「アイツなんか…消えちまえばいいんだ」




オレの中の記憶共々。

消えてしまえばいい。





ガッシュがその言葉を咎めようとしたとき、保健室の扉は勢いよく開かれた。
大きな音に、保健室の中にいたガッシュと清麿が大きく目を見開かせる。
そこには、怒りに顔を歪めた金山が仁王立ちしていた。



「てめぇ……高嶺………」



確かと一緒にいたのではなかったか。
そんな考えが頭の中を軽く過ぎったが、そんなことはどうでもいい。
今にも飛び掛ってきそうな金山がそこにいるのだ。

怪我など忘れたかのようにズカズカと保健室の中へと入っていく。
そして、腰掛けていた清麿の胸倉を思い切り掴んだ。
未だ、力は残っている。
清麿はその勢いに、怪我の痛みを感じつつ顔を青ざめた。



「助けてもらったにむかって、それがお前の礼か!!」



、の名前に、青ざめた顔は一気に冷静になり、鋭い瞳になる。
冷たい、漆黒の視線。
間違いなど言っていない。
そう言っている視線が一層、金山を苛立たせる。



「あいつはなぁ、喧嘩は好きでもオイシイとか、そんなこと考えてやるヤツじゃねぇっ!!!アイツはいつも誰かを」



大きな罵声。
それがドッという音と同時に消える。
清麿の方へと倒れる大きな図体。
しかし、それは清麿の腕の中に入ることはなかった。



「……



ガッシュが名前を呼ぶ。
は名を呼んだ少年に苦笑を向けながら、今自分が気絶させた男の身体を支えた。
重たいそれを抱えて、よいしょ、とベッドに倒れさせる。
ボスッといい音が鳴る。
怪我がまだズキズキと疼きだす。



「ったく、コイツも馬鹿なんだから」



染まった、クシャクシャの髪を優しく撫でてから、はすぐに立ち上がる。
そして耳元で小さく、誰にも聞こえないように。



「…サンキュ。じゃあな」



そう呟いて。
小さく微笑んで金山から離れた。
後ろを振り向けば、俯く清麿と、どうしたら良いのか分からずにいるガッシュがいる。



「あ、あの、。今のは、その」



ガッシュがどうにかして、清麿の発言を消そうとする。
しかし、良い理由が見当たらない。
言った本人は俯くだけで、を見ようともしない。

は微笑みながら、ガッシュの傍へと寄り、ポンポンとまた軽く頭を叩いた。
金色の瞳が、見上げる。
そこには。


銀色の綺麗な髪が夕暮れに染まって。
悲しげな紅の瞳が揺らいで。
しかし、口の端をあげて微笑んでいるがいた。


それはまるで。



本当に。






消えてしまうような。









「…今まで悪かったな、高嶺」



清麿は答えない。
それを分かっているからこそ、は次の言葉を紡いだ。



「………ありがとう。じゃあな」



金色の頭に感じていた優しい重みと温もりが消える。
瞳と瞳はもう合わない。
無意識に伸ばされた小さい手は、を掴むことなく。
空気を掴んで。

金色の瞳にはもう。
保健室の扉しか見えなかった。




「…サヨナラ」



の声は清麿たちに届くはずもなく。

夕暮れに消えた。






もう、歩かないだろう廊下。

ブラスバンドの演奏。

運動部の掛け声。

ここから見える夕暮れ。



そこを、足を引き摺りながら歩く。

最後となる景色を見て。

目を細める。



(……嗚呼、綺麗だ)



学校の景色がこんなにも綺麗なんて。

今まで、見て見ない振りをしていたんだ。

いや、もしかして。


もしかして最後の自分に、ご褒美とばかりにいつも以上に輝いてくれているかもしれない。



(なんちゃって)



そんなわけ、あるわけがない。
けれど、こんなにも満たされる心。
清麿の言葉は、まだ心の奥を抉るけれど。

それでも。


(最後にしては…上出来な学校生活だったんじゃないか?)



自然と微笑む。
夕暮れと一緒に沈む生活。

この学校にもさようならを。












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