幸せそうに話す清麿の声を聞きながら、ガッシュはある席へと目を向けた。
の席。

この状況を見せてあげたいと思いながら見たそこは、未だ持ち主が現れていない。
どこかポツンとしている空席。
ガッシュはそれを確認してから、小さく溜め息を吐いた。


(まだ、来ておらぬのか…)


と清麿の間には深い溝がある。
それは、ガッシュでも分かることだ。
だが、は確実に清麿のことを心配し、心の奥底から謝罪していた。

今はまだ、仲直り出来ないかもしれない。
だが、きっとこれからは。

未来は、誰にも分からないのだから。



とりあえず、清麿の今の状況を見せてあげたかった。
こんなにも楽しそうに話している彼の姿を。



「いー加減にしろ!おまえら!!!」



この良い雰囲気を、怒声が踏みにじる。
全員がその大きな声に顔を上げると、席を勢いよく立ち上がる一人の男子生徒が目に入った。
屋上でカツアゲを行っていた金山だ。
彼は目をつり上げながら人差し指を鋭く、清麿へと指した。



「天才かしらんが、そいつは爆弾を作ってるんだぞ!一昨日、屋上がふっ飛んだのもこいつの仕事なんだぞ!!」



どうやら爆弾のあの噂は金山が流したようだ。
一昨日のガッシュから放たれたあの電撃を、爆弾だと勘違いしたらしい。
清麿はどこか納得しながらも、冷や汗をかくだけに終わる。
今何を言ったところで、彼の誤解を誤魔化すのも無理だろう。
と、清麿が諦めていたところで、金山がまた口を開いた。



も見たハズだ!爆弾が爆発したところを!!」


「…」



、の苗字に、冷静だった清麿の瞳が鈍く黒く歪んだ。
思い出したくない過去がグルグルと回る。
自然と鋭くなる眼光に、金山は目もくれず大声をあげた。



「コイツはヒーロー気取りしてやがるが、本当は……」


「何を言うか!!?」



金山の言葉は清麿でもクラスメートでもない、第三者によって遮られる。
清麿の思考も、同時にだ。
どこか幼さを感じさせる声の持ち主は、そのまま言葉を荒げて彼へと飛びかかった。



「自分が悪いことをしていたのに…清麿を悪人扱いする気か!!?」



ボスボスと、金山を殴る音が教室に響く。
声の持ち主は言わずもがな、ガッシュ。
幼い子供が怒りに身を任せて、中学生を殴っている。
それがダメージをしっかりと与えているというのが、どこか滑稽だ。



「それにがそんなこと言うわけなかろう!!」


「お…おまえ…」



ガッシュにとって、がまるで金山の味方だとも言うような言葉と、清麿を悪人扱いする言葉が許せなかった。
感情のままに動いてしまったために、金山が呆然と目を見開いている意味が分からない。
同じような顔があちこちから見えてから、ようやく分かる。

子供は、ここに来てはいけないことを、思い出したのだ。


ガッシュと清麿の顔が一斉に青ざめる。
と、同時に女子がざわめき始めた。



「キャー!かわいい!誰!?高嶺君の弟?」



母性本能か、それとも可愛いのが好きなのか。
女子のテンションが急上昇する。
焦っていた彼らにとっては良い傾向だろうか。
規則やら何やらを気にせずに、キャッキャと騒いでくれる。
かわいい、かわいいとあちこちから笑顔が溢れる中、金山は顔を青ざめさせた。



「こ…こいつだ!!こいつが爆弾だ!!近寄ると殺されるぞ!!」



屋上のトラウマが、表情に表れている。
金山は恐怖に駆られ、自分を殴っていたガッシュを思いきり投げた。
しっかりと机の上に着地したそれに、人差し指をびしりと指して叫ぶ。
クラスメートが訝しげに首を傾げた瞬間だった。

バンと乾いた音が響く。
そこには、担任が金山の頭を日誌で叩いた姿があった。



「そこまでだ…どう考えればその子供が爆弾になるんだ?」


「そーだぜ。おまえ、おかしいんじゃねーか?」


「何言いだすんだよー!!」



いつもは冷たい言葉を清麿に投げかける担任が、最もなことを言う。
他の生徒達もそれをきっかけに冗談として捉えた。
誰も金山の言うことを信じず、笑って流す。
その様子に、清麿すらも目を見開いた。



「イヤ…本当に…だって……」



どんどん立場がなくなっていく金山が汗を流しながら言うが、誰にも聞こえていない。
自信もなくなってきたのか、声が小さい。
いや、他の人たちのテンションについていけないだけなのか。

担任は小さく零れた、という名前に小さく反応した。
しかし、それは微々たるもので誰も気づかない。
そこに安堵しながらも、彼は口を開いた。



「…の件もある。さぁ、席につけ!朝のH.R.始めるぞー!」



先生に促されて、クラスメートが渋々席に着く。
金山も叩かれた部分を擦りながらも、大人しく席へと戻った。
それを見てから、担任は清麿の傍へとやってきた。

何か言われるんだろうか。
清麿が覚悟した途端、担任は素直に口を開いた。



「高嶺…よくやったな…」



視界が明るくなる。
クラスメートに囲まれたときよりも、もっと世界が明るく見えた。
ずっと認めてもらえなかった、先生にさえ誉められたからだろうか。

モノクロにしか見えなかったこの教室。
空気、クラスメート、担任、学校。


全てが色づいていく。





「だが…とりあえず…この子は放課後まで、保健室の先生に預かってもらう!」



穏やかだった担任の表情が真剣なものになり、ガッシュが持ち上げられた。
一瞬の出来事に、ガッシュは小さくヒィッと悲鳴を上げる。
連れ去られる際には清麿の名前を心もとなく呼んだ。
それには苦笑を零すしかない。



いや、これは苦笑ではない。


ガッシュが現れてから、全てが変わった。

嘘をついていた、自分の心。
居場所のなかった学校。
モノクロだった世界。


それら全てが色鮮やかに甦った。



出席を取る担任の声すら、心地よい。

清麿は、頬杖をつきながら窓の外を見た。
金色の太陽が世界を照らす、外。
青い空が清らかに、一面に広がっている。


(太陽が世界を照らす、か…)


教壇に座らされたガッシュが金色の瞳をあちこちへと動かしている。
どうやら呼ばれた名前と顔を一致させようと頑張っているらしい。
そんな姿を見て、清麿は無意識に微笑んだ。















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