誰も爆弾の話を信じない。
誰も、の話をしようとしない。

まるで何事もなかったかのように。
まるで存在もなかったかのように。



「…………チッ」



それが酷くイライラさせる。
金山は大きく舌打ちをして、席を立った。

遠くから聞こえる、清麿を絶賛する声が雑音のよう。
こんなにイライラしては授業にならない。
一時間目はサボる決意をし、明るい教室に背中を向けた。


廊下から見える外は、教室から見えるそれと同じ青空。
しかし機嫌が悪い金山にとっては憎たらしいものでしかない。
チャイムが鳴らないうちに、いつもサボる場所である外へと足が動く。


いつもカツアゲが行われるように、人にあまり見られない場所。
影が多い、そこは知る人ぞ知る。
勿論、一般的に不良の溜まり場と呼んだ方が早い。
まだ一時間目が始まらない時間帯だからこそ、そこには誰の影もない。
金山はそこに安堵の息を零し、地面に腰を下ろした。

心地よい風が茶色の髪を揺らす。
静かなそこに、遠くからチャイムが響いた。












『金山』



ここに来るのは大体、カツアゲのときとサボリのとき。
サボリのときではなく、カツアゲのときは必ずと言っていいほど、がいた。

勿論、カツアゲを咎めるためだけに。



『ちょいとカツアゲしすぎなんじゃねぇの』



いつも咎める際に、喧嘩をする。
そして、必ず叩きのめされた。



『おめぇが止めるから儲けられねぇからだろ』


『おいおい、人のせいにすんな』



叩きのめされた後、必ず保健室へと連れて行く。
金山だけではなく沢山の不良をも。

例え相手が一人でも十人でもは戦う。
最初は見た目から好かれず、喧嘩を売ってきたヤツらに対して買っていただけだったらしい。
だが、いつも自分のためだけに戦っていたわけではない。
ほぼ、人のためだ。


まるで正義の味方のように現れるが気に喰わない。
金山もその一人であったが、喧嘩を日常的に行うようになってからはそこまで嫌悪の対象にはならなかった。



『何でカツアゲするかなー。しかも後で金返してんだろ?』


『うっせぇよ。てめぇには関係ねーだろが』


『最初から金貸してって素直に言えやいいのに』



こんな会話も日常。
殴り合いの後は変にスッキリする。
溜まっていたイライラがなくなっているのだ。

喧嘩はある意味運動。
汗が風によって乾く、この瞬間が気持ちいい。

そして、この空気も。



『素直に金貸せって言って信じるわけねーだろ普通』


『まぁ、そのツラじゃな』


『うっせーよ』



カツアゲするのは、ただ遊ぶ金が欲しいわけではない。
れっきとした理由がある。
だからと言ってカツアゲは許されるわけがない。

不良である金山でも、それくらい心得ている。
だからこそ、しっかりと返すのだ。



『不器用だなぁ、お袋さんやおばあちゃんの入院で花とか買ってるってちゃんと言えば分かってくれるかもよ?』


『それ信じてんの、おまえぐらいだっつの』


『信用ねぇなぁ』



金山の母親の入院。
それだけでも辛いというのに、祖母まで入院してしまった。
お小遣いも雀の涙ほど。
それでも花やらを持って、お見舞いに行きたい。

そんな小さな願いでも、金山にとっては大きな願い。
勿論悪いことは分かっている。
だが、一度味を占めれば戻れなくなっていた。


本当のこの話を信じる人間も少ない。
カツアゲをする前も、喧嘩を好んでしていた不良である金山だったからだ。
第一印象や見た目やらが、真実を嘘へ作り上げる。

それでもお小遣いが入れば返せるだけ返す。
変なところで律儀なのだが、それも気味悪がられていたりする。



『で、どーなのお袋さんとおばーちゃん。そろそろ退院できるんだろ?』



しかし、はあっさりと受け入れた。
嘘だ嘘だといわれていた話を、実にあっさりと。
最初はこっちが疑うぐらいに。
そして今となっては逆に心配してくれる始末だ。



『ばーちゃんはそろそろ退院出来そうなんだけどな。まだお袋が一ヶ月はかかるらしい』


『マジか。結構長いな』


『だからまだ金がいる』


『あー、それでカツアゲが増えてるのか?だから素直に金貸せ返すからとか…ってまたフリダシか。難しいなぁ』



そして、真剣に一緒に悩んでくれる。
最初はただカツアゲを阻止する正義を気取ってやってくる邪魔な人間だった。
が、今ではどうだ。
喧嘩はするも、こんなに暢気に話せるようになってしまった。

ただの喧嘩相手ではなくなった。
しかし、これに名前をつけるほど野暮でもない。
つけたらつけたで、こんな関係ではなくなることを知っていたからこそ。



『でもまぁ、カツアゲはいつでも止めてやるよ』



保健室で自分の怪我を治さずに、金山だけを治療して。
最後は必ず笑ってそう言う。
邪魔をされては迷惑だというのに、それは酷く心を落ち着かせた。











もうここには来ない。
カツアゲしても、誰も邪魔をしに来ない。
保健室に運ぶあの小さな手も、笑顔も、別れなしに消えてしまった。

しかも、最後に見たのは高嶺の言葉に、悲しげに苦笑を零すあの姿で。



「………なんだかな」



邪魔であり、どこか心通う喧嘩相手だった。
だからこそやるせない。
青空と優しい風を心地よく感じさせない。


しかも高嶺は今や英雄だ。
銀行強盗の一件で、ちやほやされるに決まっている。
屋上の一件を知ってる水野すずめでさえ、爆弾説は否定した。
これから彼の好感度は上がっていくのだろう。

を、否定した彼が。
の存在を消していく。


(爆弾魔のくせに…)


先入観はまだ拭えない。
高嶺をすぐに受け入れろとは無理な話だ。
今は逆に怒りを逆撫でする要因の一つにしかなり得ない。


ここにがいたら自分の言葉に賛同してくれるだろうか。
いや、きっと賛同などしない。
他の皆と同じ、英雄として認めているだろう。

高嶺に己が知っているからこそ。
彼らのように纏わることはせずに、遠くから。
その姿を遠くから嬉しそうに笑うだろう。


だからこそ、心から怒ることが出来ない。
それがイライラを増長させた。




しかし、過ぎ去ってしまったものは戻らない。
もうすぐカツアゲをしていた理由の、母も近々退院する。


カツアゲとも卒業。

とはもう会えない。

時間は待ってくれない。


がいない世界で、カツアゲもせずにこれから作り上げる未来。
それを考えなければいけない。

だが。



今、だけは

過去に思いを馳せることを許してほしい















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