ガッシュが、清麿が頑張った。

だから、次は俺が頑張る番。



「…



拳を受け止められた金山は、受け止めた本人を呼ぶ。
呼ばれたは拳を握ったまま、紅の瞳をガッシュから金山へと移す。
そして、ヤレヤレといった顔で笑ってみせる。
見たことのない顔に、金山の顔は歪んだ。



「そろそろいい加減にしとけ、金山」


ちゃん…」



後ろからスズメが声を出す。
どうやら今更気付いたらしい。
その声を聞いてまた振り返って笑ってみせた。



「スズメ、よく頑張ったな」


「…ちゃ……」


「喧嘩は俺の仕事。スズメは怪我人の手当てが仕事だ、オッケー?」



さっさとここから逃がさないと危ない。
そういう意味で、すぐにすずめに指示した。



「でも……」


「ガッシュと…高嶺が怪我してるだろうが。さっさと保健室に連れていかないと、保健室に鍵かけられて手当てできなくなるぞ」



ニヤリと、笑ってみせるとは逆にスズメの顔は青くなる。
さすがにそれはまずいと思ったのだろう。
しかし、すぐに動こうとするが中々腰があがらない。



「…ちゃん」


「あ?」


「……腰抜けて動けないよ……」



子犬のように目をウルウルとさせて悲しい顔をするスズメ。
あまりにもハラハラしたせいだ。
何せ、自分のせいでガッシュと清麿が殴られたり蹴られた瞬間をずっと見ていたのだから。

その顔と言葉に、は半眼でじとりとスズメを見た。



「…スズメ……」


「うぅ……ゴメン……」


「…ハァ、分かった。動けるようになったら任せたぞ」



溜息を一つ吐いて、しょうがない、というふうに微笑む。
すると、スズメは「うん!」と涙を流しながら嬉しそうに笑った。

瞬間。



「馴れあいっこしてんじゃねぇよ!!!」



「!」



金山の右膝がの腹部へと動く。
すぐに察したは握っていた彼の拳を離し、後方へと一歩跳んで避けた。
膝は、空気を切る。



「…っと。おいおい、落ち着けって金山。もう金なんてどうでもいいんだろうが?」


「やかましいっ!ただのカツアゲだったはずなのにそこのガキに邪魔されるわ高嶺は出てくるわ…腹が立ってしょうがねぇんだよ!!!」



確かに、先ほどよりも怒りはバージョンアップしているようだ。
見ようによっては彼からの怒りの禍々しいオーラが見える。
そんな金山を、はケラケラと笑った。



「バッカだなぁ。どうでもいいことで腹立ててんじゃねぇよ。それにカツアゲもいい加減やめろって」


「そのうえ、ムカつく高嶺をお前が庇う……それがまたイライラさせてんだよっ!!!」


「結局俺のせいかい」


「…そうだっ!!!」



たぶん、と金山は大きく付け足して言い放った。
それにまたは「たぶんかよ」とケラケラと笑う。
異様な光景に、ガッシュは目をパチクリさせた。

高嶺清麿の表情は、伺えない。



「じゃあ、そのイライラを喧嘩で発散させとくか?」


「…そうさせてもらうぜ!!!」



金山のその言葉。
それがスタートの合図だった。

瞬間、金山の右拳をは軽々と避け、すぐに右足を蹴り上げる。
それを左足で押さえた途端に、跳ぶ男の左拳。
小さな右手でそれを捕まえて空いている左手で腹部を狙う。



「……凄い……のだ」



目の前で行われている壮絶な戦いを見て出た言葉。
ガッシュは目を見張っていた。
金山は大きな身体を力強く動かす。
清麿よりも小さいは小さい身体とスピードを活かして金山に攻撃している。
一人が傷つけば、次の瞬間もう一人も傷つく。
お互いに一歩も譲らない、喧嘩。


先ほどの自分と、清麿とは全く違う次元。
そのように感じられるほどに。






(…………アイツ…………)


清麿は、考えていた。
自分の見知った銀髪を見てからずっと、ずっと。
憎い、自分の幼馴染で、親友であったモノを。


黒くてドロドロとした汚い、感情が頭の中に渦巻く。


(…アイツが俺を助けに来るわけがない)



『天才はいいよな!頭悪い俺を見下して、優越感に浸ってトモダチぶって俺に勉強教えて…………っ!!!!!』



リフレインする言葉。
大好きだった、アルトの声。
巡るアイツの顔。


痛む、胸の奥底。



『お前のことなんか、大嫌いだっ!!!!!!!!』




グラグラと歪む、視界。
ザワザワと騒ぎ出す、辺りの人々。
真っ暗な、思考。


その日から、止まった時間。







目の前ではまだ攻防戦が続けられている。
顔に、体中に、傷が増える。
ところどころに、汗と血が見える。
痛みに耐える、顔が見える。


大きな身体の金山に立ち向かう彼女に、応援する水野スズメ。
ガッシュは自分の怪我をも忘れて、腕を振り回したりと必死で応援している。


(………バカじゃねぇのか)


清麿はふと、がいたであろう場所を見上げた。
自分の上にある、屋上へ通じる階段の屋根。


(階段から来たなら、ドアの音がするはずだ。そしてあの言葉……)



『スズメ、よく頑張ったな』



その言葉の意味は、水野スズメが何かを頑張ったことを見ていたことを意味する。
そしてカツアゲのことも知っていた。
ということは、だ。


(アイツはずっとこの屋根の上で見ていたんだ……水野がカツアゲされ、ガッシュや俺が金山に殴られ蹴られ……怪我しても何もせずに、のうのうと見学してやがったんだ)


フツフツと怒りが溢れ出す。
自分も、ガッシュがやられている間、勇気がなくて飛び込めなかった。
それなら、まだいい。
…だが、アイツにそれはありえない。


金山と喧嘩するのは、これが最初ではない。
アイツは、喧嘩を売られたら誰のでも買う。
まさに、不良。


結果はやはり、のうのうと見学していたことしか考えられない。


怒りが、そして憎しみが元々あったどす黒い感情に歯車をかけて頭の中を支配する。
握り締めた拳の爪は手の平に喰い込む。
ギリギリと歯軋りが鳴る。
瞳は、二人の「馴れ合い」を見ることを拒否した。











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