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魔物は魔物を呼び寄せるのだという。 運命の出会いのように そうでなくても、魔物の気を辿って意図的に 少しでも自分が王へと近づくために だからこそ分かっていたこと。 いつまでも、のんびりと生活なんて出来ないこと。 少なからず戦いが、始まることを。 「……………」 近づいてくる、特徴的な気。 昨日までの平和が遠い記憶のよう。 「?」 青い空が外の世界に広がっている。 温かい午後、が庭で洗濯物を乾かす傍ら様子の違うに気づいて声をかける。 真っ白いシーツが青い空に綺麗に映えるのに。 彼の纏う空気は、どこか殺気を帯びていた。 月のような銀色の瞳は細められて、全く違う方向を睨んでいる。 黒い髪は、風に優しく撫でられているのに、そんなことを全く感じさせない。 いつも微笑んでいる口は、への字に曲がっていた。 「………?」 やはり、いつもの彼ではない。 ピリピリとした空気を纏っていて、の声が聞こえていない。 それが表すのは何か。 考えれば、すぐに分かることだ。 の紅の瞳が細められ、が見る方向を睨む。 手は自然と、背中に隠している銀色の本へと伸ばされる。 ゆっくりと撫でれば独特の模様を感じられる。 インターホンが訪問客を告げると同時に、本をそこから取り出してしっかりと手に持った。 再び鳴るインターホン。 それは平和が崩れる音のようにも聞こえる。 近づいても、の視線は誰かがやってきた玄関に釘付け。 それだけ、集中しているのか。 はたまた緊張しているのか。 …には、どうでもいい。 「……、行こう」 「!」 重要なのは、共に在ること。 共に、戦うこと。 それだけ。 その場から動かずにいるの手をは取った。 温かい、大きな手を。 そこではビクリ、と動いた。 どうやら気持ちはもう戦いに行っていたらしい。 いきなりの手の感触に驚いて目を見開いた。 「…」 「行こう。…一緒に、戦おう」 紅の瞳は真っ直ぐに銀色の瞳を見上げていた。 覚悟を決めたそれは力強い光を帯びている。 まるで、太陽のよう。 覚悟は決めているのだ。 とっくのとうに。 「…」 名前を呼べば、は微笑む。 力強く手を握り返せば、握り返してくる。 共に、戦ってくれることを、再認識させてくれる。 は、ゆっくりと笑顔を浮かべた。 「…ええ、行きましょう」 インターホンが三度目の音を鳴らす。 二人はお互いに頷きあって、同時に歩み出した。 しっかりとした、足取りで。 相手の待つ、玄関へと外から。 顔を出せば、玄関の前に人間が二人見えた。 一人は女の子…いや、女性だろうか。 金色の美しい髪が太陽の光を弾く。 耳より前にある長い髪は縦に巻かれていて、どこぞのお姫様のような身なりだ。 服装も、ピンク色のドレスに近いワンピース。 一人は彼女より低い身長の、男性、だろうか。 言うなれば、黒い。 髪も、羽が沢山ついてるような服も漆黒。 恐い顔、そして、殺気の篭ったオーラ。 彼は間違いなく魔物だろう。 そして。 強い、と肌で感じられた。 「…留守かしら」 そう呟いた女性の声は気品が溢れていた。 日本語ではなく、どこぞの外国の言葉。 英語ではなく、恐らくフランスとか、そこらのものだろう。 だが、何故だろうか。 意味が、分かる。 は、何ともなさそうに一歩前へと進んだ。 「……此方ですよ」 「!」 声をかければ二人一緒に振り向く。 青い瞳は開かれたが、黒い瞳は細められている。 いや、睨みつけている、だろうか。 反射的にの手を握ると、同じように返してくれる。 そして彼は、いつもよりも挑戦的な笑みを浮かべた。 「誰かと思えば…貴方でしたか、ブラゴ」 銀色の瞳は、睨みつけている魔物を捉えている。 ブラゴ、と呼ばれた彼は殺気を溢れさせ、同じように笑んだ。 それは、と比べにならないほど、恐ろしいものだ。 「フン…ここにいたか」 「知り合いなの?ブラゴ」 一緒にいた女性が問う前で、も同じようにを見上げた。 この会話からして、とブラゴは知り合い。 しかも、の中では未だに言語理解が出来ることに戸惑いを覚えてしまってならない。 聞きたいことが沢山あって、何も言えずに見上げてしまっていた。 はそれが分かっていたのか、優しく微笑んで紅の瞳を見やった。 「魔界で、ブラゴは結構有名だったんですよ。いろんな意味で」 「…へぇ」 「で、言葉が分かるのは、深く考えちゃダメですよ。いろんな都合があるんです」 「………へぇ」 何が有名だったのだろう、このブラゴという魔物は。 そして言葉が分かるのはどんな都合だ。 ツッコミたいのは多々ある。 しかし、今はそれどころじゃなさそうだ。 何故なら目の前にいるのは知り合いでありながらも、敵、なのだから。 あちらも事短い説明で終わったらしい。 ブラゴと呼ばれた魔物との会話を終えて、彼のパートナーであろう女性は青い瞳をあげた。 「そう。分かっているけど一応挨拶は大切よね。…私はシェリー、そしてブラゴよ」 女性の名前はシェリー、というらしい。 意志の強そうな瞳がとても印象的だ。 凛々しく、堂々としている二人に、は「あ」と声をあげて頭を下げた。 「あ、挨拶ありがとう。俺は。よろしく」 「シェリーさんは初めまして、と申します」 と同じようにも隣で頭を下げる。 少し緊張していたために、繋いだ手が汗ばんでいる。 というのも、あのマグカップとはワケが違うほど、肌で強さを感じる魔物を前にしているのだから。 繋いだ手が、唯一の支え。 だが、手を引くつもりなどどこにもない。 頭を上げた二人の瞳は、力強く光っていた。 |