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何もない空間に突然沸き起こる風。 それは無色の刃となって。 マグーリの身体を引き裂き、傷つけた。 「あぁぁあぁっ!!!!」 風の刃に傷つけられたそこからは、人間と同じような赤い血が零れ落ちた。 しかし複数出来た傷は粗方、浅いようだ。 「で、できた!!」 「やったぜ!!」 しっかりと攻撃できた。 その衝撃であのマグカップの攻撃は止まった。 狙いどおりだ。 ようやく落ち着いて、立てる。 穴となっていない床に立ち、三人は悶えているマグカップを見た。 それは自分の身体を抱きしめ、痛みを堪えながら睨みつけてくる。 「ひ、卑怯者…っ!目に見えない攻撃するだなんて…っ!」 相方であろうサラリーマンが非難の声を上げる。 しかしその言葉はたちには届かなかった。 「…成る程、第一の術は風を刃にして攻撃するものなんですね」 「いやぁ良かったな、当たって」 「マジ、良かった…」 とにかく『魔法』が出て、それが『攻撃魔法』しかも『敵』に当たったことに喜んでいた。 喜ぶ、というよりは安堵だろうか。 初めての挑戦だっただけに、失敗したらと思う方が強かった。 もそれは同じだったようで、安堵の笑みを浮かべて分析している。 自分の中にある『術』の『系統』を。 戦いに繋げる『方法』を。 「大丈夫かマグーリ!」 「…アタシをコバカにしやがってぇぇっ!!田中、もう一度よっ!!」 怪我をしてもまだまだやる気らしい。 マグーリは瞳を鋭くさせてこちらを睨んでくる。 その心に反応するかのようにヒヨコ色の本は力強く光を放ち始めた。 「はぃぃっ!『ジ・ティオルケア』あぁぁっ!!!!」 また複数の液体の球が現れた。 今度は先程よりも数が増えている。 と新は目の前の光景に、また目を大きく開かせた。 「ま、またあの攻撃かよ!?」 「しかもさっきより数が増えてるぜオイ!?」 わたわたと慌て出す二人とは対照的に、は真剣に目の前を観察していた。 先程と同じ術だというのに、球の数が増えている。 違うのは、本の放つ光の量。 それと比例しているのは恐らく…。 (心、ですか) マグーリの怒りの感情と、本の持ち手である田中の感情が高まったときに本の光は強くなった。 ということは込める感情が強ければ強いほど、術の威力は強くなる。 簡単な、比例式。 「…、今度は次の呪文を唱えてみてくれませんか?」 「つ、次!?ちょ、ちょっと待て確認すっから!!」 飛んでくる球を気にしつつも本を捲る。 次に書かれている言葉は『第二の術』。 その奇妙とも思える言葉の羅列を覚えて、はすぐに本を閉じた。 「お、覚えた!!」 「はい、じゃあまず球を避けつつ、精神を落ち着かせてください」 「お、落ち着かせるって、こんな状態でどうやって!?」 ついに球の攻撃が開始された。 先程よりも多い酸性の液体の球が降り注ぐ。 それをかわしながらも落ち着けと言われても、こちらは動くだけで精一杯であるのに。 「いいですか!あのマグカップを倒すことだけを考えるんです!」 「そんなん、どうしろってのさ!?」 「倒せなければ、僕が消えるだけです!!」 の声が廃ビルに響き渡る。 はそれを反射的に。 「それだけは嫌だっ!!!」 そう叫んでいた。 同時に強くなる本からの光。 感情の、心の叫びが光となって現れる。 はそれを見てから、目の前のマグーリに鋭い視線を向けた。 「…ええ、僕もまだ消えるわけにはいきませんっ!、お願いします!」 「『第二の術 スウィラナ』!!!」 消すわけにはいかない。 消えるわけにはいかない。 失うわけにはいかない。 失わせるわけにはいかない。 それが合言葉 それが 引き金 銀色の光がを包み込んだ。 そして風のごとく、消えた。 「消えたっ!?」 いきなり消えたことに、マグーリは驚きの声をあげた。 田中も、そして新も。 攻撃がぴたりと止まり、皆の目が白黒してる中。 はしっかりと瞳を開いて。 消えた影を追っていた。 「ど、どこに…うああああああああっ!!!?」 辺りを見回していたマグーリが悲鳴をあげた。 気がつけばそのマグカップの身体に衝撃が走っていた。 大きな音と共にマグーリの身体は壁に叩きつけられた。 それが立っていただろう場所には、が銀の光に柔らかく包まれた状態で立っていた。 「ま、マグーリっ!!?」 「ら、!?」 いきなりの状況にやっと心が追いついた田中と新。 言葉を出したと同時に、は自分の今の技を一人で納得していた。 「…成る程…第二の術はスピードの上昇と共に力も上昇するものですか…どうやら数秒間だけみたいですが」 そう、消えたわけではない。 目に見えない速さで、動いただけだ。 の白いワイシャツと闇を彩る髪が小さく靡いた。 紅の瞳がその姿を見て。 そして、は安堵して微笑んだ。 「…しかも風の力を使って…って感じだったな」 「おや、、ようやく喧嘩腰になれました?」 「アハハッおかげさまで」 紅の瞳に力が宿る。 は銀色の光を宿した本を持ち、その場に凛と立った。 背筋を伸ばして。 「むしろ、開き直りかな。ありえないことを見まくったから、もう慣れた、みたいな」 「いい傾向です」 身軽に跳んで、の隣に着地する。 ふわりと優しい風を運んでくれる。 それだけで安心するのが分かった。 「…」 「はい?」 「…消させや、しねぇから」 一緒にいる。 何があろうとも。 一体、が何者であろうとも。 消させやしない。 はしっかりと、紅の瞳をマグーリへと向け。 もそんなを見て、優しく微笑んでから同じ方向へと銀の瞳を向けた。 |