屋上の扉が開く音がした。
その音に、の目がゆっくりと開いて、紅にまた青空を映した。
屋根の上から、下を見下ろす。
玄関からガタイのいい男子生徒と小さな女子生徒が入ってくるのが目に入った。


(来たか金山………と………はぁ?)


男子生徒は思ったとおり、金山。
彼のカモらしき女子生徒は、見たことのあるショートヘアの黒髪に白いヘアーバンド。


水野スズメであった。


意外な人物に紅の瞳は大きく見開かれるだけ。
下では金を渡す渡さないの言い合いになっている。
その言い合いによると、どうやらスズメは合唱部で行くコンサートのチケット代を集めていたらしい。


(あ〜……そりゃあ絶好のカモだわな……)


昨日は喧嘩に居合わせて、危うく巻き込まれそうになっていたスズメ。
今日は今日で、カツアゲの対象。
何とも、運が悪い。

スズメの運の悪さに、は溜め息を一つ吐いた。
下では金山が優しく、スズメをゆすっている。
女子であるからという気遣いであろう。

が、頑なに拒むスズメ。
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、金山はスズメの胸倉を掴んで彼女を持ち上げ始めた。


(…金山……)


彼ならばスズメを傷つけまい。
そう思いつつも、の顔は歪む。


(…スズメ傷つけたら絶対殺す)


気付かれないながらも、ギッと金山を睨みつける。
持ち上げられたにも関わらず、スズメは懸命に抵抗している。
金山がもう片方の手をスズメに出したときだった。



「その女の子から手を放せ!でくの坊!!」



聞いたことのある少年の声に、は身を乗り出した。
太陽のような金色の髪と目が見えた。


(ガッシュ)


中学校にはいないであろう、小さな背丈。
それでも、威風堂々とそこに立つ彼。



「正義の味方、清麿が来るまで私が相手だ!!!」



自分の何倍もある背丈の男子にこの態度。
は小さく微笑んだ。


(…本当に……純粋で、真っ直ぐな子だ……)


将来良い男になるんだろうなぁ、と一人全く関係ないことを考える。
自分の主張をハッキリと言える、行える大人になるんだろう。


(…だけど…)


相手は喧嘩慣れしている金山。
女子生徒で全く力のないスズメに、幼いガッシュ。
明らかに分が悪い。



乾いた音に、はすぐに目を鋭くした。
「うぐっ」という声とスズメの叫び声が屋上に響く。
その音は止むことを知らず、次々と奏でる。
金山の拳は止まらない。


(…ガッシュ…)


音と共にボロボロになっていくガッシュが目に映る。
金山が殴る度に、スズメの涙が溢れる。
はもう、半分身を乗り出していた。



「もうやめて、お金なら渡すから!!もうこんなちっちゃい子を殴らないでよ!!!」


「このバカに渡す金はない…渡すんじゃない!」


「あなたもいい加減逃げて!!」



スズメが泣きながら前に出る。
それを見て、ガッシュはすぐに後ろへと促した。
が、スズメも負けてはいない。
逃げるように言った彼女に、ガッシュは意思の強い笑みを返した。



「私は平気だ…それより、もうすぐ清麿が助けに来てくれる。そしたら安心だ…二人一緒に戦うから、こいつもすぐ倒せる!」



金色の瞳には、強い光が宿っている。
清麿が来ると強く信じ、断言をするその瞳。



(……)



ガッシュの言葉に、は固まっていた。

いや、言葉と、瞳に。


ガッシュは信じている。
清麿は絶対来ると。
「せいぎのみかた作戦」も、成功するものと信じている。


何よりも、自分の友人を信じきっている。


その姿が何よりも、眩しく映る。



自分には、出来なかったことを簡単にやってのける彼だから。



「ハッ、さっきからそればっか言ってやがるな…」



先程まで黙って殴っていた金山が口を開いた。
口の端はつりあがり、鼻で笑う。
そして ガンッとガッシュを思い切り蹴った。



「バカが!!いい加減気付きやがれ、お前は高嶺にだまされたんだよ!!!」



金山の足は止まらない。
屋根の上からでも分かる、ガッシュの傷の多さ。



「あいつは自分以外の存在がすべてうっとうしいんだ!!」



二回連続の蹴り。



「自分が常に一番!!自分以外は全部クズだと思ってんだよ!!!先公でさえも見下してる!」



これが、清麿に対するクラスメートの偏見。
傷がまた一つ、ガッシュにつく。
スズメは傷ついていく彼を見れなくなってきたのだろう、顔を覆っている。



「おまえもアイツとどんな関係か知らねぇが…おまえもしょせん、下等動物のやっかいもののブタにしか見えてねえんだよ!!!」



屋上に響く高嶺に対する罵声。
は静かに、それを聞き、ガッシュに傷が増えるのを見ているしかなかった。
これは、作戦。
清麿が立ち上がるための、作戦なんだと、心の中で繰り返して。



「この学校であいつの肩を持つ奴なんざ一人もいねえ!!先公でさえもいねえんだ!!!あいつなんか…永遠に学校なんか来なくていいんだよ!!!来てほしいと思ってる奴なんか誰もいねんだよ!!!」



金山の声が、屋上に大きく、響いた。













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