この戦いには危険を伴う。
先程のもので、それはすぐに理解できること。

軽い怪我ならばそれでもいい。
だが、どう見ても人間も命を賭けなければならない戦いだ。


夢、願い、想い。
それを戦いの精神の糧にして。
命、不安、恐怖。
それを賭けなければならない。


メリットとデメリット。
それで言うならば、デメリットの方が一番高い。
質も、量も。

だからこそ、断ってくれてもいいとは考えていた。
戦いのときのあの心が通じ合った感覚は酷く心地よいものであったけれども、にはの人生がある。
自分に付き合って、の人生が壊れるのならば自分は一人で頑張るしかないと考えていた。
もしくは、新たなパートナーが現れることを、不安ながら待つぐらいだろう。


(それでも構わない…王に相応しい魔物が残ってくれれば)


最終目的はそこにある。
一番なって欲しくない魔物の存在を知っているからこそ。



目の前にいるはじっと考えているようだ。
膝の上にある本を見つめ、そこに置いてあるの手との手を見やり。
頭の中でグルグルと理解しつつあるのだろうか。
未来を予想し、最善の選択を考えているのだろうか。

その間にも車は都会を抜ける。
青い看板には自宅となった家の町まで数十キロと書かれている。

静寂の中、大きな溜め息がどこかしらか響いた。



「…?」



溜め息の主は
に握られていない片手を取り出し、頭を小さくかいている。
表情は、呆れ気味だ。

何故呆れているのか見当もつかない。
そのような表情になる事柄など、全くなかったのだから。



「…断る」



の口から紡がれた言葉の意味を、は瞬時に理解した。
やはりデメリットの方が大きいのだから、それが一番の選択だ。
の人生を左右させるなど、それも大変なことなのだから。
は微笑みを崩さないようにしながら「そうですか」と小さく答えた。

の手から自分の手をどかそうとが動く。
が、次の瞬間それは止められた。



「そんな頼み方だったら、断る」


「え?」



どかそうとするの手の上に、の手が覆いかぶさる。
大きさはやはりの方が小さい。
が、その手はどこか温かく感じる。

紅の瞳が真剣なままを見上げた。
頼み方、の意味がいまいち理解出来ていない彼を見つめる。
そしてゆっくりと、言い聞かせるように口を開いた。



「そんな他人の貴方に迷惑だろうけど、みたいな頼み方だったら、俺は嫌だ」



おこがましい?
いただけないでしょうか?

その言葉は赤の他人に対して失礼のないような頼み方。
自分を下し、相手を上げる物言い。
そんな言い方が、にとっては嫌なことこの上なかった。



「俺達は、何?他人の関係なわけ?それとも俺だけが勘違いしてた?」



昨日逢ったばかりで、知り合ったばかり。
それでもにとっては、の存在はとても大切なモノ。
自分を救ってくれ、そしてここにいてもいいと言ってくれた恩人。

それ以上に心地よい夜空。
友人や恩人で括りきれない。

だからこそ、あの他人行儀が悲しく思えた。


言葉の意味を理解したは、目を大きく見開いた。
そして、それだけではない意味をも。



「…、僕と一緒に戦ってください」



他人ではなく、いつもと同じように。
友として願い出るならば。

から出る言葉はきっと。



「…俺で良かったら」



素直な了解の、言葉。

覚悟を決めてくれた言葉が紡がれる。


他人ではなく友達として。



ニッと笑うに、もようやく安堵出来る。
お互いに手を握り合い、微笑み合う。

これからやってくるだろう未来。
戦い、願い、破壊。
見えないその世界に、何があるのか分からない。
それでも。



「一緒に、戦おう」


「…ありがとう、ございます」



優しいこの夜空を手放しはしない。
自分からなど。

それに、彼が還る場所である世界を壊したくはない。
還っても、幸せに過ごして欲しい。
の言っていることが最もだと、理解したからこそ。



「共に戦ってくれる貴方を、僕は必ず守り抜きます」


「じゃあそんなお前を、俺が守る。これで大丈夫だろ」


「ですね」



クツクツと二人で笑い合う。
未来は不安だが、それに囚われ続けるわけにはいかない。
共に笑いながら生きて、戦い抜く。

望みのために。



「…よーし、そんなお前等を守るのが兄の役目だからな。これで超最強だろ」



ずっと黙っていた紅羽がようやく運転席から声をあげた。
先程の真剣な空気を打ち消すかのように、おちゃらけながら。
暢気な声に、二人は小さく吹き出した。



「何、お兄ちゃんが俺達を守るの?」


「そうに決まってんだろー?最強最強!これでも安泰ってやつだ」


「じゃあ安心して全部紅羽さんに任せましょうか」


「ってオイオイ、勿論お前等が戦わねぇとどうにもならねぇからな」


「あはは!」



車内に静寂から笑い声が戻る。
遠くには大きな海が見えた。
自分達が戻る場所である、あの海が。












その海から漂う潮風が心地よい。
二人は庭に水をやりながら、のんびりとそんな数日前を思い返していた。
二人の間に生まれた、新たな関係を。

まだあれから戦いは起こっていない。
だからこそこの水飛沫は平和を象徴した。



「さ、水撒きが終わったら今度は洗濯物干しですよ」


「了ー解」



丁度洗濯機が遠くから音を鳴らす。
後はこの天日の下で乾かせば洗濯は終わりだ。



「今日は沢山干すものがありますから、結構大変そうですよ」


「まぁ、俺の服やら何やらが増えたからな…。うし、頑張ろ。二人ならすぐ終わるだろ」


「ですね」



クツクツと二人で笑い合い、もう一度庭を見つめた。

父は今頃、ここから少し離れた診療所で診察でもしているのだろう。
兄である紅羽は大学で講義を受けているのか、はたまたサボっているのか。
どちらにせよ、平和な限り。


それでもいつ戦いを申し込まれるか分からない。
だからこそ本はすぐに燃やされない場所に、そしてがすぐに持つことが出来るような場所に置いてある。
準備は万端。
ただ今は、この平和を満喫するばかりだ。


ホースの水を止めて、片付けて。
そのままは家の中へと戻っていった。
洗濯物を取りに、行くために。



新たな生活の始まりは、輝かしいばかり。

過去はまだ胸を締め付けるも、ずっとそのままでいるわけにはいかない。



今を満喫し、生きるしか。
















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