(……マズイな)


金山の蹴りを上手くかわしながら、はチッと舌打ちした。
普段ならすぐに金山を倒しているところだが、そうもいってられない。
むしろ、不利な状態だった。


いつもより身体が重く、動かない。
しかも金山はどうやら絶好調のようだ。
力強い拳や蹴りが身体に入る度、口内に鉄の味が広がる。


(……昨夜のせいか……)



昨夜。


脳裏に浮かぶは暗闇。

見知ったあの男の罵声。

縁の深いアイツがやってくる。

身体も心も悲鳴をあげる。



そして………。






「っ!!!………ゴホッ!!」



脳裏に浮かんだ昨夜の光景に身体が動かなくなっていたらしい。
その瞬間に金山の膝蹴りが腹部に綺麗に入る。
強烈な痛みに意識を飛ばしそうになりながらも一歩後退すると、口から血が吐き出された。
そのまま腹部を片手で押さえて跪く。

勿論、口内が切れたとか、そんな柔な怪我の血ではない。



「!!」


ちゃん、血がっ!!!」



痛々しげに叫ぶガッシュとスズメの声に、清麿もゆっくりと顔をあげた。
黒い瞳に、項垂れる銀の髪が映る。
辺りに真新しい彼女のモノであろう血があちこちに多く散らばっている。


(…………っ!!)


さすがに、ヤバイ。
金山をちらりと見れば、まだやる気満々な顔だ。
清麿は嫌な汗をかきながら、何かないかと素早く脳を動かし始めた。



「ヘッ!なんだなんだぁ?もう終わりかよ」


「…………」



プッと口内に残っていた血を吹き出して、それと同じ瞳でギラリと金山を睨みつける。
逆に、彼はニヤニヤと下劣な笑いを顔に浮かべるだけだ。
勿論、息は途切れ途切れだが。



「こんなん初めてだな?お前が俺の前で跪くなんてよ」


「やかましい。勝負はこれからだ」


「その台詞、いつもは俺のモノなんだけどな?」



その通りだ。
はチッと舌打ちしてちらりと後ろを見やった。
未だに顔を青くしているスズメと、冷や汗をかいて見守っているガッシュと、俯いている清麿が見える。



「スズメ!まだ動けねぇのか!!」



声をかけられると思ってなかったのか。
スズメはの大声にビクリと肩を動かして、涙を流し始めた。



「う、動けるけど!ちゃんを置いていけないよぉ!!」


「動けるんならさっさとそこの二人担いで帰れ!!邪魔だっ!!!」



邪魔、とワザときつい言葉を送る。
そうでもしないと、そのまま見ていそうだからだ。
自分が負けたとき、金山の怒りはそのまま彼らにいく可能性が高い。
大怪我するのは、彼らだ。



「おいおい、その言葉はないんじゃねぇのか〜?」



ニヤニヤ笑ったまま、金山は跪くに蹴りを一発入れた。
身体が転がる。
そこにまた、蹴りが何度も入っていく。
遠くから、叫び声が聞こえた。



「おい水野、こいつ助けたかったら金渡すんだな」


「っ!!お前まだ金とか言ってんのかよ!」


「うるせぇよ。負けたヤツは黙ってろ、



強い蹴りが入る。
の呻き声が低く、辺りに響く。
そして、金山は己の足を彼女の背中に乗せた。



「なぁ?水野。これ以上コイツの姿を見たくねぇだろ?あ?」



下劣な笑み。
取引。

スズメはすぐに集金したばかりの袋を取り出した。



「分かったから!!もうこれ以上はやめて!!!」


「…クッ……スズメ……っ………渡すなっつってるだろうが……っ!」


ちゃんは黙っててっ!!!!」



傷つきながらも止めようとが声を出す。
しかし、それはスズメの大きな叫びによって遮られた。
今までにない彼女の大声に、屋上が一瞬静まり返った。



「もう嫌なんだもの!!誰かが傷つくのを見たくないんだもの!!!!なら…お金をあげたほうがっ!!!」



悲痛な叫び。
さすがにガッシュも止めることはできないようだ。
涙を流し叫ぶ彼女を見て、はグッと拳を握った。

瞬間。



「……らあぁっ!!!!」



振り上げた拳は金山の弁慶の泣き所に当たった。
油断していたときの隙。
金山はいきなりの攻撃に呻き声をあげてすぐにから遠のいた。
その瞬間、は身体を起こさせる。


体中が、悲鳴をあげている。


だけど、そんなこと気にしてなんかいられない。



「いいからさっさと行かねぇか!!金を渡したらコイツのためにならねぇっ!!!」


「でもちゃん!!」


「それに金渡したからって、お前らを逃がしてくれるという保障はあんのかバカっ!!!!」



その言葉は真実だ。
スズメも気付いて目を見開かせる。
金山はというと、殴られた弁慶の泣き所をさすりながら、ニヤリと笑ってみせた。

その笑みは、肯定を意味する。



「…分かったらさっさと行け。お前らは今、お荷物にしかならねぇんだから」




傷は痛む。


血は流れたままだし、内側から身体の悲鳴は聞こえている。



だけど




最後、だから。







「時間は…稼げるだろうし」



誰にも聞こえないように、ボソリと呟く。
そして、笑顔で金山に向き合った。



嗚呼




こんなにも心が弾むのは



後ろに守るものが…君がいるからなのか。





不適に笑って見せたは、クイクイと指を動かして金山を挑発した。



「来いよ金山。こんなに楽しい喧嘩は…久しぶりだ」



金山はこの日。
初めての本当の笑顔を見たような気がした。



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