保健室。
消毒薬臭い、真っ白な空間。

達より数分先に着いたそこには先生の姿はなく。
あまりにも酷い怪我だったため、スズメには対処できるわけもなく。
スズメは「別に大丈夫」という清麿を無視し、先生を探す旅に出掛けてしまった。


窓が開け放たれ、涼しい空気が入ってくる。
外は青空。
もう西側では少し赤く染まり始めていて、夕方の訪れを告げている。
しかし、清麿の心は今にも雷雨が始まりそうな。



「清麿」



隣に座る少年が声をあげた。
普段の彼なら、クルクル廻る椅子で遊んだりするところだろう。
が、怪我をしていて体力は消耗気味。
そして先ほどのとの雰囲気と今の清麿の雰囲気を感じてか、ガッシュは静かに口を開いた。



「…何故、をあんなに突き放したのだ?は我々を助けてくれたのだぞ?」



彼がを憎んでいるのは知っている。
それはから聞かされた話から明らかだし、清麿はを見る度に顔を顰めていた。
分かっているが、今回は助けてもらった身だ。
憎んでいるとはいえ、あのような対応は…とガッシュが言いかけたときだった。



「ガッシュ、問題だ。一問目、アイツはいつ現れた?」



感情のない、低い声。
唐突な問題に、ガッシュは戸惑いを覚えた。



「いつって……清麿が金山という者に一通り殴られた後、か?」


「そうだ。二問目、どこから現れた?」


「どこから……だと?」



二問目で、ガッシュは答えが出なくなった。
どこから、と言われても、は気がついたらそこに立っていたのだ。



「ちなみに屋上の扉が開かれた音はしなかった。つまり最初からアイツは屋上にいたんだよ」



導き出される答え。
真意は分からないまでも、行動は口よりもモノを言うことが多い。



「見てたんだ、アイツは。水野やお前や…オレがボロボロになってるのを黙って…笑って見てやがったんだ。『助けた』?違うな。オイシイところを取ろうとしただけだ」



まるで奥底から出すような、低い声。
憎しみ、怒り、それをせめて面に表さないように。
耐えているかのよう。

どんなに冷たい視線をよこしても。
これだけ、負の感情を宿らせた瞳は初めてで。

ガッシュは何も言えなかった。
恐怖と。
悲しみと。
多くの感情が渦巻いて、言葉になんか出来るわけなかった。



「アイツなんか……」



名前すら呼びたくない。
思い出したくない。
忌々しい、あの過去なんて。

過去どころじゃない。
消してしまいたい。

何を?



「アイツなんか…消えちまえばいいんだ」



アイツなんか。

オレの前から。




消えちまえばいいんだ。












保健室の前。

金山とは、中から聞こえる言葉に動きを止めた。
聞こえるのは幼い声と、低い青年の声。
ガッシュと清麿だろう。

さすがに今入るのは、雰囲気を壊すだろうか。
扉を開けることに戸惑いを感じたときだった。



「見てたんだ、アイツは。水野やお前や…オレがボロボロになってるのを黙って…笑って見てやがったんだ。『助けた』?違うな。オイシイところを取ろうとしただけだ」



低い声に、憎しみの篭った言葉に二人は息をするのも忘れた。
金山はちらり、との顔を見る。
身長の差か、銀色の頭しか見えない。
視線を感じて、はゆっくりと顔をあげて。

苦笑を、漏らした。



「……笑ってはいなかったけど、大体の筋はあってるよ」



小声でこっそりと、金山の言葉にならない疑問に答える。
しかし、彼はその言葉をすんなりと受け入れるほど、頭が悪いわけではなかった。

オイシイところとか、そんなのは関係ない。
自分の目の前に現れたは確かに。


確かに、彼らを守るために立っていたのだから。




「アイツなんか……」



未だ響く低い声。
何となく分かるその言葉の続き。
は金山から視線を逸らして、静かに目を閉じた。


これが、清麿の気持ち。
これが、俺の罪。





「アイツなんか…消えちまえばいいんだ」





大好きな低い声。
それから紡がれる拒絶の言葉。
は目を閉じ、しっかりと。

しっかりと受け入れた。










第15話<<    >>第17話