は再び、金山の懐に入っていった。
しかし、怪我が多いのはだ。
必然的に不利な体制、それは変わらない。



「……チッ…大人しくしてればこれ以上怪我させねぇのに…」



金山の呟きが小さく、の耳に届く。
優しい金山の言葉に、自然と微笑む自分がいる。



「ごめんな。でも…これ以上あいつらを怪我させるわけにはいかねぇ」


「高嶺なんて、どうでもいいじゃねぇか」


「高嶺、だから怪我させたくねぇんだよ。それにお前、あの子供にも手を出したろ。それは許せねぇから…少しは反省しろ」



容赦なく攻撃を繰り出す。
しかし、それとは逆の優しい言の葉。
あまりにらしく、しかし、いつも以上の精神。
金山は一瞬微笑み、次の瞬間大声で笑ってみせた。



「なら、付き合ってやる!お前をメタメタにしてなぁっ!!!!!!」



大きな拳が腹に当たる。
はそれを受け止めながらも、自分の拳を同じように腹に当てた。
金山の優しさが、いつもより弱い拳に表れている。
それを感じながら、もニヤリと笑ってみせた。



「サンキュ」



小さくが呟いてから、いつもの喧嘩がまた始まった。
同情は無用。
同情こそ、相手に対する礼儀に反するもの。
喧嘩の暗黙のルール。
金山もも、お互いボロボロになりながらも自分の力を出す。

そうなると必然的にが負ける方向へと向かっていく。
もう、勝負の勝ち負けなどどうでもいい。
の目的は一つ。


金山の力を極力、なくすことだ。


(そうすれば…もう恐喝する力も残ってねぇだろ…)


スズメたちが逃げきれるのならそれでいい。
昨日の『アレ』と今日の喧嘩でもう身体はズタボロだ。
だが、その目的がある限り。

金山の力が残っている限り、倒れない。

それだけを胸に。




ガッシュとスズメはの考えなど露知らず。
ただただ目の前の光景を震えて見やることしか出来なかった。
どう考えても、動かないであろうの身体。
血は流れ、汗はそれに滲み、息も上がって、あちこちに痣ができているだろうに。
体力的にも、精神的にも、もう限界だろうに。

それでも小さい身体は金山へと向かっていく。
瞳は諦めていなく、ギラギラと輝いたままで。



何度、あの中へ入って止めようとしただろう。
しかしその度に、はそれを感知して、微笑む。



「大丈夫だから、さっさと行けってのに」



そう微笑まれたら、入れない。
傷ついていくを見ることしか、出来ないでいる。
ここから逃げる、それすらも出来ずに。


(…このままじゃあ、……アイツが死ぬかもしれない)


の後ろ姿を見ながら、清麿は必死に脳を動かしていた。
憎むべき相手がやられているというのに、心は落ち着かない。
それは過去の、彼女の微笑みに縛られているからか。
どちらにしろこのまま殺人事件が起こったら、洒落にならない。


(…せめて朝の……アレが出せたら……)


今日の朝。
清麿の家で起こったこと。
ガッシュの口からの電撃、あの謎さえ分かれば。

あのときの状況はどうだった?
自分は何を持っていた?
何を、言った?


それが、一本の線に繋がる。





「ぐっ!!」



の身体が宙に浮く。
金山の蹴りが腹部に思い切り入ったらしい。
大きな音と共にとコンクリートの床に叩きつけられ、擦られる。
金山との間に数メートルの距離ができた。
それほどの強い蹴りだったということが分かる。



ちゃんっ!!」



スズメの悲鳴が響く。
清麿の瞳に映る、倒れた銀の髪。
同時に沸き起こる、感情。



「…金山を…倒せる」


「え?な、……何言ってるの?」



いつも以上に低い声。
スズメは驚きながらも後ろを振り向いた。

そこには。


怒りを抑えきれない表情で。
金山を睨みつけながら、赤い本を開く清麿の姿があった。
ガッシュも同じように彼を睨みつけている。

その二人から感じるのは同じ感情。



「そう、オレは今日の朝…この本を持って偶然この呪文を唱えたんだ!!!」



赤い本が眩く光輝く。
これから清麿が叫ぶ、その呪文を待ち続けていたかのように。
強く、強く。





「『ふざけるな』!そう。第一の術『ザケル』!!!」





それは 放たれた。












第12話<<    >>第14話