とのんびりと洗濯物を干している頃。

中学校ではある変化が起きていた。




いつもと変わらない学校。
変わったのは清麿を見る人の眼。
この間まではまるで腫れ物を触るような目だったというのに、今となっては興味を持っているような。
好奇心のような視線。


その理由が分からずに、清麿は昨日のことを思い浮かべていた。



昨日のこと。
銀行での強盗事件があったとき、清麿はテレビをのんびりと見ていた。
そこに映ったのは人質となった水野すずめ。
最初は諦めと称して放っておこうとしたのだが、ガッシュが助けに行こうと立ち上がったのだ。

忘れていた勇気を思い出し、突撃した。
案なんて全くない。
危険な状況に陥ったとき、思い出したのは皮肉にも屋上での出来事だった。


突然の雷。

そのときの状況。

赤い本、呪文。

心。


雷の術に通じたのは、あのときの心。
ガッシュと心が通じる瞬間。
通ったとき、強盗は出た術によって倒されていた。


(第二の術『ラシルド』…どういうことだ?やっと次のページが読めるようになったかと思えば…)


水野すずめを無事、救出出来た。
しかし、今の清麿に問題は山積みだ。

術を放つ核となる赤い本。
銀行強盗の一件で、本の『第二の術』とやらが読めるようになったのだ。
それは『ザケル』よりも強い電撃なのだろうか。
試していないために予想しか出来ないが、不安で仕方がない。


(困ったなぁ…どうすりゃいいんだよ?この本…)


今回は守るために使えたものの、下手をすれば凶器になる。
どういう仕組みかは良く分からないが、そういうことなのだと分かってることだ。
視線よりも、そっちの方が問題だった。



「オイ、清麿…何やら皆の様子がおかしくないか?」



清麿が頭を悩ませているのを、まるで関係ないとばかりに暢気な声がする。
それはひょっこりと金色の頭をバッグの中から覗かせている。
大きなクリクリとした髪と同じ目をあちこちへと動かすそれに、清麿は自分の持ち物を睨みつけた。



「顔出すなっつったろ!!おまえがダダをこねたから連れてきたんだぞ!!」


「何を!?私は清麿が学校をサボらぬよう見張りを…んぎょう!」


「静かにしてろ…」



ダダをこねたために、バッグの中で過ごすことを約束してここに持ってきたというのに早速約束は破られている。
清麿は溜め息を吐きながら、その小さな頭を無理やりバッグへと詰め込んだ。
そして、彼は辺りの様子を見ながら何事もなかったかのように歩き出した。


(周りの態度がおかしいのには気づいてる…また、いつもの陰口だと思うが…)


いつもなら陰口が溢れ、差別の視線が注がれる。
だが、今回はどこか違うのだ。
ヒソヒソ話にも、どこか違う意味が篭っているような気がしてならない。
そう、どこか『尊敬』のような…。



「あいつか?爆弾作ってるっていう、怪しい天才は…」


(爆弾…?なんじゃそりゃ!?)



どこぞの言葉に、清麿は心からつっこんだ。
本当ならばずっこけそうなところだ。
全く関係ない噂話でも盛り上がっているのだろうか。
清麿はとりあえずその一言のお陰で、普段通りの冷静さを取り戻した。


(まぁ…なんにせよ…“尊敬”はオレの勘違い…)


期待してはいけない。
その後の苦しみを知っているからこそ。

黒い瞳が闇の部分を増す。
廊下から、自分の教室へと辿り着く。
冷たいドアに触れながら、それをゆっくりと開いた。
溢れるのはクラスメートのザワめき。


(また…陰口だらけの…最悪な学園生活が始まるだけだ…)


一年前、忘れようにも忘れられない一日がある。
大切だと思っていた、友だと思っていたヤツのあの一言。
思い出すのも、思い返すのも吐き気がする。
浮かびそうな顔を、清麿は掻き消しながら歩を進めた。

自分の席まであと数歩。
そこに、肩にドンと叩かれた衝撃がはしった。



「よう!」


「おっ」



その力強い叩きに、少しばかり足元が崩れる。
どうにか転ばずに体制を整えると、後ろには叩いたであろうクラスメートがいた。
男子の顔は嫌な物を見る顔ではなく、笑顔。
一体何だ、と清麿が顔を顰めようとしたときだった。



「おまえ…けっこう根性あんじゃねーか」



陰口ではない、ただの言葉。
しかも、誉めるもの。

全く予想だにしないその言葉に、清麿の思考は一瞬止まった。
表情も、驚きに満ちて、目を見開いて。
微動だにしなくなった身体と表情に、水野すずめは気にすることなく走ってきた。



「高嶺くーん!!!」



名を呼ばれて、ようやくこっちに戻ってくる。
高嶺が視線をそちらへと動かすと、彼女は目の前に持っていたものを突き出した。



「すごいよ!コレコレッ!!」


「!」



彼女の手には新聞。
そこに載っているのは近日あった事件や事故。
分かっていない清麿を他所に彼女は嬉しそうにそれを目の前で広げて見せた。



「こんなに大きく載ってるよ!!」



ドン、と載っている大きな記事。
そこには『お手柄中学生!!銀行強盗逮捕!』という見出し。
写真の中には清麿とガッシュが映っていた。

それは恐らく今日の記事。
事件としては昨日、あの銀行強盗のもの。



「この記事…」


「おお!いつの間にこんな写真を…」



清麿が驚いている中、荷物の中から顔と声が出る。
反射的に、清麿はそれをまたバッグの中へと押し入れた。
すずめが「今何か声が…」と疑問の声をあげたが、なんでもないと誤魔化すしかない。

ただ分かったのは視線の原因。
新聞の記事に載っていたぐらいなのだから、ニュースでも取り上げられているだろう。
…爆弾作ってるとかは一体何のことかは分からないが。



「でね、マリ子ちゃん達が聞きたいことあるんだって!」


「高嶺君…いーかな?」


「ん!?あ、ああ…」



すずめが連れてきたマリ子を筆頭に、興味を持ったクラスメートが寄ってくる。
いつもの陰口や悪口、いじめのために寄ってくるわけではなく、自分に興味を持って。

今まで話もしなかったクラスメート達。
鋭い視線で差別をしていた彼らが、話をしてくれる。
清麿は、いつの間にか笑いながら彼らと話をしていた。


人というのは、一つのことで何事もなかったかのように接することが出来る。
何とも単純な生き物だ。
そんなことを思いながらも、久しぶりのこの感覚に幸せを覚えざるを得ない。


受け入れられたことが嬉しい。
なかったところに、自分の場所が生まれる。
当たり前だと思っていたこの幸せが崩れた瞬間を知ってるからこそ。

例えぬるま湯のような関係でも、心地良い。



幸せそうな清麿の姿を、ガッシュはバッグの中から覗いていた。
数日前とは全く異なる嬉しそうに話す、彼の姿に。
自分のことのように嬉しく思えてしょうがない。

無意識に微笑む、自分がいる。















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