしたつもりが、桃城の怒りを買ったらしい。 二人揃って頭をグリグリされてしまった。 の場合、一日目は越前と桃城との部屋。 二日目は乾と海堂。 三日目は手塚と不二となっている。 「…でも何で一日一日部屋のメンバー変えたんスか」 「いつも同じメンバーじゃつまらないっていう英二の我儘が通ったっていうのと…ダブルスのメンバーをまだ画策してるっていうのが大きいんだ」 「はぁ…」 海堂の言葉に、大石が返す。 どうやらまだ、ダブルス2のメンバーを画策しているらしい。 四天宝寺というところでは、ダブルスの組を日常でも一緒に組ませていた、だとかの話がある。 恐らくそれを参考にしたのだろう。 先生が頷けば何も言えまい。 どこぞの部員の我儘という部分を無視し、彼は何とも言えずにしおりを読み続けた。 「ちなみに、今回の合宿には一年トリオとワシの孫の桜乃と、その友達の小坂田が手伝ってくれるよ」 「おお〜。そのメンバーも三年前と一緒だ」 「それと、河村も手伝ってくれることになった」 「え、タカさんも!?」 先生の言葉よりも、手塚の言葉に全員が顔を上げた。 勿論、知っていた大石は満面の笑みだ。 「親父さんから許可もらったらしくてね。御飯とか手伝ってくれるってさ」 「おおおお、それは気合が入るってモンスよ!」 「テニスも手伝ってくれるのか?」 「ああ、腕が鈍ってるだろうけど、球出し位はって」 「それは楽しみだね」 全員が笑顔で盛り上がる。 は知らない人物だが、ビデオで何度も見たことがあった。 素晴らしいパワーテニスの持ち主。 そして溢れるほどの情熱を力としてぶつけていたように思える。 四天宝寺との戦いのとき、ボロボロになりながらも最後まで、テニスをやめなかった。 あの戦いはまだ、ビデオ越しだというのに脳に残っている。 そして、皆の表情からして、私生活でも良い人なのだろう。 もつられて笑顔になる。 「はタカさんに会うのは初めてだろうけど、俺達の仲間だから緊張しなくていいからな」 「ハイ、楽しみです!」 大石の心遣いに感謝しながら、笑顔で応える。 初めて会う人に緊張するかもしれないが、楽しみなことには変わりない。 どんな人物なのだろか。 ワイワイ騒ぎながら、しおりの中を皆で確認していく。 それぞれ質問があれば部長や先生が答える。 「あー、やっぱは風呂一緒に入れないのか」 「怪我があるからな」 「残念だけど、しょうがないな」 そんな会話もチラホラ聞こえてくる。 しかし、が注目するのは最後のページ。 持っていく物、というチェックシート。 必需品は、ある意味、の財布との対決になるのだから。 「手塚〜!おやつも持っていっていいの〜?」 「ああ。ただ、ゴミは自分達で処理するようにな」 「やった〜!沢山持ってこ〜」 菊丸がおやつで喜んで飛び跳ねる。 それどころじゃない。 はすぐさまに手帳にガリガリガリと凄い勢いで書いていく。 「…何やってんの」 あまりの勢いに越前が隣から覗きこんでくる。 しかし、は集中していて返事がない。 手帳のページに、必需品をメモッているようにしか見えない。 が、の表情は真剣だ。 「お泊り用のシャンプー、リンス、ボディーシャンプー、洗顔……安くてどんだけになるかな…」 「………」 「あとパジャマ…タオルも足りないな……あとは…何かあったときの帰りの交通費とか…言わずもがな遠征費が……」 「……なんか、大変だなお前」 呆れる越前の隣で桃城が溜息を吐く。 しかし、にとっては大切なことだ。 特に、経済的なものは。 カカカカっと見積もりを計算していく。 合計を出したところで、の顔が真っ青になった。 「…迷子になったら確実に赤字だ…っ!」 「…じゃあ確実に赤字じゃないの」 「ギャアアアア越前!そんなこと言わないで!目の前が真っ暗になる!」 迷子にならない日はない。 というの特徴を知っているからこそ、越前から辛辣な言葉が飛んでくる。 ちなみに計算からすると、必需品はギリギリ大丈夫だ。 遠征費も払える。 だが、何かあったときのお金が出ていった場合、確実に家計簿が赤く染まる。 というか、両親に請求しなくてはいけなくなる。 それだけは避けたい。 「迷子に!迷子にならなきゃいいんだきっと!皆と一時も離れずにべったりくっついていれば…!」 「気持ち悪いじゃん、それ」 「でもそうでないと…俺…合宿終わった後…お弁当含め毎食ソーメン生活なんだよ越前…」 「そりゃ大変だ…!」 ズバリ、迷子になった途端、生きるか死ぬかの生活が始まる。 というよりも、栄養が思いきり偏る。 さすがにベッタリくっついて合宿を行うというのも気持ち悪いのだが、そうでもしないと死んでしまう。 の毎食ソーメン発言に、さすがの越前も口をつぐんだ。 逆に、心配性の大石がと同じように顔を青ざめさせている。 「さすがにバラバラになることはないとは思うがねェ…」 「…でもバァさん、の性格を考えると…一人何かに気ィ取られて突っ走って、気がついたらはぐれてるってオチが簡単に考えられるぜ?」 「「「「「…………」」」」」 桃城の言葉に、全員が静かになった。 というのも、彼の言うとおり簡単にその有様が想像出来るから。 フォローしたつもりの先生すら顔を強張らせている。 方向音痴。 一つに集中したら中々戻ってこれない。 もしくはそれだけに集中してしまうために周りを見ない。 つまり、一人で突っ走ってしまったら迷子確実。 「…には必ず誰かついているように」 重苦しい沈黙の中、手塚が真面目にそう言葉に出す。 そして全員が力強く頷いた(不二は笑顔だったが)。 もうそれだけの係がタイムテーブルにも組み込まれて決められそうな勢いだ。 も涙目ながら全員に頭を下げた。 「ご迷惑をおかけしますがお願いします…っ俺の御飯のためにも!!」 「ああ、任せろ!」 「おチビチビがはぐれたら、練習時間もなくなっちゃうしね〜」 「縄でもかけておいたら、はぐれないんじゃない?」 「フム。そうすると迷子になる確率は1%に抑えられるな」 「…さすがにそれはやりすぎだろ」 大きく頷いたのは大石と菊丸。 その後、サディスティックな言葉を発したのは不二と乾。 海堂は彼らに対するツッコミを、小さく呟くことで終えた。 その他も溜息や呆れ声は返事として返ってくる。 了承と一緒に。 「他に質問や意見はないな?では、今日はこれで終わりだ。全員、しっかり見直しておくように。以上!」 「「「「お疲れっしたーっ!!!」」」」 手塚の一声でミーティングは終了。 全員がまたドアの方向へと歩き出す。 もその後を追っていく。 「、買うモンあんなら明日にでもデパート行くか?お前一人じゃ迷うだろ」 「是非お伴させてください桃城先輩!」 「おっし、いい返事だ。越前〜お前も行くか?」 「桃先輩が何か奢ってくれんなら行くっス」 「お前はのような純粋な心はねェのか!ちゃっかりしやがって!」 「あはははは」 そんな会話をしながら。 始まる合宿に想いを馳せた。 |