空は相変わらず空である。
自分も、相変わらず自分だ。
酷く汚れた、醜い人間のままだ。

人を幸せに出来ぬ、人を不幸せにしか出来ぬ、この世で一番いらないモノ。
君を失ってから、俺はいつも暗闇の中にいる。
そして俺は君を暗闇の中に引きずりこんでしまった、酷い醜い獣だ。



「……認めぬ」



ボソリと呟く低い、子供の声には視線を戻した。
金色の髪が太陽の光を弾く。
顔をあげずに、ガッシュは拳を握り、震えていた。



「……………ガッシュ」


「…何故…何故なのだ………っ」



名を呼んでも反応は返ってこない。
ただ一人で、そこで答えを待っている少年。
はもう一度口を開いた。



「ガッシュ」


「私は、私は認めぬ!!何故なのだ!?何故、清麿を……っ!!!!」



ダンッとガッシュは地面に拳を思い切り落とした。
顔は地面に向けたまま、少年はただ地面にめり込んだ拳を見つめる。

はすぐに目を見開いて目の前の少年を見つめた。
ガッシュの大声と、拳。
そのまま、憤った心と一緒に身体全身を震わせている彼。


(この子は………)


は、ガッシュの様子に躊躇いながらもそっと両手を伸ばした。



「………ガッシュ」



地面にめり込んだ、ガッシュの右手にそっと触れる。
小さな手が、ビクリと小さく動いた。
は両手でガッシュの拳を包み込み、そっと持ち上げた。
冷たい片手に、大きく、暖かい両手。


(手が冷たい人は…心が暖かいんだっけ)


昔、遠い昔誰かが言っていた。
冷たい手の分、その人の心は暖かいと。


(この子は…暖かい。まるで陽だまりのようだ)


無意識に微笑んでしまう。
純粋で、優しい子供の片手を、優しく撫でる。
まだ顔をあげない少年に、は口を開いた。



「……ありがとな」


「え?」



ガッシュがようやく顔をあげる。
の顔を見たとき、ガッシュの目は見開かれた。



「………ありがとう。清麿……高嶺のことを想ってくれて……俺のことも、考えてくれて」



微笑んでいた。
銀の髪は太陽の光を弾いて輝いて。
鋭いはずの瞳は優しくて、まるで…女神のように。



「私…は…何も…」



目を奪われる。
そして戸惑う。
何故、彼女は微笑んでいるのか。
清麿のことは考えていたけれど、のことは何も考えてはいないのに。

ただ、何故だと考えただけで。
それだけ、なのに。


(分からぬ……分からぬのに……心は何故こうも……)


顔に出ていたのだろう。
はガッシュの考えを見通したように、また微笑んだ。



「…高嶺のことを一番に考えて、その上で原因の俺を頭から罵倒するわけでもない。むしろ理由を考えるだなんて、普通は出来やしねぇよ」



清麿の傍にいてくれることさえ救い。
清麿を考えてくれることにまた、救われ。
そして俺のことさえも…俺がいじめの原因だとは認めない、と…根拠もないのに本気で怒ってくれる。


(この子は………きっと…………)


目を瞑れば見える、清麿の姿。
闇に蝕まれている彼に一筋の光が見える。


金色の光が。


(…きっと………)


自然と微笑む自分がいる。

はその事実に心の中で自嘲しながらも、目の前にいる少年を見つめた。
まだ、困惑している、小さな手の持ち主を。

両手の中にある手を、は自分の方へと引き寄せた。



「…っ!!?」



ガッシュはまた大きく目を見開かせた。
自分の体はスッポリとの両腕の中に収まっている。
男、だというのに何故か清麿の母をも思い出させる感触。

温かい、の体温。
優しい香り。
心地いい…なのに、どこか落ち着かない。
鼓動が早くなり、顔が熱くなる感覚にガッシュは理由が分からずに戸惑う。
小さな両手はを抱き返すことなく、固まっている。



「……ガッシュ、高嶺のこと好きか?」


「ウ、ウヌ!友達だからな!」



の言葉にドギマギしながらもガッシュは答える。
体全体にガッシュの体温を感じながらも、は微笑んだ。


『友達』の言葉に。


もう、自分には名乗れない、その言葉に。



「…………なら、大丈夫だ」



大丈夫。


何にあてられた言葉なのか。
ガッシュは分からずに「ウヌ?」と問い返す。

はその後何も言わずに、ガッシュを自分からゆっくりと離して立ち上がった。

微笑みに、少しの影を落として。











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